第163話 頑張った頑張った
「で、では、王都まで我々で護衛を!」
「それには及ばん。見ての通り戦力は十分だ」
ラグドーの提案を突っ撥ねて、シアン一行は王都へと帰還しようとする。
「な、ならばせめて、馬や馬車をお使いくだされ!」
「そうだな……」
確かに王都までかなり距離があるため、馬や馬車があればありがたい。
だが少しでも自分の罪を軽くしようという一心のこの男に、ここで貸しを作るのは癪だった。
「あ、その必要はないよ」
そう割り込んできたのはリオンだ。
「リオン殿?」
「これに乗っていけば一時間で着くから」
「これ……?」
その指示語がさすものが見当たらず、シアンは首を傾げる。
と、そのときだ。
突如として地面が盛り上がったかと思うと、それが流線型の何かへと変化していく。
「な、何だ、これは!? 土魔法か!? しかし、これほどの土を操るなんて……」
シアンたちの驚愕はそれに留まらなかった。
気づけばそこに巨大な土の船が完成していたのである。
細部まで緻密に船が再現されており、しかも風が吹いても崩れる気配はない。
「おっきい!」
「全員が乗れるように大きくしたんだ」
リオンと双子がそれに飛び乗った。
甲板の上から手を振ってくる。
「お姉ちゃんたちも乗ってよ」
「こ、これは……まさか、陸上を走るとは言わないよな……?」
「え? もちろん走るけど」
「で、出鱈目だな……」
シアンたちが恐る恐る船に上ってくる。
「本当だ……まるで木材、いや、金属でできたように硬い……」
「見ろ、中に入ることができるぞ!?」
「マジでこれが走るのか? 一体どうやって……?」
驚く彼らにリオンは確認する。
「みんな乗ったねー? じゃあ、危ないから念のため手すりにつかまっててねー」
そして魔法で地面を動かし始める。
「「「じじじ、地面がっ……」」」
「「「波打っているっ!?」」」
この土船の推進力は、船の後方の地面を盛り上げて、一時的な下り斜面を作り上げることで得られる。
船自体が大きいため、それだけ地面もダイナミックに動かす必要があった。
「うーん、さすがにかなりの魔力が必要だね」
膨大な魔力を消費しながら、ぐいぐい土船を走らせていく。
「な、何なんだ……あれは……」
ラグドーたちは去っていく巨大な船を呆然と見送っていた。
およそ百キロの道のりを一気に走り抜け、一行は王都へと戻ってきた。
「こんなに早く王都に着くなんて……」
「ちょっと酔っちまったぜ……うっぷ……」
「お、俺も……」
あっという間に到着したことに驚く獣人たちもいれば、吐きそうになっている獣人もいる。
「ふう、疲れた」
少し疲労感を覚えつつ、リオンは城門前で停止させた船を地面へと戻していった。
「船が……」
「保管場所も必要ないってことか……」
綺麗さっぱり消えてしまった土船に目を丸くしながらも、シアンたち反政府軍は久しぶりの王都に感慨深い想いを抱いていた。
「まさか再び王都に戻ってくるのが、このような形になるとは……」
「本当ならこの国の命運をかけた、大勝負となるはずでしたからね……」
と、そこへ。
「シアン様!」
「マチンカ!」
シアンたち反政府派の一員でありながら、近衛兵として王城に残っていた猫人族が駆け寄ってくる。
「ベンガールが倒されたというのは本当か?」
「はい! 間違いありません!」
「そうか……それで、今、王城はどうなっている?」
「ベンガールを初め、ベンガール勢力の主だった者たちは牢獄に捕えてあります。一度、隠れていた残党との小競り合いにはなりましたが、メルテラ殿のお力もあって、大事には至りませんでした」
どうやら残していったメルテラが役に立ったようだ。
自分の名前を出され、一緒に一行を出迎えていた当人が胸を張った。
「ふっふっふ、わらわを褒めてもよいのじゃぞ!」
「はいはい頑張った頑張った」
リオンは雑に褒めてやった。
それでも「お? そうかの? それほどでもないがのう」と嬉しそうにしているから本当にチョロい。
「わたしも頑張ったのに! 誰も気づいてくれないんですよ!」
シルヴィアは不満そうだ。
ゴーストで見えないのだから仕方ないだろうと思いつつ、リオンはついでに褒めておくことにした。
「頑張った頑張った」
「新獣王シアン様っ、万歳っ!」
「「「万歳っ!!」」」
「新獣王シアン様っ、万歳っ!」
「「「万歳っ!!」」」
王城へと帰還したシアンは、それから数日後、ベンガールに代わり新たな獣王として就任することとなった。
前王の娘でもあった彼女だが、多くの獣人たちはベンガールのクーデターに巻き込まれ、すでに亡くなっていると伝え聞いていた。
それゆえ彼女の生存に喜びの涙を流し、獣王への就任を大いに歓迎した。
新獣王シアンはその就任式で、集まった大勢の国民たちの前で宣言する。
「私はベンガールとは違う! すべての獣人たちが等しく尊重され、活躍できる国を作り上げると誓おう!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」
ようやく暴政から解放されるのだと、雄叫びを上げて歓喜する獣人たち。
その日は王都のみならず、国中の街や村で、夜遅くまで盛大な宴が行われたという。
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