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第167話 勝手に破れそうやけど

「この道場もですか……」

「どうやら軒並みやられているようだな」


 アンリエットたちはその後も幾つかの道場を回ってみたが、どこもすべて道場破りに遭い、看板を下ろしてしまっていた。

 しかもどうやらまったく同じ道場破りらしい。


「とにかく恐ろしく強かった……。武士道に反するとは思ったが、門下生と全員でかかったにもかかわらず、返り討ちにあってしまったのだ。……む? その男の特徴か? ざんばら髪で、ニオイも酷く、何日もロクに風呂に入っていなさそうな感じがしたな。それに話しかけてもまるで意思疎通が取れない、終始ぶつぶつと呻いているだけだった。目は血走り、まるで何かに憑りつかれているようで……ああ、思い出しただけで身体が震えてくる……」


 道場主の一人がそのときのことを振り返って教えてくれた。


「あと、奴の剣だ。あんな切れ味のやつは見たことがない。もしかしたら伝説のヒヒイロカネ……いや、さすがにそんなはずはねぇか」


 その道場破りの男は、全員を倒した後、すぐに姿を消してしまったらしい。

 恐らくまた別の道場を狙って移動したのだろう。


「一体何の目的で道場破りをしているのだ?」

「分かりかねますが……放っておけませんね、その男」

「いや、放っておいたらええと思うけど」

「ロリショタ以外興味なし」


 そんなわけにはいかない、とアンリエットは首を振った。


「このままだとハラキリが続出してしまいます」


 ハラキリをしようとしていたのは、最初に会った道場主だけではなかった。

 何人ものハラキリ未遂者と遭遇していたのである。


「なんであんなに腹を切りたがるんやろな……」

「それだけではありません。その剣士がどれほどの腕前なるのか、同じ剣士として興味があるのです」


 言い出したら聞かない性格だと分かっているカナエは、溜息とともに「仕方あらへんなぁ」と呟いて、


「戦うんやったら一つだけ約束や。もし危険やと判断したら、うちらも加勢するからな」

「うむ、それがいいだろう。アンリエット殿の力を疑うわけではないが、相手はこの国の剣士たちをまるで寄せ付けないほどの実力者。無理は禁物だ」

「ええ……そうですね」


 街中の道場が悉く襲撃に遭っていたため、彼女たちは少し街から外れて道場を探してみることにした。

 するとまだ無事な道場を発見することができた。


「ごめんください」

「「「っ!?」」」


 アンリエットが声をかけると、道場内で訓練中だった剣士たちが物凄い速さで一斉に振り返ってきた。


「ひぃっ……ど、道場破りっ!?」

「ま、まさか、こんな弱小道場にまで……っ!?」

「いやよく見ろ! 女だ!」


 どうやら道場破りの噂はここにも届いているらしい。

 アンリエットたちが女性で、しかも異国人であることに気づいて皆が安堵の息を吐いている。


「え、ええと……何の用でしょうか……?」


 おずおずと進み出てきたのは、白髪と髭が目立つ老人剣士だった。


「私たちはその道場破りを追っているのです。どこかの道場を張っておけば、いずれそこに現れるかもしれないと思いまして」

「なるほど……しかし見ての通り、ここは私のような老人が師範を務める小さな道場でして。道場も古くて汚いですし、さすがにこんな道場をターゲットにする道場破りはおりませんよ」


 確かに言われてよく見てみれば、相当な築年数を経ているのか、あちこち建材が剥がれかかったり、酷いところは壁や床に穴が開いていたりしている。

 道場の看板も随分と前に作られたものらしく、文字が掠れてほとんど見えなくなってしまっていた。


「まぁ、確かに破らんでもそのうち勝手に破れそうやけど……」

「こら、カナエ」


 ぼそりと酷いことを呟くカナエを、アンリエットは窘める。


「それでも現れる可能性がないとは言い切れません。よければしばらく様子を見させていただいても?」

「それは構いませんよ」


 アンリエットたちは、ついでにこの道場の訓練を見学させてもらうことにした。


「「「やあっ!」」」

「「「とおっ!」」」


 気合いに溢れた声を響かせ、門下生たちが激しく剣を打ち合わせた。


 男ばかりの剣術道場だ。

 普段よりも熱がこもっているのは、異国の美女たちに少しでも良いところを見せたいという下心の表れだろう。


(そうですね……。弱小道場と言っていた通り、あまり力のある剣士はいないようです……)


 生憎とアンリエットが注目するような腕前の者はいなかったが。

 ただ、この国ならではの剣術は興味深く、つい見入ってしまう。


「(おい、あの赤い髪の美人、めちゃくちゃこっち見てるぞ)」

「(マジか……もしかして俺に惚れた?)」

「(いや俺だろ)」


 その熱心な瞳に、門下生たちが勘違いしてしまうほど。


 そんな中、先ほどの老人師範が前に出てくる。

 どうやら門下生を一人ずつ順番に指導を行っていくらしい。


 すると先ほどまで物腰が柔らかかった老人師範から、その小柄な身体からは似つかわしくない強烈な闘気が放たれた。

 アンリエットは思わず目を見張る。


「あのご老人……」


 門下生たちとは比較にもならない強さだった。

 身体も小さく、力も弱そうなのに、門下生たちを歯牙にもかけなかったのである。


「……あの動き、まるでしなやかな木の枝のようです。力を受け流し、逆にそれを利用して、相手に返す……なんという熟練の技でしょうか……」


 と、彼女が感銘を受けているときだった。


 うわあああっ、という突然の悲鳴。

 振り返ると、道場の出入り口に異様な男がいた。


 ざんばら髪で、ボロボロの衣服。

 身体中が赤く染まり、髪の隙間から血走った目が覗いている。


 その特徴に、誰もが確信した。


「「「ど、道場破りだあああああっ!?」」」


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