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第132話 この肉はかなり美味しそうだよ

「う、うめぇぇぇぇっ!?」

「何だこのカレーは!?」

「こ、これがグルメ大会で旋風を巻き起こした料理かっ!」

「まさか護衛任務中に食えるなんて!」


 リオンが作ったコメカレーに、私兵団員も冒険者もそろって絶賛の声を上げる。


「そうだろう。リオン殿は天才だ。間違いなく歴史に名を遺す料理人となる。今こうして直接、彼の料理を口にできるのはとんでもない幸運であるぞ」


 と、最上級の賞賛を口にするのはバザールだ。

 もはやリオンのことを料理人と信じて疑っていない様子である。


 そのバザールに懇願されて、彼の代わりにリオンが料理をすることになったのだった。

 もちろん相応の、いや、相当な報酬額を提示された。


「わしの役割はやはり、作る側より食べる側。新たなグルメを見出し、そして有望な料理人たちを支援することのようだな」


 貧民街の住人たちを強引に追い払ったバザールだが、それほど悪い人間ではなさそうだ。


 そもそも貴族が、ああした貧民を卑しむことは決して珍しくない。

 あるいは上等な料理にありつけるのは、相応の対価を支払える人間でなければならないという美学があるのかもしれなかった。


「「もぐもぐもぐ」」

「おい、もう少し味わって食うのだ」

「「ん?」」


 猛スピードで食べる双子を見咎めながら、優雅にリオンのカレーを食べるバザール。

 見たところあまり大食いではないのだが、お腹にたっぷり肉が詰まっているのは運動不足のせいだろうか。







 魔境〝虹の森〟へと辿り着いた。


「今回探索するのは、ここ赤の領域だ」


 木々が真っ赤に色づいていた。

 紅葉の季節だけでなく、この一帯は年中こうした状態なのだという。


「虹の森の中でも、特に食材の宝庫として知られている。木の実やキノコが豊富で、さらにそれを食料としている獣系の魔物も多い」


 バザールはそう告げてから、リオンの方を見てくる。


「リオン殿。ぜひ貴殿には新たな食材を探すことに力を貸していただきたい。恐らくわしなどよりもよほど優れた目を持っておられるだろう」

「……う、うん」


 リオンは護衛よりも食材調査を期待されているようだ。

 ……いつの間にか完全に敬語になっている。


 そうして一行は森の中へと立ち入っていく。

 すると冒険者の一人が、すぐにあるものを発見した。


「む、あんなところに真っ赤なキノコが生えているぞ。イチゴみたいに瑞々しくて美味しそうだな」

「確かに、なんだかちょっといい匂いがする」

「「ん!」」


 キノコに近づこうとする双子の首根っこを掴んで止めつつ、リオンは念のため注意する。


「あれは毒キノコだよ。それも猛毒の。甘い匂いに釣られて口にしたら最後、あっという間に毒が回って死んじゃう。よっぽど強力な解毒魔法か、解毒剤をすぐに使わないと助からないね」

「「ひっ!?」」

「「……」」


 冒険者たちが悲鳴を漏らし、双子も慌てて動きを止める。

 獣人の嗅覚をも惑わす毒キノコがあることを初めて知ったのか、双子は顔を見合わせて「「こわい」」と呟いた。


「さすがリオン殿。よく知っておられる」


 バザールが感心しているが、別に知っていたわけではない。

 見ただけで何となく分かってしまったのだ。


「だけど毒を抜いたら食べることができるよ。たぶん、それなりに美味しいと思う」

「なんと!? しかし、どんなに煮ても毒は抜けなかったのだが……」


 どうやらバザールは煮て食べようとしたらしい。

 だがいったん屋敷の奴隷に食べさせ確認してみたところ、やはり毒が抜けていなかったという。


「む? その奴隷? どうなったかは知りませんが、恐らく治癒魔法で治ったでしょう。死なせては毒見ができなくなりますからね」

「……」


 バザールにとって、奴隷の命はグルメより遥かに軽いものらしい。


(まぁ、貴族なんてそんなものだよな)


「それで、どうすれば毒が抜けるのですか?」


 一番手っ取り早いのは、キノコに直接、解毒魔法を使うことだ。

 しかしそれでは芸がないし、そもそもリオン並の魔力がないと不可能なことなので、


「うーん……加熱するんじゃなくて、冷やしたらいける気がする」

「そ、それは本当ですか? キノコの毒を冷やすことで抜くなど、聞いたことないが……」

「……たぶんね」


 何となく分かるというだけで、確かめてみなければ分からない。


「よし、では屋敷に持ち帰って実際に試してみるとしましょう」


 また一人、奴隷が犠牲になるのだろうか。

 毒抜きが成功してほしいと、リオンとしては祈るしかない。


「!」

「「っ!」」


 最初にリオンが、そして少し遅れて双子もそれに気づいた。

 さらにしばらく経ってから、索敵に長けた私兵や冒険者がその存在を感知する。


「魔物が近づいてきています!」

「か、かなりの速度です!」


 バザールを護るように陣形を組み、私兵と冒険者たちが迫りくる魔物を迎え撃とうと身構える。

 やがて木々が押し倒される激しい音とともに、それが姿を現した。


 真っ赤な体毛の巨大な熊だ。

 口腔には短剣のような牙が並び、手足は大木のごとく太い。


「ぶ、ブラッドグリズリーっ!?」

「いきなりこんな強敵が出やがるなんてっ!?」


 誰もが顔を引き攣らせる。

 というのも、ブラッドグリズリーは人肉を好み、Sランク冒険者ですら苦戦する強さを誇る狂暴な魔物だからだ。

 食材を探しにきておいて、逆に自分たちが食われてしまっては笑えない。


 だがそんな中、リオンは、


「あ、この肉はかなり美味しそうだよ」


 ブラッドグリズリーを食材としてしか見ていなかった。



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