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第142話 放っておいたら死にそうだな

 砂の中から全長二メートルを超す巨大なミミズが飛び出してくる。

 サンドワームという魔物で、その名の通り砂の中に棲息しており、泳ぐように砂中を高速で移動して獲物に食らいつく。


 それが一匹だけではなかった。

 二匹三匹と、リオンたちが乗る氷の船を取り囲むように次々と姿を現す。


「ふん、それで包囲したつもりかのう!」


 メルテラが船を急加速させた。

 すると一瞬でサンドワームの包囲網を抜け出し、あっという間に置き去りにしてしまう。


「一応、倒しておくか。――アイスレイン」


 必死に追い縋ってくるサンドワームの群れへ、リオンは氷の雨を降らせた。


「「「~~~~~~ッ!?」」」


 鋭く尖った氷が全身に突き刺さって、サンドワームたちはのた打ち回った。

 もし発声器官があれば断末魔の悲鳴が上がっていただろう。


 そのとき、今までとは比較にもならない規模で砂が噴き上がった。


「何じゃ、このデカブツはっ!?」

「これもサンドワームですかっ?」


 メルテラとシルヴィアが驚愕したそれは、通常のサンドワームの数倍あろうかという巨体だった。


 見えている範囲だけでも十メートルはあるだろうか。

 太さも二メートルを超えており、砂から飛び出してきた先端には鋭い牙が並ぶ円形の口腔がぱっくりと開いている。

 この大きさなら人間など軽く一飲みできるだろう。


 空高くその身を躍らせた巨大サンドワームは、そこからリオンたち目がけて一気に急降下してきた。

 このまま丸ごと喰らうつもりかもしれない。


「「んっ!」」


 そんな迫りくる脅威に臆することなく立ち向かったのは、アルクとイリスの双子だ。

 むしろこちらから口腔に飛び込みそうな勢いで氷の船から跳躍すると、巨大サンドワームの下顎へと渾身の蹴りを見舞った。


 バァンッ!


「~~~~~~~~~~ッ!?」


 凄まじい威力の蹴り上げに、下顎が爆砕した。

 辺りに肉片を四散させながら、巨大サンドワームの頭は再び空へと舞い上がる。


 そのまましばし砂嵐が巻き起こるほど巨体を悶えさせていたが、やがて逃げるように砂の中へと潜っていった。


「「にげた」」

「仕方ない。砂漠じゃ追いかけて倒すのも面倒だ」

「放っておいて先に行くしかないの」


 そうしてさらに氷の船を走らせること、しばらく。

 また双子が何かに気づいたらしい。


「「ん?」」

「今度はどうした? む、人か」


 リオンたちが発見したのは、砂埃の向こうを進む複数の人影だった。

 だがこの歩きにくい砂漠だからか、その足取りは重く、何度も立ち止まっている。

 さらには砂の上に倒れ込む者もいた。


「……放っておいたら死にそうだな」








「「「はぁ、はぁ、はぁ……」」」


 荒い呼吸音だけが響いていた。

 もはや誰一人として言葉を発する余裕すらない。


 空からも地面からも照り付けてくる強烈な熱射が、彼らから体力を奪い続けていた。

 砂を踏む足にも力がない。


「が、頑張るんだ、みんなっ! きっともうすぐだ……っ!」


 そう皆を鼓舞するのは、金髪の美青年。

 しかし普段の爽やかさはとっくに失われ、滝のような汗を掻いていた。


 Sランク冒険者のランスロットである。

 そして彼の後を追って砂漠に足跡を刻んでいるのは、男ばかりの集団だった。


「獣人国に、行きたいかーっ!」

「「「おおおっ!」」」

「イリス様に、会いたいかーっ!」

「「「おおおっ!」」」


 ランスロットの呼びかけに、男たちは拳を突き上げて応じる。


 そう。

 彼らこそ、ランスロットが立ち上げたイリス様賛美崇拝会――通称、イリス教団の精鋭たちである。


 王都からリオン一行が去ったこと知った彼らは、イリスを追って旅に出ることにしたのだ。

 しかしもちろんどこにイリスがいるのか分からない。


 どうしたものかと思っていると、信徒の一人が言ったのだ。


「獣人国に行けば何か分かるかもしれませんね」


 イリスが獣人だからという、至って安直な発想だったが、他に当てがあるわけではない。

 ランスロットはすぐに獣人国――いや、〝聖地〟に向かうことにした。

 いわばこれは、聖地巡礼の旅である。


 だがそんな彼らの前に立ちはだかったのが、この砂漠だった。

 ランスロットはもちろん、教団の精鋭たちの大半が冒険者なのもあって、危険な砂漠を突っ切る最短ルートを選択したのだが、思わぬ苦戦を強いられることとなったのだ。


 ……ちなみに美女三人からは愛想をつかされ、パーティは解散している。


「それにしても、まさか砂漠がこれほど大変だったなんてね……」


 どうやら砂漠を甘く見ていたらしい。

 魔物との戦闘だけなら彼らの足取りを止めるに至らなかっただろうが、環境の厳しさが予想を大きく超えていたのだ。


「も、もうダメだ……」


 仲間の一人がついに限界を迎え、砂の上に倒れ込んだ。


「あ、諦めるんじゃないっ! この先に聖地があるんだぞっ?」

「俺を置いて……先に行ってください……」

「そんなことできるか……っ! ともに聖地に辿り着くんだ!」


 倒れた仲間を抱え、彼らは必死に前進した。

 だがすでに正しい方向に進んでいるのかも、分からなくなりつつあった。


 倒れる者が増えると、残った者にさらなる負担がかかる。

 そうしてついにはランスロットですら、体力の限界に達してしまう。


「くっ……こんなところで……僕は……もう一度……イリス様に……」


 気づけば彼は砂に頭を突っ込んでいた。

 朦朧とした意識の中、彼は最後の力を振り絞るように手を伸ばす。


 と、そのときだった。

 憎らしいほど照り付けていた太陽が、何かに遮られて陰る。


「だいじょうぶ?」


 それは極限状態が見せた幻影だったのか。


「いり……す……さ……ま……」


 天使の姿を見上げながら、ランスロットは意識を手放した。


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