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第141話 百年前にはなかった国だ

 都市有数の貴族であるバザールが起こした騒動は、瞬く間に都市中の話題となった。

 屋敷の従業員が何人か犠牲にはなったものの、リオンたちの活躍もあって、被害は最小限に抑えられたと言ってよいだろう。


 現在は元老会が中心となって、異変の原因調査が進められているところだ。

 だがリオンが悪魔の肉片を異界に廃棄したこともあり、恐らく究明は難しいだろう。


 そのリオンはというと。

 すでにバルバラを発ち、メルテラの動かす土船に乗って次の目的地へと向かっていた。


「元老会なんて面倒そうなところ、絶対に関わりになりたくないしな」


 事件解決に貢献した当事者の一人として、本来なら調査に協力すべきところなのだが……知ったことではないと逃げ出したのである。


「「……」」


 双子がいつになく神妙な顔つきで、土船の進行方向を眺め見ている。

 美味しいグルメの宝庫だったバルバラを去ることに、少なからず抵抗するだろうと思っていたが、意外と大人しくリオンの言うことに従った。


 しかしそれは、二人の物分かりがよくなったから、というわけではない。

 実はこれから一行が向かおうとしている先が、双子にも縁のある場所なのだ。


 獣人国、ビルスト。


 そこは獣人の王が治め、多くの獣人が暮らす国である。


(百年前にはなかった国だ)


 かつてその一帯には多くの獣人が住んでいた。

 だがそれぞれの種族がバラバラに集落を築いて暮らしていたし、種族間での争いも絶えず、「獣人は決して一つにまとまることなどない」と言われていたほどだ。


 それが今では一人の王が、すべての獣人の支配者として君臨し、一つの国家を形成しているのだという。

 しかも人族の国々に負けないほどの大国へと成長を遂げているのだとか。


「ただ最近は、少し様子がおかしくてね。ちょっと国が荒れているらしい」


 と教えてくれたのは、リオンの作る料理のファンになった商人だ。

 昔は獣人国に行って商売をすることもあったという彼は、猫人族である双子をちらりと見ながら、


「それに乗じてか、連れ去られる獣人も増えているみたいだよ。人間の金持ちの中には獣人を愛好している奴もいて、そういった顧客に闇ルートで高く売れるそうだから。いや、もちろん僕はそんな違法なことはしないよ」


 もしかしたら双子もそうして故郷から連れ去られ、奴隷になった可能性もあるという。


「獣人国に行けば二人の出自も分かるかもしれないな」

「「ん」」


 リオンの記憶では、百年前は人間の国にもちらほらと獣人の姿を見かけたはずだった。

 それが現在は滅多に見ないのは、恐らく獣人国が建国されたことで、それまで争いばかりだった故郷を捨てて各地に散らばっていた獣人たちが、再び故郷に帰っていったからだろう。


 そのせいか、双子はまだ自分たち以外に、同族の猫人族に一度も会ったことがないのだ。

 もしかしたらそこには、まだ物心つかない頃に引き離されることとなった、二人の親もいるかもしれない。







 バルバラを出発して北に向かうこと数時間。

 前方に近づいてきたのは、見渡す限りの砂の海だった。


 砂漠である。

 バルバラから獣人国に行く直線ルートに位置するそれは、広さこそさほどではないものの、危険な魔物が棲息していることから、多くの旅人は避けて通るものだ。


 だがリオン一行ならば迂回する必要などない。

 メルテラの操作する土船は、真っ直ぐ砂漠へと突っ込んでいった。


「むしろ砂の上は走りやすくてええのう!」


 通常なら速度が落ちるはずの砂の上だが、メルテラの土船は悠々と進んでいく。

 地面を上下させることで加速を得ているため、柔らかい砂地の方が適しているのだろう。


「「……あつい」」


 ただ、砂漠特有の猛暑がリオンたちに襲いかかった。

 遮るものなどない砂の地面は、朝からずっと太陽光に晒され続け、昼頃には凄まじい温度にまで熱されているのだ。


 風を切って走っていても、耐えがたいほどの暑さである。


「むう……確かにこう暑いと、集中力が切れてくるのう」

「私は何も感じないです! こういうときはゴーストでよかったって思いますね!」


 メルテラが汗を拭う一方で、シルヴィアは涼しい顔だ。


「魔法で冷気を……いや、いっそのこと氷で船を造ったら楽しそうだな」


 リオンはそう言うと、魔法で巨大な氷塊を作り出した。

 さらにそれを剣で削り、やがてできあがったのは、氷の船である。


「こいつを走らせよう」

「さすがじゃの!」


 みんなで氷の船へと飛び移った。


「これは気持ちいいのう! 快適に進めそうじゃ!」

「「ひんやり」」


 気持ちいいのか、双子はうつ伏せになって氷にべったりと貼りついている。


「ずるいですっ……私だけ味わうことができないなんて……これだからゴーストは嫌なんですよ!」


 メルテラが氷の船を走らせた。

 もちろん普通なら段々と溶けていくだろうが、リオンが常に魔法で冷やし続けているため、しばらくは維持できるだろう。


 そうして砂漠を走り続けていると、


「「まもの!」」


 双子が魔物の接近を察知して氷から飛び起きた。

 だが見える範囲にそれらしき姿はない。


「砂の中か」

「「ん!」」


 次の瞬間、周囲の砂が噴水のように噴き上がったかと思うと、巨大なミミズが飛び出してきた。


「サンドワームだな」



バザールは死にました。。。

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