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第168話 受けた勢いを利用して

「「「ど、道場破りだあああああっ!?」」」


 門下生たちが一斉に叫んだ。


 道場の入り口にいたのは、噂のざんばら髪の男である。

 身長はこの国では平均的なくらいだろうが、頬がこけてしまうほど痩せていて、ボロ雑巾のような衣服を身に付けていた。


「……者は……どこ、だ……拙者……こそ、最強……証明……する……」


 何やらぶつぶつ呻きながら、道場内へと入ってくる。


「道場破り……っ!」

「ほんまに出たで!」


 門下生たちが怯えながら後退る中、アンリエットたちは素早く武器を構えて臨戦態勢を整える。

 しかし彼女たちよりも先に、その闖入者と対峙する者がいた。


「……皆、下がっておれ」


 この道場の師範である老人剣士だ。


「き……様……か……」


 長い前髪の毛の隙間から覗く道場破りの目が、老人を睨めつけた。


 次の瞬間、その姿が掻き消えていた。

 気づいたときにはすでに、老人剣士へ上段から剣を振り下ろすところだった。


 キイイイインッ!!


 だが甲高い金属音を轟かせながら、その一撃は老人の頭上から逸れ、僅かに肩を掠めるだけに終わる。

 老人が驚異の動体視力で敵の動きをとらえ、見事に己の剣で受け流してみせたのだ。


 そこから得意の反撃を繰り出そうとしたときだった。


 ブシュウウッ!!


「が……っ!?」


 老人の肩から血が噴き出す。


「「「し、師範~~~~っ!?」」」

「何や!? 何が起こったんや!? ただ掠っただけやったやろ!?」

「そ、その掠っただけで、相手の肉を抉るほどの斬撃だったのです……っ!」

「なんやて!?」


 出血量が凄まじく、すぐに止血しなければ命にかかわるほどの大怪我だ。


 しかし老人は倒れずその場に踏みとどまった。

 まだその目から戦意は失われていない。


 この状態でも最後まで戦う気なのだ。

 だがそんな彼のサムライ精神など、道場破りにとっては知ったことではなかったようで、


「……もろ、い……こいつ、じゃ……ない……」


 そう残念そうに吐き捨てた道場破りはもはや剣すら使わずに、老人の腰へと強烈な蹴りを見舞った。

 小柄な身体が吹き飛ばされ、それを慌てて門下生たちが受け止める。


「す、すぐに治療を!」

「けど、まだ道場破りが……」

「ここは私たちに任せてください!」


 そう叫び、老人に代わって道場破りに挑んだのはアンリエットだ。


「……者は……お前……か……?」


 道場破りはそれに応じるように剣を構え、


 ドンッ!


 床を蹴った。


 またしても信じられない速度で彼我の距離を詰めた道場破りの剣が、アンリエットに襲い掛かる。


「はぁっ!」


 しかし彼女にはそれがはっきりと見えていた。

 自らの剣で迫る斬撃に即応する。


 ガキイイイイイインッ!!


(ぐっ……なんて力ですか……っ! こんなガリガリの身体の一体どこから……っ!?)


 腕力にはそれなりの自信があったアンリエットだが、完全に相手の力に押されてしまう。


 そこから道場破りの猛攻。

 アンリエットは防戦一方で、辛うじて捌いていくことしかできない。


 しかもその度に凄まじい衝撃が腕を駆け抜け、どんどん痺れていく。


(このままでは手が持ちません……っ! ならばっ……先ほどの老剣士のようにっ……受け流す……っ!)

「っ?」


 初めて道場破りが驚いたように見えた。

 アンリエットが見様見真似で繰り出した受け流しが決まり、見事に相手の体勢を崩すことに成功したのだ。


「なっ……」

「まさか、今のは師範が得意な受け流し……っ!?」


 初見だったにもかかわらず、門下生たちが驚くほどの再現性だったようだ。

 だが当の本人はそれに喜ぶ余裕などない。


(ここからです……っ! 受けた勢いを利用してっ……斬るっ!)


 体勢を崩された道場破りは即座に立て直しを図るが、それよりアンリエットの方が早かった。


 ザンッ!!


 渾身の一撃が道場破りの指を何本か切り飛ばした。

 握れなくなった剣が宙を舞い、勢いよく床へと突き刺さる。


 そして悲鳴を上げるでも痛がるわけでもなく、まるで突然、糸でも切れてしまったように、道場破りは無言でその場に倒れ込んでしまった。


「はぁ、はぁ……や、やりました……?」


 道場破りが起き上がってくる気配はない。

 カナエがこわごわ近づく。


「なんやったんや、こいつ? うわっ、臭っ」

「カナエ、気を付けてください」

「心配ない。完全に気を失っている」

「……奇妙だな? 指を切られただけでこうなるだろうか? この国の剣士は自ら腹を切るような剛の者が多い。この程度の負傷で気絶するとは思えぬのだが……」


 フィーリアの指摘はもっともだった。

 もちろんこの道場の門下生たちのような気弱な者たちもいるだろうが、何件もの道場に単身で乗り込んでいたような男が、少々の怪我で気を失うはずもない。


 と、そこでアンリエットが気づいたのは、床に刺さった剣だ。


「この剣……何でしょう? 何となく、嫌な感じが……」


 そう呟きながらも、吸い寄せられるように近づいていくアンリエット。

 そして恐る恐る手を伸ばし、その柄に触れた瞬間だった。


「~~~~~~っ!?」








「ん? アンリ? どないしたんや?」


 アンリエットの異変に気づいて、カナエが怪訝な顔をする。

 剣を床から引き抜いた親友が、なぜか虚ろな目をしてふらふらと道場から出ようとしていたのである。


「って、その剣、この道場破りのおっさんの……」

「トイレ……の雰囲気じゃない」

「あ、アンリエット殿?」


 仲間たちの呼びかけを無視し、アンリエットは道場から飛び出す。


「……者は……どこ、だ……拙者……こそ、最強……証明……する……」


 そんな呻き声を残して、彼女はどこかへ去っていってしまった。


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