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第169話 こりゃ異国の金だろ

「「ぱくっ、もぐもぐもぐもぐもぐ、ごくん。……ぱくっ、もぐもぐもぐもぐ、ごくん。……ぱくっ、もぐもぐもぐもぐ、ごくん。……おかわり!」」


 双子がその旺盛な食欲を大爆発させていた。


 ヤマト国に辿り着いたリオンたちは、早速腹ごしらえをとばかりにスシ店へ。

 本場の、しかも取れたばかりの新鮮な魚介で握られたスシは、最近リオンの料理のせいで舌が肥えてきている双子にも、満足のいくものだったようだ。


 驚く板前や客たちの前で、出された傍から次々と小さな口の中へと消えていった。


「「おいしい!」」


 もちろんワサビ抜きである。


「くくくっ、わらわはワサビがあっても食べることができるのじゃ。こう見えて大人じゃからのう」


 よく分からないマウントを取りながら、メルテラがワサビ入りのスシを口に入れる。


「~~~~っ!?」


 ……思っていたよりワサビが効いていたらしい。

 涙目になりながらも、偉そうに言った手前、我慢して呑み込むしかなかった。


「う~、私だけいつも仲間外れです~」


 シルヴィアは悲しそうに店内を飛び回っている。


 そのとき、近くの席から何やら気になる客の話し声が聞こえてきた。


「道場破り、まだ倒されてねぇんだってな」

「いや、噂じゃ、一度はある道場で敗れたらしいぜ。けど、その道場破りを破った剣士が、新たに道場破りになっちまったとか」

「どういうことだ、それは?」

「さあな」


 この国では剣術が非常に盛んだ。

 それを支えているのが、道場と呼ばれる訓練システムだ。


 リヨンも前世でその道場の一つで軽く手合わせをしたことがあった。

 圧勝してしまったが……。


「それに二代目の道場破り、何でも赤い髪をした異国の女だとか。少し前に船で入国してきたそうだ」

「異国の女?」

「ああ。それにとびっきりの美女らしいぜ」

「へえ、それが道場破りねぇ」


 こっそりその話を聞いていたリオンは、ふとある人物の顔を思い浮かべた。


(赤い髪の、異国の女剣士……いや、まさかな)


「「たべた!」」


 どうやらようやく双子がお腹いっぱいになったらしい。

 よく見ると小さな腹がパンパンに膨らんでいる。


 しかし会計を済ませて店を出ようとしたときだった。


「え? このお金、使えないんだっけ?」

「おいおい、こりゃ異国の金だろ? 使えねぇに決まってる」


 リオンが持っていた貨幣が、この国では利用できないことが分かったのだ。

 強面の店員が睨みつけてくる。


「入国の際に両替できたはずだぞ」

「えーと……」


 定期船が運航しているが、リオンは勝手に海を渡って入国している。

 だが土で作った船で来たと言って、信じてくれるはずもない。


(マズイな……両替が必要なこと、完全に失念してた……)


 すでに散々食べまくった後だ。

 店員が威圧的に詰め寄ってくる。


「まさか、払えねぇってんじゃないだろうな?」

「う、うん……ええっと……」

「ちっ、岡っ引きを呼べ」


 岡っ引きというのは、警備や犯罪者の拘束など、役人に代わって街の治安維持に協力している者たちのことだ。

 彼らに連行されて、奉行所と呼ばれる役所に連れて行かれると、厳しい取り調べを受けることになるだろう。


(逃げたらますます罪が重くなるだろうし……まぁ絶対に捕まらない自信はあるが)


 面倒ではあるが、ここは大人しく役所まで行って事情を話すしかないだろう。

 両替して後から店にお金を支払えば、ちゃんと放免してもらえるはずだ。


 そんなことを考えていると、


「近くにロリショタがいる!」

「え? ほんまか?」

「間違いない! ロリショタのにおい!」


 外からどこかで聞いたことのある声が聞こえてきた。


「ロリショタは……ここ!」


 そして足音が近づいてきたかと思えば、店の扉が勢いよく開かれる。


 暖簾の向こうから顔を出したのは、リオンの予想通りの人物だった。


「ロリショタいたああああああああっ!」

「「~~~~っ!?」」


 冒険者ティナが双子に飛びかかる。

 双子は素早く飛び下がって彼女の突進ハグを躱すと、無防備な背中に飛び乗ってそのまま組み伏せてしまった。


「わたしは今……ロリショタの下敷き……幸せ……はぁはぁ……」


 恍惚とした顔をするティナに少し遅れて、黒髪の爆乳魔法使いが飛び込んでくる。


「リオンはんっ! 会いたかったでええええええぶごっ!?」


 リオンは咄嗟に結界を張ってカナエの接近を阻止した。


「酷い! せめてうちもリオンはんの下敷きにしてほしかったで!」

「うん、とりあえず静かにしてよ。ここお店の中だから」


 周りからの視線が痛い。


「あれ? アンリお姉ちゃんは?」


 いつもならこの二人を窘める赤い髪の常識人がいないことに気づいて、訝しむリオン。

 カナエが涙目で叫んだ。


「そうやった! リオンはん! お願いや! うちのアンリを助けたって!」


 リオンは少し考えて、言った。


「……その前に僕たちを助けてくれたら、詳しい話を聞いてあげてもいいよ」

「ほんまか!? それで、リオンはんらを助けるって……?」

「お金」

「へ?」


 渡りに船とばかりに、ひとまずお店の代金をカナエたちに立て替えてもらうことにしたのだった。


「って、高っ!? じぶんら、どんだけ食べおったんや!?」


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