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第16話 じゃあ自分で採掘してこよっかな

(悪くない剣だな)


 女性が手にした剣を一目見て、リオンは思った。


 素材はミスリルだろう。

 それゆえ強度こそ大したことないが――あくまでリオンの基準では――高度なスキルで加工されたそれは、そこらの量産品とは一線を画する斬れ味を有しているようだった。


 先ほどのやり取りを聞くに、どうやら彼女が打ったらしい。

 リオンは声をかけた。


「お姉ちゃん、僕も剣を打ってほしいんだけど?」

「ああん?」


 女性が苛立ちを隠さずこちらを振り返った。


 年齢は二十代後半ぐらいだろうか。

 長い黒髪を無造作に頭の後ろで縛っただけで、まるで容姿に気を使っていないようだが、整った顔立ちをした美人だ。


 ただその威圧的な眼光に加え、今は手に剣を持っていることから、荒事に慣れた冒険者ですら彼女に声をかけることを躊躇うことだろう。

 もちろんリオンはまったく気にしていないが。


「なんだ、子供じゃねぇか。見ての通りアタシは今、機嫌が悪ぃんだ。とっとと家に帰りな」


 彼女はそう言い放つと、さっさと工房の中に入ってしまう。

 リオンはその後を追って工房の中に。

 狭い空間は足の踏み場がないくらい、色んな素材で埋め尽くされていた。


「って、聞こえなかったのかよ!」

「ううん、聞こえてたよ」

「だったら帰れよ! テメェみてぇなガキに剣を打つ気はねぇ!」


 怒鳴り声とともに容赦なく叩きつけられる殺気。

 それは普通の子供なら気を失ってもおかしくないほどのものだった。

 だが、リオンは平然と質問を投げかけた。


「一つ聞いていい? どういう相手なら剣を打ってくれるの?」

「ほう、アタシの殺気を浴びてその反応……ふん、テメェ、ただのガキじゃねーな」


 女性は少しだけ面白そうに鼻を鳴らした。

 それから抜身のままだった剣を鞘に納めてから、


「アタシはゼタだ。見ての通り鍛冶師をやってる」

「僕はリオン。Dランク冒険者だよ」

「冒険者? その歳で? はっ、道理でな」


 女性――ゼタは幾分か機嫌を直した様子で笑う。


「で、質問の答えだが、アタシが剣を打ってやるための条件はただ一つ。アタシの剣を使うに足る剣士であること。それだけだ」

「なるほどなるほど」


 リオンは頷いて、


「ところでミスリル以上の素材で剣を打ったことはある?」

「なに?」

「例えばアダマンタイトとか」

「はあ?」


 ゼタは「なに言ってんだこいつ」という顔でリオンを睨むと、


「んな稀少な素材、そもそも手に入らねぇよ。アダマンタイトっつったら伝説級の武具に使われてるような素材だろうが。王宮専属の鍛冶師ですら持ってねぇだろ」

「そうなの?」


 神の金属と言われるオリハルコンと比べれば、そこまで稀少ではないはずだが……とリオンは首を傾げる。


 前世ではアダマンタイト製の武具を打つ鍛冶屋は決して珍しくなかったし、リオンも何本か持っていた。

 ちなみに実家に残っていたあの剣は、ごく微量だがアダマンタイトが含まれた合金製だ。


「じゃあ自分で採掘してこよっかな」


 幸いこの町の近くにはダンジョンがあるという。


「あのなぁ……」


 ゼタは呆れ顔でがりがりと頭を掻く。


「簡単には採掘できねぇから稀少なんだろうが」

「ダンジョンの深部でなら結構見つかると思うけど?」


 アダマンタイトは魔力濃度の高い場所で自然に作り出される。

 中でもダンジョンの深部は魔力に満ちているため、採掘しやすい場所だった。


「アホか、テメェ。一流の冒険者がパーティを組んで挑むのがダンジョンの深部だ。そんな散歩にでも行くような感じで言うんじゃねぇよ」

「そうかな?」


 腑に落ちない、という感じでリオンは首を傾ける。


「……はぁ」


 ゼタは大きな溜息を吐いた。

 放っておいたらこいつ一人で行きかねないなと思ったのか、


「仕方ねぇな。ちょうどそろそろ素材の調達に行こうと思ってたところだ。テメェと一緒に潜って、アタシが剣を打つに相応しいかどうか、ついでに確かめてやる」


 こう見えて意外とお人よしなのだった。


 ……このときの彼女は思いもしていなかった。

 これが最悪の悲劇を招くことになろうとは。







 バダッカ北のダンジョン――通称〝岩窟回廊〟。


 草原地帯に隕石でも落ちた後のような巨大な窪みがあって、その奥に開いた洞窟めいた穴がその入り口だ。

 内部は階層型となっており、下層に進むほど魔物は強力に、トラップは厄介になっていく。


 百年前には存在しなかったこともあり、リオンが潜るのは初めてのことだ。

 今のところ最高到達記録は二十階層で、数年前にAランク冒険者が率いるパーティが挑んで打ち立てたものである。

 ただしそのパーティはその挑戦の際にリーダーを失い、解散してしまったという。


 だがその二十階層でさえ、アダマンタイトを採掘できる確率はかなり低い。

 ダンジョンの種類にもよるが、アダマンタイトを確実に採りたければ、最低でも三十階層ぐらいには潜らなければならないだろう。


「というわけで目標はひとまず三十階層だね」

「三十階層なんて無理に決まってんだろ。まぁ十階層まで行けば十分だろ。そこなら高確率でミスリルを採掘できるしな」


 と、出発前にはリオンの目標を馬鹿げたことだと一蹴していたゼタだったが、




「何でマジで三十階層まで潜ってきてんだよおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」




 ダンジョン深部に彼女の悲鳴が轟く。


 周りに他の冒険者はいない。

 当然だろう。

 なにせここは完全に未踏の領域なのだ。


「え? だから最初に行ったよね? 目標は〝ひとまず〟三十階層だって」


 リオンはキョトンと首を傾げた。


2019年1月26に改稿いたしました。大まかなストーリーは変わってませんが、設定を結構いじっています。

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