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第15話 装備を整えよう

 処理場には広いスペースがあって、そこで改めてコボルトを出すことになった。

 どさどさどさと、うず高く積み上げられていく。


「どうやってこんなに倒したの……? それにアイテムボックスって、普通こんなに入るものじゃないと思うんだけど……」

「そう? これは袋の品質が悪いから、大した容量のやつは作れなかったんだけど」

「作れなかった?」


 シルエはその言葉に眉根を寄せる。

 なにせ今の世の中、アイテムボックスはごく一部の魔法使いにしか作ることができず、ほとんど市場に出回ることのない希少な魔道具なのだ。

 しかもその容量は最も高価なものでもせいぜい荷馬車一台分である。


「いえ、きっと聞き間違いね……うん」


 そう自分を納得させたシルエだったが、リオンが最後にコボルトキングを出したのを見て、顎が外れんばかりに大きく口を開いた。


「え……これ、コボルトキングに見えるんだけど……。ま、まさか、倒したの? コボルトキングって、上級冒険者が出張るような魔物よ……?」


 シルエはまじまじと、リオンの頭の上に乗っているスライムを見る。

『どうしたのー?』とスーラがぷるぷる震えた。


「ザラガ氏から聞いてはいたけど、見た目によらず凄いスライムなのね……」


 どうやらコボルトキングを倒したのはスーラだと思ったらしい。

 しかしぶんぶんと首を左右に振るセイラとユーリを見て、


「え? 違うの? は? ほとんどリオン君が一人で倒した? これ全部? 何を言ってるのよ。さすがにそんなことできるはず……本当だって?」


 そのあまりの驚き様に、ようやくリオンも違和感を覚えたらしい。


(もしかして少しやり過ぎたか?)


 もちろん少しどころではない。


「それで、幾らぐらいになりそう?」

「えっと……これだけあるとさすがに査定にも時間がかかっちゃうわ。悪いんだけど、明日また来てくれないかしら?」








 翌日、リオンたちは再びギルドを訪れていた。


「これが素材の買取りも含めた昨日の報酬よ」

「おー、ずっしり。こんなに貰っていいの?」

「ええ、コボルトキング一体とエルダーコボルト四体を含む五十六体も討伐した上に、丸ごと持ち込んでくれたんだから当然の金額よ。しかもどの素材も傷が少なかったから高く評価されたの。普通、一流の冒険者でもあんなに綺麗に倒せないんだけど……」


 シルエから受け取った報酬は、庶民の一年の稼ぎを軽く超えるほどのものだった。

 さらに、


「今回の依頼で、リオン君はDランクに、セイラさんとユーリさんはEランクに昇格ね。おめでとう、これはうちのギルドでは最速記録よ」


 セイラとユーリが互いに顔を見合わせて、「自分たち何もしてないのに……」と複雑な表情をした。


 その後、報酬を分けるため、リオンたちはギルド内に設けられたフリースペースへと移動した。

 もちろんリオンは取り決め通り三等分するつもりだったのだが、そこでセイラたちと揉めることになってしまう。


「さすがに受け取れないわ」

「そうですよ。私たちほとんど何もしてないんですから……」


 二人とも自分たちには受け取る資格がないと主張してきたのである。


「そうは言っても最初にそう決めてたんだし。どうしても要らないっていうのなら、どっかに寄付したらいいと思うよ」

「それなら……」

「本当にいいんですか……?」


 最終的に二人が折れ、申し訳なさそうにしながらも受け取った。

 ただ、新米冒険者がこんな大金を持ち歩いていたら危険なので、


((ギルドに預金しましょう))


 互いに顔を見合わせ、そう頷き合ったのだった。






「装備を整えよう」


 ギルドを後にしたリオンは、初めて稼いだ収入で装備を揃えることに。

 現状、剣すらも持っていないのだ。


(別になくても戦えるが、万が一強敵が現れたときに困るしな)


