第152話 こいつを連れて行け
「その金色の髪っ……やはり……っ!」
まだ何も話していない状態なのだが、領主の猫人族は、双子を見て何かを確信したらしい。
「えっと、二人は物心ついた頃には奴隷として人間の国にいたんだけど、こっちに出自を調べにきたんだ。もしかして心当たりがあるの?」
「……うむ」
リオンの問いに頷く領主だったが、すんなりと教えてくれることはなかった。
「しかし、これは少々繊細な話でな。今ここでわしが下手なことを言うわけにはいくまい。今から共に王都に向かいたいのだが」
「王都に?」
「そうだ。王都に行けば、はっきりしたことが分かるだろう。すぐに馬車を準備しよう。待っておれ」
そう言い残すと、領主は慌てた様子で部屋を出ていってしまう。
そうしてリオンたちだけになると、メルテラとシルヴィアが口を開いた。
「お主ら、意外と有名な家の出なのかもしれぬの」
「わたしも普通の猫人族とは少し違うなと思ってました!」
「「……」」
しばらくの間、使用人が運んできた紅茶やお菓子などをいただきながら待っていると、馬車の用意ができたらしく、領主が直々に呼びにきた。
屋敷の庭に用意されていたのは、三頭立ての立派な馬車だ。
しかし引いているのは馬ではなく、一角獣のユニコーンたちだった。
「ユニコーンはただの馬の何倍もの力を持っておるからな。これなら王都まで二泊三日もあれば着けるだろう」
自慢げに言う領主だが、生憎とリオンたちだけの方がもっと速い。
「王都の方角さえ教えてもらえたら、僕たちだけで行けるけど?」
「いやいや、わしも一緒に付いていく。その方が向こうに着いてから話が早いだろうからな」
どうやら領主も同行するつもりらしい。
それだけこの双子が、重要な存在だということだろうか。
あまり世話になりたくはないのだが、ここで断るというのも失礼だ。
仕方なくリオンは用意された馬車に乗り込むことにした。
幸い馬車は二台用意されており、領主とは別々の馬車である。
「見えてきたぞ。あれが王都だ」
やがて獣王国の王都に辿り着く。
中心に巨大な王城を有する大都市で、リオンの前世である百年前にはなかったものだ。
「わしだ。通せ」
「「「はっ!」」」
シャームの顔パスで城門を通り抜け、街に入る。
そのまま堂々と馬車は目抜き通りを進んでいった。
「猫人族も多いな」
「王都に集まっているのかの」
馬車の窓から眺めてみると、猫人族の姿が少なくなかった。
いずれも身なりがよく、裕福な生活をしていることが見て取れる。
一方で、猫人族以外の獣人たちは、ここ王都でも総じて貧相な身体と服装だった。
かなり格差がはっきりしている。
そして再び堅牢な城壁を通り抜ける。
どうやらここからは国の中枢を形成している貴族しか立ち入りが許されていない一帯らしく、大きな屋敷が連なっていた。
見かけるのはほぼ猫人族だけ。
やはり貴族の大部分をこの種族が占めているのだろう。
ようやく王城に到着すると、馬車を降りた。
「お待ちしておりました」
そこで出迎えてくれたのは、背の高い猫人族だった。
黒髪だが、白髪が混じってきている。
年齢は六十を超えてそうだ。
「わたくしはマチンカ。近衛隊長補佐を務めております。なるほど、そちらのお二人が……」
マチンカと名乗ったその黒髪の猫人族は、リオンの後ろに隠れている双子へ、観察するような視線を向けた。
それも一瞬のことで、すぐに視線を外すと、
「シャーム卿もご苦労様です」
「うむ。それで、獣王陛下は?」
「現在、謁見の準備を進めていらっしゃいます。少しだけお待ちいただければ」
そう言ってリオン一行が連れて行かれたのは、獣王に謁見する者たちが待機するために設けられた控室だった。
しかし大貴族の屋敷のリビングほどの広さがある。
「シャーム卿、実は陛下が謁見の前に少し、お話ししたいことがあるとのことでして」
「む? そうか」
シャームが部屋を出ていく。
すると突然、マチンカが真剣な表情で訴えてきた。
「すぐにここからお逃げ下さい!」
「え? どういうこと?」
「謁見したら最後、獣王の手で殺されてしまいます! お二人はこの国の希望! ここで失うわけには――」
そのときだった。
部屋に別の猫人族が入ってきたのは。
「マチンカ、やはりお前は謀反人だったか」
「っ! 隊長っ……」
マチンカよりは幾らか若い、五十歳くらいと思われる大柄な猫人族だ。
髪の色は茶色と白の斑模様で、鋭い目をしている。
「私は近衛隊長のペルッシェ。マチンカは私の部下だが、以前から国家転覆を計略しているとの疑いがあり、まったく信用できぬ男だ。先ほどの言葉は忘れてもらいたい。陛下からは貴殿らを丁重に持て成すよう言われており、先ほどこの男が告げたようなことはあり得ないと、私が保証しよう」
「っ、嘘です! 私のことを信じぐあっ!?」
ペルッシェに同行していた兵士に、マチンカが殴り飛ばされる。
「こいつを連れて行け」
「「はっ!」」
気を失ったマチンカは、兵士たちに運ばれていった。
「見苦しいところを見せてしまったこと、お詫びしたい。……陛下はとても情に厚い、素晴らしいお方だ。先ほどマチンカが言ったようなことはないと約束しよう」
そう受け合うペルッシェに案内されて、リオンたちは獣王との謁見に望むのだった。





