第136話 味見してみるか
あたしはミーナ。
人呼んで、美人過ぎる最強お宝ハンターよ!
え? 一体、誰が呼んでるのかって?
そんなことどうだっていいじゃないのよ!
今日も今日とてお宝の匂いを嗅ぎつけ、あたしはこの街へとやってきたわ。
交易都市バルバラ。
グルメタウンとしても知られてる、とっても栄えてる都市よ。
ここでグルメ王となんて大層な名前で呼ばれてる貴族がいるの。
ゴザール?
ウザール?
アザール?
まぁ名前なんて何でもいいわよね!
とにかくその何とかザールなら、きっと貴重なお宝をいっぱい所持しているはずよ。
というわけで、あたしはその何とかザールに近づくため、冒険者ギルドに出されていたある依頼を受けることにしたわ。
実はこのミーナ様、こうした場合に備えて、密かに冒険者としても活動しているのよ。
しかもなんとAランク。
さっすがはこのあたしね!
お宝ハンターとしての仕事をしながら、片手間でAランク冒険者にまで上り詰めちゃうなんて!
ちなみにマジックアイテムで姿を変えてるから、誰もあたしだとは思わないわ。
そうして、あたしはAランク冒険者として、何とかザールの護衛依頼に潜り込んだ。
彼が常に肌身離さず持っているアイテムボックス。
きっとあの中にはお宝がいっぱい入ってるはず。
もちろんアイテムボックス自体も貴重なものだし、あれごと頂戴しちゃうわ。
って、何であいつがいるのよおおおおおおおおっ!?
あたしは思わず叫びそうになった。
なにせ護衛依頼を受けた冒険者の中に、あのヤバい子供がいたんだもん。
名前は確か……そう、リオンよ!
忘れもしないわ。
エルフの国で、お宝を求めて英雄のお墓だという塔に登ったときのことを……。
酷い目にあったのに何のお宝もゲットできなかったし。
もちろんあの化け物双子も一緒だわ。
しかも、何かちょっとこっち見てない……?
まさか、バレてなんかないわよね?
大丈夫なはずよ……だって、まったく別人の姿に変身してるんだから……。
でもあたしの直感が訴えている。
あいつがいる限り、動くのは危険だ、と。
これじゃ、せっかくバザール(やっと覚えた)に怪しまれずに近づけるようになったというのに、何もできないじゃない!
……あ、焦ってはダメだわ。
きっとそのうち、チャンスは巡って来るはず。
と思っていたら、謎の遺跡を発見したわ。
さらに遺跡の奥にはお宝が眠ってた。
くっ、全部あたしのものにしたい!
でも今は我慢よ!
あああっ、何でこいつが持っておくことになってんのよ!?
てっきりバザールのアイテムボックスに入れておくかと思ったら、リオンの方のに入れることになってしまった。
何であんたがアイテムボックスなんて持ってんのよ!
しかも何その収納力! あたしも欲しい!
お陰で独り占めすることは難しくなってしまったわ。
だけどそんなことより。
あたしは見逃さなかった。
沢山の財宝がある中、バザールが密かに自分のアイテムボックスに謎の壺を入れているのを。
見たところ価値がありそうには見えないけど、わざわざそれだけを持っていくというのだから、よっぽどの品物に違いないわ!
バルバラの街に戻ってきたあたしは、バザールの屋敷に忍び込んだ。
もちろんあの壺を盗み出すためよ。
貴族の屋敷だけあってかなり警備は厳重だけど、このミーナ様にかかれば楽勝ね!
え? 護衛依頼なんて受けずに、最初からこうしてればよかったって?
う、うるさいわね……っ!
ともかくあたしはバザールの部屋を突き止め、その天井裏までやってきた。
天井に小さな穴を開け、部屋の中を覗き込む。
……あったわ。
あの壺よ。
ちょうど今、バザールが壺を見ているわね。
って!?
あたしは見てしまった。
その悍ましい光景を。
壺の中からバザールが気持ちの悪い肉の塊を取り出したかと思うと、なんとそれにいきなり齧りついた!
な、な、何やってんのよおおおおおおおおおっ!?
ぐちゃぐちゃぐちゃ……。
た、食べてる!?
あいつ、あの汚い肉塊を食べてるの!?
ていうか、何なの、あの肉塊は!?
何で壺の中に入ってたのよ!?
あたしはもうパニックだ。
気持ち悪すぎてゲロ吐きそう……。
それになんか嫌な予感しかしない。
あたしの勘が警鐘を鳴らしてるわ。
は、早くここから逃げないと……っ!
結局、何もお宝をゲットできないまま、あたしは屋敷から逃げ出したのだった。
◇ ◇ ◇
「おい、これじゃ足りないぞ。もっと持ってくるのだ」
「か、畏まりました、ご主人様……」
バザールの屋敷に務めるメイドが、顔を引き攣らせながら頷いた。
すでにテーブルの上には信じられない量の空っぽの皿が積み上がっている。
なのに彼はまだ食べるつもりらしい。
厨房はすでに悲鳴を上げていた。
ここ最近、バザールが途轍もない量の食事を取るせいだ。
その肥満体型に似合わず、以前は人並みの食事量だった。
だが先日の食材調査から帰ってきてから、突然、大量に食べるようになったのである。
お陰でたった数日にして、バザールの身体が見て分かるくらい膨れ上がっている。
「しかし、よく見たらこの皿も美味しそうだな……」
何を思ったか、バザールはソース一つ残っていない皿を取り上げると、
「どれ、味見してみるか」
バリボリバリボリ……。
なんとそれを食べ始めてしまった。
これにはその場にいた彼以外の人間全員がドン引きである。
だがそんなことなどお構いなしとばかりに、バザールは頷くのだった。
「ほう、なかなか悪くないではないか」