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第172話 久しぶりでござるな

「……」

「大人しくなったな」


 腕ごと剣から切り離されたことで、先ほど前の暴れっぷりが嘘のように、アンリエットは動かなくなる。

 リオンは地面に転がった剣を踏みつけ、切断された手首だけを拾い上げた。


「ヒール」


 それを断面に押し当てて回復魔法をかけると、あっという間にくっ付いてしまった。


「た、倒したのか……?」

「助かった……」

「あんな子供がたった一人で……」


 まだ動ける門下生たちが、緊張から解放されてへなへなと腰を折る。


「エリアヒール」


 怪我人が多数いるため、リオンは範囲回復魔法を使ってやった。


「け、怪我が……?」

「これもあの少年が……?」


 リオンは近くを漂っていたシルヴィアに言う。


「もしかしたら範囲外にも怪我人がいるかもしれないから、探して治癒してきてくれ」

「任せてください!」


 見える範囲までは治癒したので、後は彼女に任せることにした。


「アンリ!」

「大丈夫?」

「アンリエット殿は無事かっ?」


 そこへカナエたちが駆け寄ってきた。


「大丈夫。眠ってるだけだよ。それにしても……」


 リオンは足で踏みつけていた剣を見降ろす。


「うん、これ、呪われてさえいなければ本当に良い剣だよね」


 ヒヒイロカネ製と思われる剣。

 この国で打たれた剣らしく、片刃で、僅かに刀身が婉曲している。


 リオンが前世で装備していた超高性能な武具たちと比較しても、決して見劣りしないだろう。


「僕の剣はまたダメになっちゃったし……これ、使えないかな?」

「ちょっ、リオンはん、やめてや!? リオンはんが呪われたらどうしようもなくなるで!」


 不穏な空気を察したのか、カナエが慌てて忠告する。

 しかしリオンはそれを意に介さず、


「まぁ、たぶん大丈夫じゃないかな? ほら」

「「「っ!?」」」


 軽く言って、無造作にその剣を拾い上げるリオン。


 幾つものクラスⅢジョブを極めたリオンの状態異常耐性は凄まじい。

 ちょっとやそっとの呪いなど完全に無効にしてしまうため、前世では普通にデメリット無しで呪いの武具を装備していたほどだ。


「って、あれ……?」


 不意に遠ざかる意識。

 目の前が段々暗くなっていく。


「リオンはん!?」

「リオン殿!?」

「おい、お主、大丈夫か!?」


 そんな周りの叫び声を遠くに聞きながら、リオンは――








「……どこだ、ここは?」


 ――気がつくと真っ暗な空間に立っていた。


 何となく地に足がついていないような、ふわふわとした不思議な感触がある。

 まるで夢の中にでもいるかのようだった。


「久しぶりでござるな」


 暗闇の中から声がした。

 ゆっくりと姿を現したのは、この国特有の「ハカマ」と呼ばれる衣服に身を包み、長い黒髪を頭の後ろで一本に結わえた、若い女サムライだった。


「……誰?」


 リオンは首を傾げた。


「っ……貴様っ、拙者のことを覚えていないというのか!?」

「ええと……?」


 どこかで会っただろうか。

 生憎とまるで思い出すことができないが、このパターンはここ最近何度もあったな……と、思わず遠い目になるリオン。


「誰かと間違えてるんじゃないかな?」

「間違えてなどないでござる! あれから一度たりとも貴様をっ……あの屈辱を忘れたことなどなかったでござるからなっ、勇者リオン……っ!」


 またいつものやつだ……前世の自分はどれだけ周りが見えていなかったのだろうと自省する。

 それでも一縷の望みに賭けて、リオンは知らないフリをしてみた。


「勇者様……? うーん、僕は見ての通りまだ子供だし……勇者様は百年も前に死んじゃってるはずだよ、お姉ちゃん」

「子供だと? 貴様のどこが子供でござるか!」

「え?」


 言われて自分の身体を見てみる。

 するとそこにあったのは、最近すっかり見慣れていた子供の短い手足ではなかった。


「これは……前世の、俺……?」


 生憎と顔までは確認できないものの、手の形や足の長さ、それに筋肉の付き方など、明らかに前世で勇者だったときの自分だった。


「ここは精神世界でござるからな。それが貴様の魂というわけでござる」


 どうやら言い逃れはできないらしい。


「勇者リオン! 貴様が拙者にした辱め、忘れたとは言わせぬでござるぞ!」

「……わ、悪い。マジで全然覚えてないんだ」

「貴様……っ! またしても拙者を侮辱するでござるか……っ!」


 めちゃくちゃ怒っている。

 今にも腰にさしてあるヒヒイロカネの剣を抜いて斬りかかってきそうだ。

 精神世界で斬ったりできるのかは定かではないが。


「貴様に敗れたばかりかっ、魔王討伐の旅の同行まで断られた拙者がっ、一体どれだけサムライとしての名誉を傷つけられたことか……っ!」


 やっぱりこのパターンか……とリオンは思った。


「あの後、貴様を呪いながら、拙者は腹を切ったでござる!」

「何でそんなことで腹を切るんだ……」

「しかしその怨念がこうして拙者の使っていた剣に宿ったでござるよ。そして何人もの剣士の身体を乗っ取りながら、ただひたすら最強の剣技を求めて戦い続けたでござる。……生憎と五十年ほど前、神社に封印されてしまったでござるが」


 ともかく目の前の女サムライは、無念を残して自害した彼女の残留思念のようなものらしい。

 ゴーストとなったシルヴィアと似ているが、元が怨念だけになかなか厄介だ。


「しかし、まさか貴様に再び相まみえることができるとは思わなかったでござる」

「っ?」


 そのときリオンの手の中に剣が出現する。

 かつて前世のリオンが使っていた剣と瓜二つのものだった。


「さあ、ここで拙者と再戦するでござる! 今度こそ貴様に勝利し、拙者が世界最強の剣士であることを必ず証明してみせるでござるよ……っ!」


 復讐に燃え、剣を構える女サムライ。

 それに対してリオンは、


「アンチカース」


 解呪の魔法を使った。



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