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第13話 ただのコボルトだよね

 一匹のコボルトがリオンに襲い掛かってくる。


(そういえば剣を買っておけばよかったな……まぁ素手でいいか)


 何の武器も持ってないことに気づいたが、今更どうしようもない。


 倍化反射スキルを使えば勝手に倒せるだろうが、あまりそれに頼ってばかりでは勘が鈍る。

 そう思ったリオンは、牙を剥いて躍りかかってきたコボルトの喉首を掴むと、


「よっと」


 ズゴンッ!


 地面に叩きつけた。

 その怪力で地面が大きく陥没し、さらには周囲に亀裂が走る。


 コボルトは白目を剥き、絶命していた。


「「……は?」」


 目の前で起こった信じられない光景に、戦闘中であることも忘れて呆然とするセイラとユーリ。

 幸いコボルトたちの方も、自分たちより小柄な人間の少年が見せた力に驚き、動きを止めていた。


 そんな周囲の驚愕とは裏腹に、リオンは、


(やっぱり前世より力が落ちてるなぁ。まぁまだレベルが低いし、仕方ないか)


 と考えていた。


「「「が、がるるるっ!」」」


 一番の脅威があの子供だと判断したコボルトたちが、しばしのフリーズから立ち直ると、セイラたちを無視して一斉にリオンへと飛び掛かった。


 リオンの華奢な身体に、コボルトの牙が次々と突き立てられる。


「リオン!?」

「リオンさん!?」


 セイラとユーリがそろって悲鳴を上げた。

 だが、


「うん、さすがにこの程度の咬合力じゃ痛くないな」


 リオンは平然としていた。


「「「ぐるぅっ!?」」」


 自分たちの牙がリオンの皮膚に何一つ傷をつけられていないと知り、コボルトたちが戸惑いの声を漏らす。

 もちろんそうなったのは両者のステータスに圧倒的な差があるせいだ。


「次はこっちの番だ」


 リオンはそう言って右手の拳を前方に突き出すと、その場でぐるりと回転した。


「「「ぶふぁっ!?」」」


 コボルトたちがまとめて吹き飛ばされていく。


 わざわざいったん噛みつかせたのは、防御力を確かめる目的もあったが、その方が手間がかからないと考えたからだった。


 リオンの回転パンチを食らったコボルトたちは、吹き飛んで地面を何度も転がった後、起き上がってくることはなかった。

 死んでしまったらしい。


「……ねぇ、ユーリ、これは夢かしら?」

「……いえ、現実のはずです……確かめてみますか?」

「痛い」

「……痛いですね」


 セイラとユーリがお互いの頬を抓り合う中、リオンは再び「ひゅー」と口笛を吹いた。

 またしてもコボルトの群れが森の奥から現れる。


 それからリオンは、コボルトを集めては殲滅し、集めては殲滅し、というのを何度か繰り返して、気が付けば五十匹以上のコボルトを倒していた。


 その中にはコボルトの上位種であるエルダーコボルトも交じっていたのだが……リオンからすればただのコボルトと大差ない。


「大猟大猟」


 やはり口笛は便利だなー、とリオンはほくほく顔だ。

 森の中に入って魔物を探すのは骨が折れる。

 それが「ひゅー」とやるだけで、向こうからやってきてくれるのだから楽ちんだ。


 そこでリオンは、セイラとユーリが遠い目をして突っ立っていることに気づいた。


「あ、ごめん。僕ばっか倒しちゃって。二人も戦いたいよね?」


 二人は無言でぶんぶんと首を左右に振った。


「……? まぁ安心してよ。報酬は最初に取り決めしてた通り、ちゃんと山分けにするから」


((そういう問題じゃない!))


 二人の心の叫びがシンクロした。


 と、そのときだった。

 リオンは森の奥から近づいてくる強い気配を感じ取る。


 やがてそれが姿を現す。


 並のコボルトの三倍はあろうかというサイズのコボルトだった。

 右目を縦断する深い亀裂に、後頭部の近くまで裂けた口。

 その鋭い眼光は、もはや犬というより狼だ。


「グルアアアアアアアアアアアアッ!!」


 雄叫びが耳をつんざく。

 森の木々がざわめき、鳥たちが慌てて飛び立っていった。


「う、嘘でしょ!?」

「まさか森の主が出てくるなんて……っ!」


 セイラとユーリが悲鳴を上げた。


「キサマラカ、ワガドウホウヲ、コロシタノハ」

「おっ、しゃべった」


 知能の高い魔物の中には人語を解するものもいた。


「ユルサヌ、ゼッタイニ、ユルサヌゾ」


 リオンがコボルトを倒しまくったせいで、かなり怒っているようだった。


「終わりよ……」

「まさか最初の依頼で死ぬなんて思いませんでした……」


 セイラとユーリは恐怖で地面にへたり込み、互いに身を寄せ合って震えている。


「冒険者になって一旗揚げようなんて、やっぱり無謀だったのね……ごめんなさい、お父さん、お母さん……」

「親不孝な娘を許してください……」


 すでに死を覚悟しているようだった。

 しかし二人を追い込んだ張本人は、不思議そうに首を傾けながら、


「……? 少し大きいけど、ただのコボルトだよね?」

「どこが少しよ!? それにただのコボルトじゃないわ!」

「どう見てもコボルトキングですよ!」


 目の前の魔物はコボルトの最上位種であるコボルトキングだった。

 通常のコボルトと比べ、その危険性は段違いだ。


 小さな村や町なら滅ぼされてもおかしくないほどの事態で、対処できるのはA~Bランクの上級冒険者ぐらいである。

 新人冒険者の二人にとっては絶体絶命の危機だった。


 一方でリオンは、せいぜい「ちょっと普通より大きなコボルトが現れたなー」という程度の認識である。

 彼にとって、コボルトもコボルトキングも誤差の範囲なのだった。



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