 ちなみにリオンが想定している強敵とは、魔王や神話級の魔物、あるいは爵位持ち悪魔といった存在である。


 服も今着ているもの一着しかなく、しかも一般的な普段着であって冒険用ではない。

 あちこち解れたり、穴が開いていたりするし、見栄えも悪かった。


 リオンは市場へと足を向けた。






「ま、こんなところか」


 冒険者御用達だという店で服を買った。

 魔物の革でできており、丈夫で、それでいて伸縮しやすいので動きが阻害されにくいという一品だ。

 もちろん前世で着ていたものと比べるべくもないが、ひとまずこれで十分だろう。


「お買い上げありがとうございます」


 リオンは商品を受け取るなり、礼を言ってくる店員の目の前で魔法効果を付与し始めた。

 この素材ならそこそこの付与にも耐えられるはずだ。


 耐熱、耐寒、耐衝撃、耐魔法、さらには自動洗浄や自動修復機能まで。

 この軽さで、防御力は下手な防具を軽く凌駕するだろう。


「……は?」


 販売したばかりの服が、あっという間に国宝級の魔法衣へと変貌を遂げていく様子に、店員はぽかんとするしかない。

 もっとも、一店員にそこまでの理解はできず、単に子供が軽々と魔法付与を行っていることに驚いているだけだが。


「どうだ? 似合うか?」


 早速着替えてスーラに見せてみると『かっこいいのー』と身体をぷるぷる揺らす。


「ん? どうした?」


 スーラが羨ましそうな表情(?)でこちらを見ている。


「スーラも服が欲しいのか? そうか……けど、スライム用の服なんて売ってないしなぁ」


 帽子なら被れるかも? と思い直し、リオンはスーラに帽子を買ってやった。


 つばのない円形の帽子で、てっぺんがちょこっと飛び出しているのが特徴的だ。

 被らせてみると、すごく似合っていた。

 それにかわいい。


『わーいなのーっ!』


 ぴょんぴょん飛び跳ねながら喜んでいる。

 気に入ってくれたようだ。

 もちろんリオンの服と同じように魔法を付与しておく。


 続いてリオンは武器屋にやってきた。

 剣や斧、槍、弓など、様々な武器が置かれている。

 だが、


(う~ん……微妙だ)


 どれも量産品ばかり。

 まず使っている素材が悪く、よくてもせいぜいミスリルだ。

 これなら素手で戦った方がマシだろう。


 そのくせ服と比べて良い値段がするのだから、さすがに買おうという気にはなれない。


 他の店も回ってみたが、どこも似たり寄ったりだった。


「まぁいいか。すぐに必要ってわけでもないし」


 結局、何も買わずに宿へと戻ることにした。

 と、そのとき。


「鍛冶師ってんなら、大人しく客の望む剣を打ちやがれってんだよ! 金ならちゃんと出すからよ!」


 そんな怒鳴り声が聞こえてきた。


 リオンが目を向けると、そこには今にも潰れそうな小さな工房があった。

 声はどうやらこの工房の中かららしい。


「だからさっきから何度も言ってんだろ? アタシは自分が打ちたいと思った剣しか打たねぇ主義だってよ。残念ながらアンタは対象外さ」

「んだとこのアマ! つべこべ言ってねぇでとっとと打たねぇと、ぶっ殺し――ぐぼっ!?」


 体格のいい男がドアを突き破って、工房の中から転がり出てきた。

 遅れて背の高い女性が剣を担いで出てくる。


「言っておくが、アタシは悪質なクレーマーには容赦しねぇぜ?」

「ひぃっ」


 起き上がろうとしたところへ剣先を鼻先に突き付けられ、男が悲鳴を漏らす。

 女性の全身から発散される強い殺気は、いつでも男を斬る覚悟があることを物語っていた。


「お、オレが悪かったぁぁぁっ!」


 結局、男は泣きながら逃げて行ったのだった。



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