第166話 動機が不純過ぎるんですよ
リオン一行がヤマト国へと上陸したまさにその頃。
あの女冒険者たち三人組の姿が、ヤマト国内にあった。
「ほんまにこんなとこでリオンはんに会えるんやろうか?」
「ロリショタどこ? ロリショタどこ?」
「分かりませんが、あの占い師に東方の島国に行くといいと言われましたから」
「なんか怪しい占いやったけどなー。ほんまに当たるんやろうかー?」
「ロリショタどこ? ロリショタどこ?」
「他に当てがないのですから仕方ないでしょう」
アンリエット、カナエ、ティナの冒険者パーティである。
いや、それにもう一人。
「アンリエット殿の言う通りだ。久しく何の情報も得られていない今、闇雲に探すしかない状況だ。ならば占いにでも縋るしかないだろう」
背の高い、金髪のエルフである。
彼女の名はフィーリア。
エルフ公国の現公王の妹である彼女だが、謎の少年リオンに逃げられてからというもの、実は単身故郷を旅立ち、その行方を捜し続けていたのである。
その途中、同じくリオン一行を探していたアンリエットたちと出会い、そこから旅を共にしているのだった。
「もっとも、出会えたところでまた逃げられる可能性もありますが」
「何で逃げるんやろか……うちはこんなにリオンはんを愛しておるというのに……じゅるり……」
「ロリショタどこ? ロリショタどこ?」
「二人とも動機が不純過ぎるんですよ……」
呆れるアンリエットは、いっそのことフィーリアと二人だけで探した方がいいのではないかと思い始めていた。
「アンリエット殿はなぜリオン殿を?」
「私は……知りたいのです。彼の強さの秘密を……そして強くなりたいのです。もっとも、こうして旅に出ただけでも十分に有意義だったと感じています。色んな経験ができましたし、何だかんだ剣の腕も上がっているのを実感しています」
「なるほど……」
「フィーリアさんはなぜ?」
「実は私も貴殿と似たような理由だ。彼の強さの秘密……そして正体を知りたい」
「ほ、本当ですか? リオンくんやあの双子によからぬことをしたいとか、そんな邪な理由じゃないですよね……?」
「私はエルフ。嘘はつかない」
「フィーリアさんっ……あなたに出会えて本当によかったです……っ!」
「……?」
今まで頭のおかしい二人に振り回され続けたアンリエットは、思わず涙ながらにフィーリアの手を握り締めた。
やはり彼女と二人きりの方がいいと強く思うアンリエットだった。
そんなやり取りをしていると、一行の前に目的の建物が見えてくる。
このヤマト国は木材が豊富に取れることもあって、家屋はほぼ木造だ。
屋根には「瓦」と呼ばれる独自の建材が敷き詰められていて、この建物も例外ではなかった。
「あれが『道場』ですね」
剣術文化が発展しているこの国には、街中に幾つもこの「道場」と呼ばれる施設がある。
簡単に言えば剣の稽古を行うための場所なのだが、中には何百人もの在籍者がいる人気の道場もあるという。
そして指導者から剣の腕を認められることで、「サムライ」と名乗ることが許されるようになるらしい。
ちなみにこの「サムライ」は昔、一部の支配者層をさす言葉だったそうだが、現在は誰でも剣を極めればなることができるという。
「楽しみです。今の私の剣がどれだけ通用するか」
アンリエットがこの島国に来ることを決めたのは、ただ怪しい占いだけが原因ではない。
ここでヤマトの剣術を学ぶことで、さらに腕を磨こうというのである。
「変だな? この時間、すでに門下生たちが厳しい稽古をしていると聞いていたが……随分と静かだ」
「確かにそうですね……ごめんください!」
門のところで呼びかけてみるが、誰かが出てくる様子はない。
「どうなっとんのや?」
「行ってみる」
「あ、ちょっと、勝手に……」
カナエとティナが断りもなく敷地内に入っていく。
溜息を吐きながらアンリエットはそれを追った。
すると道場前で黄昏れている一人の男性を発見する。
黒い髪に褐色の肌、それに小柄な体格は、この国の一般的な特徴だ。
「何だ? 入会希望者か? 残念ながら私にはもう剣を教える資格はない」
彼女たちに気づくと、男性は淡々と言った。
「何があったのですか……?」
「これを見れば分かるだろう」
「……?」
男性が指さしたのは、道場の入り口脇の壁だった。
そこには長い時間、何かが掛けられていたような痕が残っていたが、アンリエットたちにはピンと来なかった。
「ええと……」
「よく見たら海外の人たちか」
「は、はい。まだ来たばかりで、この国のことはあまり詳しくなく……」
「……あそこには道場の看板を掛けてあったのだ」
「看板、ですか?」
それはつまり、道場の閉鎖を意味しているのだろうと、この国の文化を知らないアンリエットたちにも何となく分かった。
「数日前に道場破りが現れたのだ。そして……一対一の決闘で、私は負けた。信じられないほど強い相手だったが、それを言い訳にする気はない。ただただ、私が弱かったせいだ。決闘で敗北した師範に、道場を続ける資格などない」
いや、と男性は首を振って、
「生きる資格などない!」
懐から小刀を取り出したかと思えば、それを自らの腹に突き立てようとする。
「「「ハラキリ……っ!?」」」
海の向こうから来たアンリエットたちですら聞いたことのある、この国の有名な伝統文化の一つだった。
まさかいきなり目の前でそれを見せられるとは思わずに驚愕したものの、慌てて男性を取り押さえた。
「放せ! 儂からサムライの魂すらも奪う気かっ!?」
「お、落ち着いてくださいっ!」
男性から小刀を取り上げ、ひとまずどうにか自殺を踏み留まらせるのだった。
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