第154話 貴様らには真似できぬだろう
どうやら双子は二人だけで戦いたいらしい。
自分の親を殺されたと知ったからか、あるいは、悪政を敷く同族たちに怒りを感じているのか。
「ははははっ! 随分と余の近衛兵たちを舐めてくれるではないか!」
獣王ベンガールは嘲笑う。
「しかし強者を怖れぬその態度も、兄者によく似ている。反吐が出るくらいにな。くくっ、お前たち、殺さない程度に可愛がってやれ」
「「「はっ!」」」
獣王の命令を受けて、近衛兵たちが動き出す。
全員が双子と同じ徒手空拳だ。
これこそが猫人族にとって最も戦いやすいスタイルなのだろう。
だが相手が子供とあって油断しているようで、ほとんど無造作に近づいてくる。
次の瞬間、彼らの目が大きく見開かれた。
「「「なっ?」」」
双子が一瞬にして距離を詰め、躍りかかったのだ。
その予想外の速度に、猫人族の精鋭たちの防御は間に合わない。
「ぶっ?」
「がぁっ!?」
まず二人が双子の拳をまともに腹に浴び、大きく吹き飛ばされた。
「「「……っ!」」」
さすがに獣王を傍で守護する精鋭たちだけあって、残り三人のそこからの反応は早かった。
すぐさま構えを取り、双子へ反撃しようとする。
だがそれよりも双子の次の動きの方が早かった。
小柄な身体を活かして相手の足元に滑り込むと、強烈な足払いを同時に別々の近衛兵へと見舞う。
「「ぐっ!?」」
二人の近衛兵の身体が見事に宙を舞った。
無防備なその身体へ、双子は間髪入れずに足を振り上げた。
「「があああっ!?」」
天井に激突し、めり込む近衛兵たち。
残ったのは近衛隊長のペルッシェだ。
「はぁぁぁっ!」
やられた仲間たちを顧みることもなく、ペルッシェは全力の一撃をイリスへ繰り出す。
両方同時に相手するより、まずは片方を確実に倒すべきだと判断したのだろう。
しかしその渾身の拳の一打はイリスに躱され、それどころかカウンターの一発を顔面に貰ってしまった。
「ぶがっ!?」
鼻から血を噴き出しながら、ぐるりとその場で後転するペルッシェ。
後頭部が地面に叩きつけられ、「ぎゃっ」という悲鳴を上げた。
「ば、馬鹿な……? 余の近衛兵たちが……」
双子の予想外の強さを見せつけられ、獣王は目を見開いていた。
「「ん!」」
次はお前だとばかりに、双子は獣王を睨みつけた。
「ふ、ふははははっ!」
だが何を思ったか、獣王ベンガールが突然、哄笑した。
「「?」」
「まさか、その程度で倒したと思ったのか?」
直後、近衛兵たちが順番に身を起こしていった。
「く……なんてガキだ……速すぎるし、攻撃が重すぎる……」
「ああ……さすが、前獣王の遺児といったところか……」
例外なく顔を歪めているところを見るに、大きなダメージを受けたことは間違いなさそうだ。
「子供相手に、この手は使いたくなかったが……」
「こうなっては仕方なかろう」
近衛兵たちの身体に異変が起こった。
全身から毛が生えてきて、体格も一回り以上膨れ上がったのだ。
「はははっ! これが獣人の奥義、獣化だ! 近衛兵の中でもごく一部の者にしかできないが、身体能力が何倍にも引き上がるぞ!」
獣王ベンガールが勝ち誇ったように告げる。
「まだ子供の貴様らには真似できぬだろう!」
「「できる!」」
「……なにっ?」
双子もまた、その力を解放した。
黄金色の毛が身体中を覆い、さらには縞の模様も出現していく。
「ば、馬鹿なっ!? その歳で、獣化だとっ!?」
「しかもその縞模様……ま、まさかっ……虎人族に進化しているというのかっ!?」
獣化した近衛兵たちが驚愕し、後退る。
同じ獣化であっても、双子は進化し、上位種になっての獣化だ。
その変化は破格だった。
「「ん!」」
先ほどを遥かに凌駕する敏捷性で、二人は近衛兵たちに躍りかかっていく。
当然、近衛兵たちも必死に応戦したが、今度も成す術なく圧倒されることとなった。
「「「きゅぅ……」」」
気が付けば全員、白目を剥いて気を失い、獣化も解けて元の姿に戻っている。
「こ、こんなことがっ……前獣王ですら、進化したのは成人してからだぞ……っ? なぜその歳でもう進化している……っ!?」
獣王は玉座から立ち上がって声を震わせていた。
今度こそお前の番だとばかりに、双子は獣王に飛びかかろうとした。
「っ……ガキどもが、余を舐めるでないぞっ! グルアアアアアアアッ!」
獣王が凄まじい咆哮を轟かせたかと思うと、その全身が真っ白い身体に覆われていく。
どうやら獣王もまた、獣化能力に開眼した一人らしい。
さらに獣王の身体にも、双子とよく似た縞模様が浮かび上がっていった。
獣化のみならず、虎人族に進化していたようだ。
次の瞬間、獣王が玉座のある高座から跳躍し、双子に襲いかかった。
アルクとイリスはそれを真っ向から受けて立つ。
繰り広げられたのは、常人には目で追うことが不可能な速さの戦いだ。
その余波だけで、謁見の間にいた文官たちが吹き飛ばされてしまう。
「貴様らは必ずここで殺す……っ! 余の治世を絶対に邪魔させぬぞっ!」
体格で勝る獣王は、鋭い爪を有する腕や脚を豪快に振るう。
恐らく一撃でも喰らうと、双子でもただでは済まないだろう。
一方の双子は、小柄な体躯と数の利を生かして手数で獣王を翻弄した。
「「まけない!」」
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