第158話 出口はあっちだよ
獣王国最大のダンジョンというだけあって、内部は非常に複雑で広大だった。
まずリオン一行を出迎えたのは、洞窟めいた階層だ。
道が幾つも枝分かれしている上に、似たような光景が延々と続いているため、現在地すらも分からなくなってしまう。
「「……」」
『どーしたのー?』
勢い勇んで先頭を進んでいた双子の足取りが、あっという間に重くなった。
きっとこのままいくと確実に迷うと理解したのだろう。
そろって足を止めると、縋るような顔でリオンを見上げてくる。
「正しいルートはあっちだな」
「「ん!」」
しばらく進んでいくと、前方から魔物が現れた。
犬の頭を持つ人型の魔物、コボルトの群れだ。
ただ、通常のコボルトより体格がいい。
恐らくは上位種のエルダーコボルトだろう。
しかしいずれにせよ、リオンたちの敵ではない。
双子があっさりと蹴散らして、先を急ぐ。
「ひいいいっ!」
「た、助けてくれえええええっ!」
「こんなに魔物がいるなんて聞いてねぇよおおおおっ!」
さらに行くと、前方から悲鳴が聞こえてきた。
恐らく地上にいた連中の仲間だろう、武装した獣人たちがこちらに向かって必死に逃げてくる。
「「「ワオオオオオンッ!!」」」
どうやら彼らはエルダーコボルトの大群に追われているらしい。
ざっと見渡しただけでも五十匹は超えている。
「こ、子供!? 何でこんなところに!?」
「おい、そこを退きやがれぇぇぇっ!」
こちらに気づいて大声で叫ぶ彼らだが、リオンたちは意に介さずそのまま彼らの前に立ち塞がる。
「邪魔だ――ぶげっ!?」
「「「ぎゃっ!?」」」
こちらを突き飛ばそうとしてきたが、吹き飛ばされたのは彼らの方だった。
自分よりずっと小さな子供に弾き飛ばされて、獣人たちは次々と地面にひっくり返る。
「な、なんだこいつら!?」
「それより後ろから来てるぞ!?」
「く、食い殺されるっ!」
青い顔で口々に悲鳴を上げる彼らの脇を悠々と通って、リオンたちは魔物の群れを迎え撃った。
「えい」
「ぎゃうん!?」
「やあ」
「ぶぎゃんっ!?」
双子が千切っては投げ、千切っては投げ、僅かに漏れてきた個体はリオンが瞬殺する。
「「「……え?」」」
絶体絶命を覚悟していた獣人たちが、目の前の異常な光景に唖然としている。
それはそうだろう。
大人の自分たちが逃走するしかなかった魔物の群れを、子供だけでいとも容易く殲滅しているのだ。
「「グルルッ……」」」
圧倒的な力の差を理解したのか、エルダーコボルトたちが怯え、中には逃げようとする者もいた。
『にがさないのー』
踵を返した彼らの前に立ちはだかったのは、一匹の小さなスライムだ。
「「「グルアアアッ!!」」」
たかがスライム、足止めにもならないと思ったのか、エルダーコボルトたちは無視して突っ込んでいった。
……無論、たかがスライムなどではない。
『えーい』
「「「ギャンッ!?」」」
伸ばした触手が鞭のようになって、エルダーコボルトたちの犬面を一気に引っ叩く。
それだけで一斉に吹き飛ばされ、地面や壁に激突して絶命してしまった。
「「「な、な、な……」」」
「ねぇ、君たち」
「「「ひっ……」」」
呆然として立ち尽くしていた獣人たちにリオンが声をかけると、彼らは怯えるように後退った。
「出口はあっちだよ」
「「「は、はいいいいいっ!!」」」
大きな声で返事をして、彼らは慌てて逃げていったのだった。
その後も彼らのような獣人兵たちに幾度となく遭遇した。
この難易度の高いダンジョンに苦戦しているようで、迷子になっていたり、魔物に殺されそうになっていたりと、散々たる有様だった。
その度に彼らを救助しながら、リオン一行はダンジョン奥深くへと潜っていく。
「ていうか、もうちょっとちゃんと準備してから挑むべきだろう」
自分たちが来ていなければ、一体どれだけの犠牲が出ていただろうと、リオンは嘆息する。
しかもまだまだほんの浅い層である。
それから階層が深くなっていくにつれ、次第に獣人兵との遭遇階数も減っていった。
当然ながらより凶悪な魔物や罠が現れるようになり、それがリオンたちの行く手も阻む――ことはなく。
「一見行き止まりに見えるが、この先に道が繋がってるな。何らかのギミックで通れるようになるんだろうが……」
「「壊す?」」
「ああ」
双子が壁を蹴って壁に穴を開けた。
そんなギミックなど無視した強引な進行のお陰もあって、かなりの速度で順調にダンジョンを攻略していくリオンたち。
やがて、ダンジョン内とは思えない広大な空間に出た。
「「あそこ!」」
「あれは……集落か?」
そして発見したのが、明らかに人工物と思われる複数の家屋群だった。
ダンジョンの壁の窪みを利用して背後を守り、前方は人造の防壁を築いている。
「恐らくあそこに二人の姉がいるのだろう」
「「ん!」」
あれがマチンカの言っていた反政府派の拠点に違いない。
しかし、
「待て。……魔物と戦っている?」
ここまで響いてくる怒号や雄叫び。
よく見ると人工の防壁を取り囲むように蠢く、無数の影があった。
どうやら魔物の群れに襲われているところらしかった。
少しでも面白いと思っていただけたら、↓の☆で評価してもらえると嬉しいです。





