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第140話 褒めてよいぞ

 巨大バザールは、端から見ればただの肉の塊だ。

 腕と頭はギリギリ判別できても、もはや脚ですら、それがどこからどこまでなのか見極めることができない。


 だが【食帝】としての目は、そうしたものを超越することが可能らしい。

 体外のみならず、身体の内部、たとえば骨の位置や血管の流れに至るまで、どのような構造になっているのか、大よそ理解できるのだ。


 そしてあの巨大な肉塊を調理する方法すらも思い浮かんでくる。


 バザールの体内、それも奥深くに存在している異質な部位。

 理由までは分からないが、それを取り除きさえすれば、恐らくあの肉塊を維持し続けることができなくなるだろう。


 そうすれば調理可能――


「……もちろん食べる気はないが」


 だがお陰で倒し方は判明した。

 要するにその謎の異質部位さえ除去すればいいのだ。

 あの巨大な肉塊すべてを消し飛ばすより遥かに簡単だろう。


 リオンは跳躍すると、その異質部位から最も近い場所へ斬撃を繰り出した。

 さらに二撃目、三撃目と放って、肉を削り落としていく。


「……思ったより修復が早いな」


 だがバザールが建物を喰らい続けるせいで、削る傍から新たな肉が現れ、すぐに元通りになってしまう。


「アルク、イリス、そいつの食事を妨害してくれ」

「「ん!」」


 リオンの指示を受けて、双子が力強く頷いた。


 建物を破壊し、瓦礫を鷲掴みしながら口へと運んでいた二本の巨腕。

 双子は思い切り助走をつけると、新たな瓦礫を掴もうとしていたそれに、強烈なタックルを見舞った。


 肉の弾力で双子も吹き飛ばされかけたものの、その衝撃で巨腕も瓦礫を掴めずに空を切る。

 すぐに別の瓦礫を掴もうとするが、その前に双子は二度目の突進を敢行していた。

 またしてもバザールは瓦礫を掴むことに失敗する。


「ジャマ、スルナァァァッ!!」


 食事を邪魔され、怒りの咆哮を轟かせるバザール。

 先に双子を排除しようとしたのか、巨腕を振り回して攻撃する。


 しかし俊敏な動きでそれを躱す双子。

 今のバザールからすれば虫ほどの大きさだが、それゆえにまったく攻撃が当たらない。


 その間、肉の修復速度が緩んだお陰で、リオンの掘削作業は大きく進んでいた。

 すでに大きく肉が削がれ、目標の部位まであと三メートルといったところだ。


「ウガアアアッ!」


 そのとき何を思ったのか、バザールは自らの頭を建物に突っ込ませた。

 すると再び肉の修復速度が増してしまう。


「犬食いかっ、行儀が悪いな……っ!」


 どうやら腕を使っての食事を諦め、直接、口で食べることにしたらしい。

 双子が妨害しようとするも、腕よりも遥かに重たい上半身を退かせることはできない。


「メルテラ、さっきみたいに魔法で作った岩を食わせるんだ」

「そんなことしたらますます巨大化するじゃろ!?」

「だから、呑み込めないくらいデカいのを作るんだ」

「な、なるほど!」


 建物を犬食いするバザールのすぐ頭上に、メルテラが岩塊を作り出す。


「ッ! ウマイヤツゥゥゥッ!」


 リオンの予想通り、バザールが即座に食いついてきた。

 やはり魔力で生み出した岩塊の方が好みのようだ。


 嬉々として岩塊に齧りついた――瞬間、岩塊が急激にその大きさを増した。


「アガァッ!?」


 間抜けな声を漏らすバザール。


 口よりも巨大化してしまったそれは、さすがに飲み込むことができないらしい。

 どうにか噛み砕こうとしているが、メルテラが魔力を込めに込めて強度を上げているため、まったく砕くことができない。


 この隙にリオンは掘削を進め、そしてついにその場所へと辿り着く。


「こいつか」


 そこにあったのは、禍々しい気配を放つ青黒い肉の塊だ。

 リオンはそれを鷲掴みにすると、思い切り引き千切った。


「~~~~ッ!?」


 その瞬間、バザールの動きが完全停止した。

 巨体が轟音とともに地面へと倒れ込む。


「……倒せたか」


 動き出す気配も、肉が修復される気配もない。


「わらわのお陰じゃな! 褒めてよいぞ!」

「羨ましいです! 私なんて何もしてないです!」

「くくく、お主も早くわらわの域に到達するのじゃな」


 メルテラが鼻を高くしている中、リオンは手にした肉の塊を確認する。

 ぶよぶよした禍々しい物体だが、その形状はあるものとよく似ていた。


「胃袋?」


 管状の消化器官で、入り口と出口が狭く、途中がその名の通り袋のように膨らんでいる。


「それにこの気配……あの悪魔の右腕に似ているな」


 リュメル聖王国の地下迷宮に封印されていた悪魔の右腕。

 もしかすると、それと同類のものかもしれない。


 ――喰らえ、私を喰らうのだ。


 突然、リオンは不思議な衝動に襲われた。

 この気持ちの悪い肉塊が、なぜか美味しそうに思え、食べたくなってしまったのだ。


 さらにはこれを口にしさえすれば、世界中のありとあらゆる美食を食べ尽くすことができそうだという謎の感覚に陥ってくる。


「なるほど。こいつはこうやって人を誘惑するのか」


 恐らくバザールはこの食の誘惑に負け、肉塊を食べてしまったのだろう。

 その結果がアレだ。


 だが高い精神耐性を持つリオンに、この手の誘惑は効かない。

 地面に叩きつけ、足で踏みつけた。


 ――なぜだ? なぜ私を食わぬ……?


「こんな気持ちの悪いものを食えるか。それに、美味いものなら自分で作り出す。こう見えて、俺は料理人でもあるんでな」


 リオンはそう突っ撥ねると、時空魔法を発動させた。


「ディメンション・ゲート」


 この手のものは封印するより、どこか遠くに捨てるに限る。


 ――や、やめろおおおおっ!?


 どことも知れない異界の彼方に、肉塊は消えていった。


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