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第131話 お前は冒険者なのか

 屋敷からバザールが出てきた。

 集まった冒険者たちを見渡しながら言う。


「わしがバザールだ。しっかりとわしの護衛を頼むぞ。……む?」


 そこで彼の視線が、リオンのところで止まった。


「な、なぜお前がここにいるっ!?」


 ジギルはすかさず説明した。


「はっ、彼は正真正銘のBランク冒険者です。試験でも申し分ない実力を――」

「あのカレー店の料理人ではないか……っ!?」

「――はい?」


 ジギルは頓狂な声を漏らす。

 どうやらバザールがリオンを見咎めた理由が、彼の予想とまったく違っていたらしい。


「冒険者? お前は冒険者なのか?」

「うん、そうだよ。料理も得意だけど」

「あんな料理を作っておきながら、冒険者だとは……」


 よほど驚いたのか、バザールは大きな身体をよろめかせる。


「ば、バザール様。失礼ですが、彼のことをご存じで……?」

「うむ。この少年は先日の料理大会に出場し、そこでコメで食べるカレーという素晴らしいアイデア料理を提供しておったのだ。食材さえ切らさなければ、間違いなく優勝していただろう」


 それを聞いて、私兵団や冒険者たちがざわつく。


「噂で聞いたぞ。とんでもなく美味いカレーだったって」

「俺も食べたかったんだが、最終日はもう提供してなかったんだよな」

「この少年の店だったのか……」

「何でこんなところにいるんだ?」


 リオンに注目が集まる中、バザールは何かに思い至ったのか、「なるほど」と頷いた。


「伝説の料理人と謳われ、クラスⅢジョブである【食帝】を取得していたとされるクッタ尊師も、なんと冒険者であったと言われている」


 どうやらバザールが尊敬している有名な料理人がいるらしい。


「尊師は自ら食材を探索するため、幾つもの危険地帯に挑んだという。わしが護衛を引き連れて魔境に立ち入ろうとするのも、クッタ尊師を敬えばこそ。無論、わしには戦う力などないがな。凄腕の料理人でありながら、冒険者としても抜きん出ていたという尊師は、まさしく超人であろう。だがまさかこんな少年が、尊師と同じ道を進んでいるとは……」


 リオンが料理のために冒険者になったと思っているようだ。

 全然正しくないが、ここは勘違いさせておいた方がいいだろう。


 そう判断したリオンは、「僕もその人を尊敬しているんだ」という顔をしておいた。

 もちろんクッタ尊師とやらのことはまったく知らない。


 それからバザールはリオンを自分と同じ馬車に乗らないかと言い出したが、双子がうるさくて迷惑をかけるからと丁重かつ全力でお断りした。

 でっぷり太ったおっさんと密室で一緒に目的地に向かうなど、もはや拷問だろう。


 四台の馬車がバザール邸を出発する。


 バザールの私兵団員は、ジギルを含めて五名。

 合計十六名(+双子・スライム・ゴースト)で、往復も含めて十日間に及ぶ魔境探索が始まるのだった。








 魔境〝虹の森〟へは、バルバラからおよそ二日かかってしまう。

 途中まではちらほらと町や村が点在していたものの、魔境に近づけば近づくほど少なくなっていき、やがて人の営みなど無縁の領域へ。


 そのため夜は野宿だった。


 しかしそこは金持ちの大貴族である。

 魔物の素材で作られた丈夫なテントを幾つも所有しており、リオンたち冒険者もそこで寝泊まりすることができた。


 さらに食べ物まで支給された。

 しかもなんと、バザールによる手作りだ。

 調理士系統のジョブを取得しているだけあって、冒険者たちから絶賛された。


「う、美味い!」

「野宿でこんな美味いもの、食ったことないぞ!?」

「これだよ、これ。このために毎年、この依頼を受けていると言っても過言じゃない」


 どうやらバザールの料理が食べたいばかりに、護衛依頼を引き受けている者もいるようだ。


「けど、さすがに今だけだよな? 十日となると、最後は保存食が中心になるだろうし」

「いやいや、驚くことにこれが何日経っても美味いんだよ。どうやらバザール卿の持つアイテムボックスは、中に入れたものが腐りにくくなる優れものらしい」

「それはすごいな」


 誰もが絶賛する中、あっという間に食べ尽くしてしまった双子が、一言。


「「……ふつう?」」


 やはり美味いものを食べ過ぎて、口が肥えてしまったらしい。


「まぁ、そうだな。悪くはないが、バルバラならこれより美味しい店は幾らでもある」


 野宿だと何でも美味しく感じられるという補正を受けるものだが、リオンの舌は誤魔化せなかった。

 恐らくバザールのジョブは、まだあまりレベルが高くないのだろう。


「お、おい、聞こえるぞっ?」


 リオンたちのやり取りを聞き取ったのか、ジギルが焦り出す。

 そこへちょうどバザールが近づいてきたのだから、ジギルは大いに慌てた。


「も、申し訳ありませんっ、今のはあくまで冗談で……っ!」

「今の? 何を言っているのだ、ジギル?」


 リオンの代わりに誤魔化そうとしてくれたジギルだったが、そもそもバザールは先ほどの発言を聞いていたわけではなかったらしい。


「そんなことより、どうだ、わしの料理は?」

「悪くないけど、バルバラならこれより美味しい料理を出せる店は幾らでもあるかな」

「っ!?」


 今度は面と向かってはっきりと言うリオンに、顔を青ざめさせるジギル。

 だが彼の心配とは裏腹に、バザールは首を振って、


「いや、リオン殿が言うならば間違いないだろう。やはりわしの料理の腕はここが限界のようだな」

「……リオン殿?」


 いつの間にかリオンに敬称が付けられていた。


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