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第173話 まだいるでござる

「アンチカース」


 リオンは解呪の魔法を唱えた。


「ぎゃっ!?」


 女サムライが悲鳴を上げる。


「……簡単には祓えないか。随分と強力な呪いだな」

「何をするでござる!? まさか今、解呪の魔法を使ったのではござらぬだろうなっ!?」

「え? 使ったけど?」

「貴様、先ほどの拙者の話を聞いていなかったでござるか!? ここは拙者の想いに応えて、勝負を受けるのが当然の流れであろう!?」

「いや、だって……面倒だし……」

「拙者の積年の想いがっ! 面倒の一言で片づけられたでござる!?」

「けど、祓ってしまったら一緒だろ?」

「一緒ではござらぬ! デリカシーのない男でござるな! 武士の情けという言葉を知らぬのか!」


 この国特有の慣用句を持ち出されても困るリオンだった。


「……分かったよ。じゃあ、相手してやったら満足して祓われてくれるんだな?」

「うむ! 武士に二言はないでござる! 負けても勝っても文句は言わぬ! 大人しく消えるでござるよ!」







 ――五分後。


 女サムライは地面に膝を突き、わなわなと唇を震わせていた。


「な、なぜでござる!? なぜ、手も足も出ないでござる!?」

「俺の勝ちだな」


 互いに剣だけでの一対一。

 サムライの精神にのっとって、小手先を排した真正面からのぶつかり合い。


 なのに、リオンが終始圧倒し続け、僅か五分足らずで勝負がついてしまったのだ。


「ぜ、前回よりも差が広がっているなんて……っ! いや、そんなはずはないでござる! 拙者はひたすら剣の道だけを求めてきたでござるよ!?」

「まぁ、なんにせよ残念だったな。というわけで、約束通り――」

「い、今のはノーカンでござる!」

「え?」

「考えてみたら、ちゃんと準備運動をしていなかったでござるからな! 今ので身体が温まったでござるから、今度こそ本当の勝負でござる!」

「……精神体に準備運動など必要ないと思うんだが」


 呆れつつも、このままでは大人しく逝ってくれそうにない。

 もう一度負ければ、はっきりと力の差を理解できるだろう。


 仕方なくリオンはもう一戦、応じるのだった。







 ――再び五分後。


「もう一戦! もう一戦でござる! 今のもノーカンでござるよ!」

「……何でだよ。今度こそ本当の勝負じゃなかったのかよ?」

「我が国では、こうした試合は三番勝負で行うと決まっているでござる!」

「三番勝負って、どっちかが二勝したら終わりじゃないのか?」

「……や、やっぱり五番勝負だったでござる! 先に三勝した方が勝ちでござる! つまりあともう一戦でござる!」







 ――またまた五分後。


「七番勝負! 七番勝負でどうでござろう!?」

「どうでござろうって……どれだけ前言撤回するんだよ……。最初、武士に二言はないとか言ってただろ」


 リオンの理解が正しければ、一度口にした言葉を取り消したりするのはサムライの精神に反するから絶対にしない、という意味だったはずだ。


 二言どころか、すでに四言である。


「この通りでござる!」


 見事な土下座を決める女サムライ。

 さすがは土下座の発祥地だけあって美しい所作だが、もはやサムライの潔さなど皆無だ。


「いいや、もう終わり。だいたい幾ら戦ったところで結果は同じだって」

「くっ……だいたい、どう考えてもおかしいでござるよ! あのときはここまでの差はなかったはずなのに……っ!」

「まぁ剣の差というより、ステータスの差だな」

「す、ステータス、でござるか……?」


 この精神世界にあっても、どうやら現実のステータスが反映されるらしい。


 しかしリオンは現在のものだが、恐らく目の前の女サムライは死んだときのものだ。

 つまり女サムライは剣のスキルこそ向上しているものの、ステータスはまったく変化していないことになる。


 前世のリオンは、四系統のジョブをクラスⅢまで極めていた。

 だが今のリオンはそれに、従魔士系統と調理士系統までもが加わっている。


 どちらも戦闘に向かない系統とはいえ、それでもクラスⅢまで極めれば、それなりにステータスの向上に寄与するものだ。

 結果、リオンはそのステータスにおいて、すでに前世の自分を大きく超えてしまっているのである。


「というわけだから、もう剣のスキルを幾ら上げたところで、どうしようもないくらいの差があるってこと」

「そん、な……」


 がっくりと項垂れる女サムライ。


「あ、視界が……」


 突然、リオンの視界が薄れ始めた。

 ようやく諦めてくれたのか、女サムライの姿が消えていき、やがて暗闇から明るい光の中へ。


 気がつくと道場の中庭だった。


「リオンはん!?」

「リオン殿!?」

「おい、お主、大丈夫か!?」


 心配そうに叫んでいるのはカナエやフィーリア、それにメルテラだ。

 どうやら戻って来たらしい。


「しかもまったく時間が経ってないみたいだな」


 意識が飛んだときとほぼ同じ光景だった。

 リオンの手にはやはりあのヒヒイロカネの剣がある。


「大丈夫だよ。なんともない」

「ほ、ほんまか? いま一瞬、魂が抜けたみたいになっとったで?」

「やはりその剣は危険ではないのか?」

「ううん、中にいたサムライがいなくなって、ちゃんと呪いのない剣になったはず――」




『拙者はまだいるでござる!』




 まだいたようだ。


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