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第150話 釣られる我らではない

「何から何まで本当に助かりました。またぜひカレーを――じゃない、ぜひお越しください。大した持て成しはできないかもしれませんが……」


 翌日、村長をはじめとする村人たちに見送られ、リオンたちは村を後にすることにした。

 昨日振舞ったカレーがよっぽど美味しかったのか、皆が惜しむような顔をしている。


「また食べたーい!」

「かれーっ! かれーっ!」


 子供たちに至っては遠慮なくせがんでくる。


「わ、分かった分かった。また来るから……」


 次々と群がってくる子供を引っぺがしながら、リオンはどうにか村を出発した。


 もう少しこの村に滞在していてもよかったのだが、猫人族に会いたいなら街に行くといいと、村長から教えてもらったのだ。

 同時に、少し気になる話も聞いた。


『猫人族、ですか……実はこの国を支配しているのが、その猫人族なのです。彼らは……その、自分たち以外の種族を見下しておりまして……厳しい圧政を敷いているのです』


 どうやらこの村の窮状も、そうした猫人族の暴政が原因なのだという。

 だから最初、猫人族の双子を見て怯えていたようだ。


(……確かめてみないとな)


 もちろん村長の話は双子のいないところで聞いたもので、二人には話していない。

 双子の同族が、本当に村長が言う通りのことをしているのだとしたら、幻滅する前に国を出た方がいいかもしれない、と思うリオンだった。


 土船に乗って村長に言われた方角へと進んでいると、それらしき町が見えてきた。

 この辺り一帯を治めている領主の屋敷があるという。


 船から降り、町の入り口に近づいていくと、衛兵に呼び止められる。

 丸っこいタイプの獣耳で、目の周辺だけ皮膚の色が違う――狸の獣人だろうか。


「人族とエルフが何の用だ?」

「っ……待て、その子供たちは……」


 最初は厳しい口調で問い詰めてきたが、双子に気づいた途端、急に態度を変え、深々と頭を下げてきた。


「し、失礼しました!」

「お通りください!」


 お言葉に甘えて門を通り、町の中へ。

 どうやら猫人族がこの国の支配階級にいることは間違いないらしい。


「くくく、随分と恐れられておるようじゃのう」

「「?」」


 まだ双子はよく分かっていないようで、メルテラの揶揄に首を傾げた。


 町はお世辞にもあまり活気があるとは言えなかった。

 往来が少なく、店を切り盛りしている獣人たちもどこか覇気がない。


 そしてあちこちに家を失った浮浪者らしき人たちの姿がある。

 領主が直接治めているにしては、随分と寂れた町だ。


「「ん」」

「……ああ」


 しばらく街中を歩いていると、何者かが後を付けている気配があった。


「憑依して連れてきますかー?」

「うーん……ただ物珍しくて付いてきてるだけかもしれないし、ちょっと様子を見よう。とりあえず気づいてないふりをしておいて」

「「ん」」

「了解なのじゃ」


 そうしてさらに街の中を適当に歩いてみるが、やはり尾行の気配は消えない。

 それどころか、段々と人数が増えてきた。


 やがてリオンたちが入り込んだのは、ひと際みすぼらしい一帯だった。

 貧民街と言ってもよいだろう。


 すると尾行していた複数の気配が動き出した。


「おい、止まれ」


 建物の陰から姿を見せ、そうリオンたちに命令してきたのは犬の獣人――犬人族だ。

 さらに次々と犬人族たちが現れ、取り囲んでくる。


「何の用?」

「てめぇには用はねぇ。あるのはその猫人族のガキどもだ」

「「……」」


 どうやら彼らの目的はアルクとイリスの双子にあるらしい。

 猫人族と敵対的な関係にあるのだろうか。


「大人しくそいつらを渡すってなら、てめぇら人族とエルフには危害を加えねぇ」

「嫌だと言ったら?」

「……残念だが、ちぃっと痛い目を見てもらうことになるだろうぜ」


 犬人族たちは腰を沈め、今にも飛び掛かって来そうだ。

 しかしリオンは首を横に振った。


「生憎その要望には応えられないかなー」

「ちっ、後悔しても知らねぇぞ!」


 リーダー格の犬人族がそう吐き捨てると、全員が一斉に動き出し、襲い掛かってきた。

 だがあの村の兎人族たちほどではないが、明らかに戦い慣れしておらず、しかもやせ細った犬人族たちなど、リオン一行の敵ではない。


「ぎゃん!?」

「ばう!?」

「くうん……」


 倍以上の人数差がありながらも、ものの数秒で決着が付いた。

 あちこちに転がった犬人族たちが信じられないとばかりに咆える。


「な、何だ、こいつら……っ?」

「ただの子供じゃねぇ……」


 リオンは彼らに問う。


「それで、何が目的なの?」

「「「……」」」


 どうやら話す気はないらしい。


「ふーん。そうか。ちゃんと話してくれたら、これ、食べさせてあげるんだけどなー」


 そう言いながらリオンが取り出したのは、分厚く切り分けられた霜降り肉だ。


「「「っ!?」」」


 犬人族たちが目を見開く。


「ま、まさか……」

「オーク肉!?」

「違うよ。ハイオークの肉だよ」

「「「~~~~っ!?」」」


 リオンはまるで見せびらかすかのように、彼らの前でその肉を焼き始めた。

 辺りに美味しそうな香りが漂う。


「話してくれたら食べさせてあげるよ」

「っ……そ、その手には……じゅるり……乗らぬ! じゅる……」

「そうだ! 食い物ごときで……じゅる……釣られる我らではない! じゅるり……」


 必死に我慢してはいるが、身体の方は正直らしく、口から溢れ出す涎を止めることがまったくできていない。


「「じゅるり……」」


 ……それは双子も例外ではなかった。


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