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第153話 余が殺したのだ

 謁見の間は、ちょっとした屋敷の庭ほどはあろうかという広さがあった。

 左右には猫人族の兵士たちがずらりと並んでいる。


 最奥に設けられた豪奢な椅子に腰かけていたのは、まだ二十代後半ほどと思われる若い猫人族だ。

 長い銀髪の端正な顔立ちで、洒落た口髭を生やしている。


「よくぞ、来た。余が獣王ベンガールである。ふむ……」


 ベンガールと名乗った獣王は、遠慮ない視線を双子へ向ける。


「その黄金の毛並み、まさしく……」


 そして何かを確信したように頷いた。


「えっと……王様、何か思い当たることがあるの?」

「うむ。恐らく間違いないだろう。その双子は、余の兄者――亡き前獣王の遺児だ」


 その言葉に、謁見の間が騒めいた。


「前獣王?」

「そうだ。見事な黄金の毛色から、獅子王とも称されたほどの王だった。残念ながら、数年前に崩御してしまったが……。その双子、顔立ちにも兄者の面影がある」

「でも、何で二人は人間の国にいたの?」

「……それはだな」


 そのとき、謁見の間の両脇に控えていた兵士たちが動き始めた。

 しかもなぜかリオンたちを取り囲むような陣形と取る。


「……これはどういうこと?」

「くくくっ」


 リオンが問うと、獣王は喉を鳴らして嗤い始めた。


「はははははっ! これが笑わずにいられるか! あのとき取り逃がした双子が、まさか自ら余の前に戻ってきてくれるとはな!」


 謁見の間に笑い声が響く。

 獣王の豹変に驚くことなく、兵士たちはリオン一行の逃げ道を封じるように、何本もの長い槍を突き出してきた。


 ひとしきり笑った後、獣王は悪意に満ちた顔をしながら言った。


「人族の子供よ、貴様には礼を言おう。わざわざ双子を連れてきてくれたことにな。そして褒美ついでに教えてやろう。前獣王の兄者は、余が殺したのだ」

「「……っ」」


 獣王の暴露に、双子が身を固くした。


「余が獣王になるのに邪魔だったからな。同族たちとともに、クーデターを起こしたのだ。多くの同族が余に従ってくれたぞ。猫人族こそが獣人の頂点であり、すべてを支配する存在なのだという余の思想に共感してくれたからだ!」


 獣王ベンガールは高らかに語る。

 どうやら今の獣王国の格差は、まさにこの男が理想とするところだったようだ。


「無論、余の考えを受け入れぬ者たちはすべて排除した。将来の禍根も取り除くべく、とりわけ兄者に近しい者たちは念入りに。だが残念ながら、取り逃がしてしまった者たちもいた。それが当時まだ生まれたばかりだった兄者の赤子どもだ」


 まだ赤子とはいえ、前獣王の血を引き、しかも象徴的な黄金の毛色をも受け継いでいる子供たち。

 成長すると、ベンガールにとっては最大の脅威になりかねない。


 しかしそれを事前に察知し、今ここで殺されるよりはと、何者かが二人を人族の奴隷商人に売り飛ばしたのだろう。

 そしてリオンに拾われ、こうして意図せず故郷へと戻ってきたというわけだった。


「つまり、まんまと我らは敵の巣穴に飛び込んだということじゃのう」

「くははっ、その通りだ!」


 獣王ベンガールは嗤う。


「シャーム卿よ、よくやった」

「最初に部下から報告を聞いたときに、ピンときたのです。もしや、あのときの双子かもしれぬ、と」

「うむ、お陰で余が抱いていた大きな憂いが一つ、取り除かれたぞ。後で貴様には褒美を取らせよう」

「ありがたき幸せ」


 恭しく首を垂れるのは、リオンたちをここまで連れてきたシャームだ。


(……ま、薄々こんなことだろうとは思ってたけど)


 実は会った瞬間から、シャームが何かしら企んでいることを、リオンは察していた。

 だがあえて、それに乗ったのだ。


「さあ、こやつらを捕えろ。最近、同族の中にも、密かに余への反逆を計画している不届き者がいると聞く。奴らへの見せしめとして公開処刑してやるのだ」


 ベンガールの命を受けて、忠実な兵士たちが動き出す。


 ……もちろん、彼らは知らなかった。

 この少年少女ばかりの一行が、あの伝説の勇者リオンが率いる、世界最強の集団であるということなど。


「「がぁっ?」」


 まず二人の兵士たちが吹き飛ばされ、謁見の間の壁に叩きつけられた。


「「「……え?」」」


 何が起こったのかと目を丸くする兵士たち。

 その間にも、また別の兵士たちが犠牲となり、宙を舞った。


「な、何だ!?」

「くっ、油断するな! こいつら、ただの子供じゃな――ぐえっ?」


 あっという間に、リオン一行を取り囲んでいた十数人の兵士たちが全滅する。


「……ほう。なるほど、どうやらただ無防備に余の前に現れたというわけではなさそうだな」


 獣王ベンガールが感心したように喉を鳴らした。

 まだこの部屋には多数の兵士がいるからか、動揺している様子はない。


「だが、木っ端兵どもを倒しただけでイキってもらっては困るぞ? おい」

「「「はっ!」」」


 前に出てきたのは、屈強な猫人族の兵士たちだった。

 その中には先ほどのペルッシェの姿もある。


「こやつらは余の近衛を務める精鋭たちだ。並の兵どもとはわけが違うぞ?」


 そう言って牙を剥くベンガール。


「「やる!」」

「何だ? 二人だけで戦いたいのか?」

「「ん!」」


 一方、自分たちだけで戦うと、双子が強く主張してきた。


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