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第149話 お陰で畑が助かったぜ

 兎人族は足こそ速いものの、臆病で、戦いが苦手な一族だ。


 とはいえ、相手はたかがゴブリンが数体である。

 村人が力を合わせて戦えば、十分に勝機があるはずだ。


 しかし一人の村人を除けば、誰一人としてゴブリンを撃退しようとしていない。

 幾ら臆病と言っても、これでは魔物にやられ放題だろう。


「どうするのじゃ?」

「うーん、放っておくわけにもいかないでしょ」


 リオンは畑を荒らしているゴブリンたちに近づいていった。

 村人たちがそこで初めてリオンたちに気づく。


「あっ!?」

「人族の子供っ? 危ないぞ!」

「「「グギャギャッ!」」」


 リオンの接近を察知したゴブリンたちが一斉に襲い掛かってくる。

 だがゴブリン程度、何体いようとリオンの敵ではない。

 腹を一発殴ると、それだけでゴブリンは絶命して畑に倒れていった。


「はい、終わり」


 ゴブリンを全滅し終えたリオンは、その様子を防壁の上から見ていた兎人族たちに向けて「もう大丈夫だよー」と手を振った。


「一人で倒しやがった……」

「なんて子供だ……」

「ともかくお陰で畑が助かったぜ!」


 それからリオンは村の中へと迎え入れられた。


「人族の旅のお方、わたしはこの村で村長をしておりますラビトと申します。この度はゴブリンの群れを討伐してくださり、本当にありがとうございます」


 村長だという高齢の兎人族が出てきて、礼を言ってくる。


 しかし感謝しているという割に、顔が引き攣っていた。

 距離も遠い。

 十メートルくらいは空いているだろうか。


 さらに遠巻きに様子を見ている村人たちも、どこか恐れの混じった表情で、家屋などの陰に隠れながらこちらを観察している。


「かなり警戒されておるのう?」

「……そうだね」


 人族やエルフ族だからだろうか。

 だが村人たちの視線は、どちらかと言えばリオンの後ろにくっ付いている双子に向けられているようだった。


「……一つ、伺ってもよろしいでしょうか?」

「うん。なに?」

「その……猫人族の子供たちは……」

「この双子? 僕の眷属だよ」

「眷属……? それでは、彼らはこの国の外から?」

「そうだよ。ステア王国っていう人族の国で、奴隷として奴隷商人に苦しめられていたのを、僕が保護したんだ」

「なるほど。そうでしたか」


 リオンの説明に、ラビト村長は安堵の表情を見せた。

 他の村人たちもそれで警戒が解けたのか、少しずつ建物の陰から出てくる。


「……?」


 どういうことだろうかとリオンが首を傾げていると、


「村の恩人として、ぜひ歓迎させていただきたい。と、言いたいところですが……生憎と食料が不足しておりまして……」


 詳しく聞いてみると、どうやらこの辺り一帯を治めている領主の年貢の取り立てが非常に厳しいらしく、村人たちが辛うじて生きていける程度の食料しか残らないのだという。

 そこに作物の不作などが重なったときには、餓死者が出るほど深刻なのだとか。


 だから村人たちは大人も子供も例外なくやせ細っているのだろう。

 そんな状態で、畑がゴブリンに荒らされたのだから、彼らとしては死活問題だったようだ。


「恥ずかしい限りですが、我々は元からあまり戦いに向かない種族だということに加え、栄養不足で力も出ず……。おまけに、魔物と戦うための武具の所有も、領主から禁じられておりまして……。ゴブリンに大切な畑を荒らされても、ただ見ているだけしかできないのです……」


 ウサ耳をしおらせ、村長は呻くように言う。

 その哀愁漂う姿が可哀想に思えたのか、双子がリオンの服の裾をくいくいと引っ張ってきた。


「「食べもの!」」

「そうだな」


 双子の伝えたいことを察して、リオンは頷く。


「村長さん。一つお願いがあるんだけど」

「? 何でしょう?」

「ちょっと村の広場を借りてもいいかな? あと、調理器具を貸してほしい。できるだけ大きいもので。なかったら数を沢山」







 小さな村いっぱいに、香辛料の刺激的な匂いが漂っていた。


「す、すごく美味しそう……じゅるり」

「なぁ、本当にあれ、タダで食べていいのか……?」


 村人たちが涎を垂らしながら注目しているのは、村の広場にいきなり現れた謎の屋台だ。

 そこから発せられた暴力的な香りが、村中の人たちを広場に集結させていた。


「もうすぐできるからねー」


 その屋台で料理をしているのはもちろんリオンだ。

 しかも作っているのは、交易都市バルバラの料理大会で、優勝まであと一歩というところまでいった料理――コメカレーである。


「ニンジンたっぷり入れてあるよー」


 料理大会中に作ったときは、肉や野菜をバランスよく入れていたが、今作っているカレーにはニンジンがこれでもかというほどごろごろ入っていた。

 兎人族の大好物がニンジンだからだ。


「よし、完成。じゃあ、配っていくよ」

「「「うおおおおおおおおおおっ!」」」

「「じゅんばん!」」


 屋台に殺到しかけた村人たちはしかし、双子によって軽々と止められてしまう。


「さあさあ、受け取ったらすぐにこっちに捌けていくのじゃ! 食べるのは移動してからじゃ! 後ろがつっかえてしまうからの!」


 カレーを高速でついでいくリオンの代わりに、メルテラが村人たちを誘導する。

 料理大会での経験から、もはや手慣れたものだった。


新作始めました。よかったら読んでみてください。

『万能「村づくり」チートでお手軽スローライフ ~村ですが何か?~』(https://ncode.syosetu.com/n0637gi/)

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