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第178話 どう見ても子供やんか

「「ちょんまげ……ぷふっ……」」

「話には聞いておったが、面白い髪じゃのう……くくくっ」


 ヒデアツの独特な頭がツボにハマったのか、双子が顔を見合わせながら吹き出している。

 メルテラも笑いを堪えるように喉を鳴らした。


「めちゃくちゃカッコええやろ? 最近の若いもんはすっかりせえへんなってもうたけど、やっぱサムライはこうでないとな。ほんま勿体ないわ」


 嘲笑されているにもかかわらず、ヒデアツは自信満々に胸を張る。

 どうやら彼は好きでこの髪型をしているようだ。


「そんなことより、一体これはどんな状況やねん?」

「それが、この国の存亡にも関わる重大な問題に直面しとってな」


 カナエが問うと、ヒデアツは神妙な顔になった。

 言葉遣いのせいで深刻さが半減しているが、国の存亡と聞いてカナエも真顔になる。


「どういうことや?」

「うむ。実はトヨトミ家の神器を狙う連中がおってな」

「神器を?」

「……とは何ですか、カナエ?」


 首を傾げるアンリエット。

 問われたカナエの代わりに、ヒデアツが説明してくれた。


「知っての通り、この国は四つの将軍家が分割統治しとるんや。しかし本来、国を治めるべきは天帝家と呼ばれる一族でな。うちら将軍家はいわばその代理。天帝家に代わって国を任されとるわけや」


 天帝家。

 それはこの国を作ったとされる、最も古くて尊い家柄だという。


 神話では天から降りてきた、神々の血を引く存在と言われていて、ヤマト国は彼らの元で栄えてきた。


「しかし今から二百年ほど前。各地の武将たちが自領の拡大を目論み、血で血を洗う戦乱の世となってもうた。それを嘆き悲しんだ天帝家は、どこかへ去ってしまったんや。それからや。この島国をかつてない天変地異が襲ったのは。……これはいかんと、四人の武将たちが力を合わせ、戦いを終わらせたんや。すると不思議なことに、彼らの元に天帝家に伝わるとされる四つの神器が降ってきた。その四武将っちゅうんが、今のトクガワ、トヨトミ、ダテ、モウリ家や」


 つまり、とヒデアツは続ける。


「神器っちゅうのは、うちらが天帝家の代理であるという正当性を証明するめっちゃ重要なものなんや。それを奪おうっちゅうなんて、とんでもない話やで」

「それで厳戒態勢ってわけか。やけど、このオオサカ城に攻め込んで神器を奪うなんて、普通そんな真似できへんやろ?」

「そのはずなんやが……」


 万一、外に漏れると大変な情報なのか、ヒデアツは声を潜めて告げた。


「実はな……すでにダテとモウリ、この両家が保管しとった神器が奪われたって話や」

「な、なんやて!?」


 カナエが思わず大きな声を上げた。


「青天の霹靂やったみたいや。当然、今のオオサカ城みたいに警戒してへんかった。それでも、あっという間に城内への侵入を許し、隠してあった神器を奪い去られたそうや。しかもその際、力のあるサムライが何人もやられてもうたらしい」

「い、一体それはどんな連中やったんや?」


 先ほどまでの陽気さが嘘のように、ヒデアツはぶるりと身体を震わせてから、恐る恐るそれを口にした。


「ニンジャや」


 ニンジャ。

 それは戦国の時代に暗躍した破壊集団だ。


 その起こりは定かではない。

 しかし鍛え抜かれた肉体と高い隠密能力を持つ彼らは、様々な武将と契約し、敵対する相手の元へと忍び込んでは、諜報や裏工作、さらには暗殺までをも行っていた。


 正々堂々を理想とするサムライに対し、彼らニンジャは目的のためなら手段を選ばない。

 それゆえ大いに恐れられていたのだが、戦乱の時代の終焉とともに姿を消したはずだった。


「それがなぜ今になって姿を現したのか……。それに何のために神器を……」


 いずれにせよ、トヨトミ家の威信にかけて、神器を奪われるわけにはいかない。


「もっとも、ご当主様の命令で、オオサカ中の凄腕のサムライを城内に集めたからな。周辺も厳しく見張っとるし、ネズミ一匹城内には入れへんはずや」


 ヒデアツは明るく断言してみせる。


「ちなみにその神器ちゅうのはどこに保管しとるんや?」

「それはわしにも分からへん。恐らく本城内のどっかやとは思うんやけど、詳しい場所はご当主様しか知らへんのや。当然、本城はオオサカでも最強のサムライたちが護っとる」


 なんか大変なときに来てもうたなー、とカナエは呟いて、


「まぁでも、うちらこう見えてもそれなりに強いからな。万一のときは力を貸すでー」

「はは、まぁありがたく気持ちだけ戴いとくわ」

「いや、ほんまやて。特にこのリオンはんとかな」

「どう見ても子供やんか」

「せやけど、ここに集まっとるサムライ全員が束になってもまず敵わへんで」


 自分のことではないのになぜか勝ち誇るカナエ。

 リオンは勝手に名前を出すなよと思う。


「それは聞き捨てならへんで、カナエねえ」


 と、割り込んできたのはカナエの従弟ヒデカツだ。


「ここに集まったサムライたちは名のある道場で師範をやっとったり、流派で免許皆伝を得とるようなもんばかりや。試合うだけでも十年早いで」

「ほな、試してみるか?」

「随分と自信あるみたいやな? ええやろう」


 そしてなぜかリオンはサムライたちと手合わせすることとなったのだった。


「えええ……」



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