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第14話 僕にもよく分からないんだ

 コボルトキングが猛然と躍りかかったのは、抱き合って震えるセイラとユーリの方だった。

 単純に一番近くにいたからである。


「ドウホウノウラミ、ハラシテヤル」

「やったのほとんど私たちじゃないからぁぁぁっ!」

「許してくださいぃぃぃっ!」


 身の潔白を訴える二人だが、魔物がそれを聞いてくれるはずもない。


「シネ」


 コボルトキングの鋭い爪を有した剛腕が振り下ろされる。


 ぱしっ。


 だがその寸前、リオンが割り込んで片手で軽々と受け止めていた。


「大丈夫? そんなに怖がる必要ないと思うけど」

「怖がるわよ! 相手はコボルトキングなのよ!?」

「ていうか、なんで平然と受け止めてるんですか!?」


 コボルトキングが信じられないとばかりに呻いた。


「バ、バカナ……」


 どんなに力を込めても、ビクともしないのだ。

 自分よりずっと小さな人間の子供のどこにこんなパワーがあるのかと、コボルトキングは目を剥く。


「おりゃ」


 一方リオンが軽く押すと、それだけでコボルトキングは後方によろめいた。

 そうして隙だらけになった鳩尾へ、拳を叩き込む。


 ドゴッ!


「グブァァァァッ!?」


 巨体は五十メートルくらい宙を舞って森のところまで飛んでいくと、木の幹に強かに叩きつけられた。


「グブッ……イ、イッタイ……ドコニ、ソンナチカラガ…………ガクッ」


 コボルトキングは絶命したようだ。


「……ねぇ、ユーリ、やっぱりこれは夢じゃないの?」

「……もう一度確かめてみましょう」

「痛い」

「……痛いですね」


 セイラとユーリは先ほど同様、互いの頬を抓り合った。






「結構倒せたなー」


 死屍累々といった有様で転がる大量のコボルトの死体。

 それを見渡しながら、リオンは無邪気な笑みを見せる。


「そうね……」

「そうですね……」


 一方、セイラとユーリは投げやりに頷いた。

 問い詰めたいことは沢山あるが、衝撃が大き過ぎてもはやそれどころではないといった感じだろう。


「でもこんなにたくさんだと、さすがに持って帰れないわね……」


 コボルトは討伐報酬こそ安いものの、その毛皮や牙、爪などが売れるため、死体を持ち帰ればそれなりのお金になる。

 これだけの数を倒したのだから、討伐報酬だけでも十分過ぎるほどの収入にはなるだろうが、やはり駆け出し冒険者にとっては勿体なく思えるのだった。


「心配要らないよ? ほら」


 リオンがそう言うと、あちこちに散らばっていたコボルトの死体が一斉に動き出した。


「「まだ生きていた!?」」


 悲鳴を上げるセイラたちだったが、そうではない。

 これは無属性の魔力を使って動かしているだけだ。


「今度は何が起こってるの……?」

「分かりません……分かりたくもありません……」


 ただ現代では魔力をこんな風に使う人間などほとんどいないため、魔法使いであるユーリにも理解できていないようだった。

 ……もはや考えることを放棄してしまったからかもしれないが。


 やがて死体を一か所に集め終わると、リオンは今度はそれをアイテムボックスの中へと放り込んでいった。


「き、消えた……? どうなってるの……?」

「分かりません……分かりたくもありません……」


 すべて収納したリオンは、何を勘違いしたのか、


「大丈夫、報酬はちゃんと三等分するから。ちょろまかしたりはしないよ」

「「この流れでそんなこと気にするかぁぁぁっ!」」


 二人の渾身の絶叫が轟いた。







 バダッカの町に戻ってきたリオンたちは、報告のため冒険者ギルドへ。

 受付嬢のシルエが彼らに気づいて声をかけてくる。


「あら、おかえりなさい。初めての依頼はどうだった? って、どうしたのかしら? もしかして何かあったの?」


 セイラとユーリを見て、シルエが眉根を寄せる。


「上手くいったと思うよ?」

「じゃあ、何で後ろの二人は死んだ魚のような目をしてるのかしら?」

「さあ? 僕にもよく分からないんだ」


 リオンは首を振る。


「とにかくコボルトはたくさん倒せたよ」

「たくさん? えっと、じゃあ見せてもらえるかしら」


 コボルトの討伐証明は、切り取った尻尾でなされる。

 リオンたちが大きな荷物を持っているわけではないので、彼女もまさか丸ごと持ち帰っているとは思わず、てっきり尻尾だけを見せられるのだと考えていた。

 しかし、


 どさどさどさどさどさっ。


 次々と受付カウンターの上に積み上げられていくコボルトの山。


「ちょ、ちょっと待って! 丸ごとなの!? だったらここじゃダメ! ていうか、今どっから出てきたの!?」


 慌てて叫ぶシルエ。

 そのときにはすでに十体もの死体が積み上がっていた。


 リオンはそこでようやく自分がおかしなことをしているのだと気づき、「え? ダメなの?」という顔でアイテムボックスの中へと戻した。


「ああ、びっくりしたわ……」


 シルエはそう嘆息してから、


「こっちに来なさい」


 案内されたのは素材買取り専用のカウンターだった。

 そこで改めて収獲物を出すリオン。


 どさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさどさっ――


「す、ストップストップ! 多過ぎでしょ!? 何体いるのよ!?」


 またしてもシルエが声を張り上げてリオンを止めた。


「ちゃんと数えてないけど、たぶん五十匹以上?」

「ごごご、五十匹!? どんだけ!?」

「そんなに多いかな?」

「多すぎるわよ! しかもよく見たらエルダーコボルトまでいるじゃないの!? どう考えても森の中まで入ったでしょ! あれだけ森に入っちゃダメって言ったのに!」

「いや、森には入ってないよ」

「そんなわけないでしょ!? 森の外だと、滅多にコボルトなんて出てこないんだから!」


 嘘は吐いてないんだけどなー、とリオンは唇を尖らせる。


「はぁ……その辺の追及は後にするわ。とりあえず奥の処理場に行きましょう」


 どうやらこの数になると、素材処理場に直接運んだ方がいいらしい。

 リオンは再びアイテムボックスに入れ直すと、シルエに案内されてギルドの奥へ進んだ。


「……ていうか、どこから出し入れしてるの?」

「アイテムボックスだけど?」

「そんなに貴重なもの持ってるの!?」


 驚くシルエに、リオンは首を傾げた。


(貴重? アイテムボックスなんて、商人なら誰でも持ってると思うが?)


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