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第160話 そんなはずはあるまい

 反政府派の拠点らしきところを見つけたが、まさに魔物の群れに襲われているところだった。


「あいつらは確かアンガーアントだな。奴らに手を出した結果、丸ごと喰いつくされた都市があったっけ」

『こわいのー』


 厄介な蟻の魔物に、獣人たちは苦戦しているようだ。


「「たすける!」」


 駆け出す双子を追って、リオンも走り出す。


 恐らく一万以上はいるだろう、群れの最後尾に辿り着くが、蟻の意識は完全に防壁内の獣人たちに向いているらしく、こちらに気づかない。

 怒りの対象以外には何の興味もないのだろう。


「「えい!」」


 だが双子が最後尾の蟻を叩き潰すと、それが一変した。

 一斉にこちらを振り返って、我先にと勢いよく襲い掛かってきたのだ。


「よっと」


 迫りくる蟻の群れを前に、リオンが横薙ぎに剣を振るった。

 放たれた強力な一撃が五十体以上を一気に粉砕する。


『すーらもたたかうのー』


 数には数で対抗しようという作戦なのか、スーラはその身から次々と分裂体であるベイビースーラを生み出していった。


『みんなでたおすのー』

『『『りょうかいなのー』』』


 百を超えるベイビースーラたちが蟻の群れへと突撃していく。


 スライムに蟻の牙は効かない。

 逆に蟻の身体に巻きつき、強度の弱い首を捻ってしまえば簡単に倒すことができた。


 もちろん双子も負けてはいない。

 いつの間にか獣化すると、間断なく迫りくる蟻を千切っては投げ千切っては投げ、凄まじい速さで撃破していく。


 そんな双子の頭へ、リオンががつんと拳を振り下ろした。


「「~~~~っ!?」」


 涙目で見上げてくる双子へ、リオンは叱責する。


「こういう多数を相手にするときは体力消費の激しい獣化を使うんじゃない。ほら見ろ、もう疲れてきてるだろ」

「「っ……」」


 慌てて獣化を解く双子。

 さらにリオンは続ける。


「あと、できるだけ奴らの意識をこっちに引き付けるように戦うぞ。そうすれば彼らも楽になるはずだ」

「「?」」

「見てろ」


 どうやるのだろうという顔をする双子へ、リオンは実際にやってみせることにした。


 地面を蹴って跳躍すると、蟻の群れに向かって魔法を放ったのだ。

 爆発によって何体かが吹き飛ぶ。


 するとその周辺にいた蟻たちのターゲットが、一斉にリオンへと書き換えられたらしく、挙って押し寄せてきた。


「こんな感じだ」

「「ん!」」


 理解したのか、双子は大きく助走をつけて飛び、群れのど真ん中へ。


 そこで何体かを仕留めると、防壁から離れるようにその場から離脱してくる。

 周辺の蟻がごっそりとそれに引きつけられてきた。



   ◇ ◇ ◇



「い、一体何者なんだ……?」


 突如として現れた謎の集団に、シアンをはじめとする反政府軍は当惑していた。


 人数はせいぜい三人かそこらだ。

 しかも遠くて分かりにくいが、周囲の蟻の大きさと比べると、子供と言ってもおかしくない背丈のように見える。


 こんなダンジョン深くにまで潜ってくるというだけでも信じがたい。

 にもかかわらず、殺到する蟻たちを軽々と蹴散らしているのだ。

 こちらと違って防壁の守りなどないことを考えれば、とんでもない強さである。


 もし敵だったとしたら恐ろしいが、今は警戒しても仕方がない。

 彼らのお陰で、襲いくる蟻たちの勢いが弱まってくれているのだ。


「なんにせよ助かった……っ! 今のうちに一気に押し返せ!」


 シアンは味方を叱咤しながら、防壁を攀じ登ってきた蟻を蹴り倒す。

 一時は防壁を突破されかけていた状況だったが、どうにか持ち直すことができた。


 そうして少なからず余裕ができたことで、再び謎の加勢者たちの様子を確認したシアンは己の目を疑った。


「っ……わ、我々が倒した蟻よりも多いのではないか……?」


 死屍累々の有様で転がるアンガーアントの死体。

 その数が、彼女たちが仕留めた防壁周辺よりも明らかに多かったのだ。


「何なのだ、あの少年は!?」


 中でも圧倒的だったのが、銀髪の少年である。

 剣を一振りすれば、それだけで蟻が数匹、いや、数十匹まとめて吹き飛ぶのだ。


 しかも魔法まで使っているらしく、あちこちで凄まじい爆発が巻き起こっている。


「それにあの二人……どう見ても幼児ではないか……っ!?」


 双子なのか、よく似た背格好の、少年よりもさらに小柄な二人組が、下手すれば自分よりも大きな蟻を次々と瞬殺していた。

 その怪力もさることながら、蟻の突進を軽々と回避する瞬発力も凄まじい。


 包囲しようにも簡単に頭上を飛び越えていくため、蟻たちはもはや翻弄されるだけだ。


「見たところ猫人族か……? あんな幼児がいたなんて……待てよ……五歳くらいの……双子の猫人族……いや、そんなはずはあるまい」


 脳裏に浮かんだとある可能性を、シアンは首を振って頭から追い出す。


 万を超えていたアンガーアントの大群も、もはや残るは数百体だ。

 無数の同族の屍を生み出しながら、それでもまだ諦めずに襲い掛かってくるのがこの恐ろしくも愚かな蟻の特性である。

 最後の一体を倒し切るまでは戦いが終わることはない。


「あと僅かだ! 最後まで気を抜くな!」

「「「おおおっ!」」」


 疲れ切った身体に鞭を打ち、ラストの一体が絶命するまで戦い抜くのだった。


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