第129話 受けてみて損はないかと
その日、リオンは冒険者ギルドを訪れていた。
料理大会で入賞を逃し、賞金をもらえなかったため、依頼を受けてお金を稼がなければならない。
ちなみに料理大会における各屋台での利益は、すべて運営側のものとなってしまうため、リオンの儲けはゼロだった。
そのお金は今回の運営資金に充てられるらしい。
元々の資金力によらず競えることを目的に、出場者全員にかなりの額の補助金を配ったりしているため……と、一応運営側は説明している。
「お姉ちゃん、何か報酬のいい依頼はない?」
「あっ、確か、Bランクの……」
受付嬢に声をかけると、どうやらリオンのことを覚えてくれていたらしい。
「報酬がいい、ですか……。それなら、ちょうどいい依頼があるかもしれません」
「どんなの?」
「こちらです」
【バザール卿の護衛 依頼ランクB】
グルメ王として知られるバザール卿からの依頼です。魔境〝虹の森〟に食材探しに行くため、実力のある護衛を探しているそうです。
参加条件:ギルドランクB以上(ただし採用試験があります)
報酬:実力に応じる/前払いあり
「グルメ王って、あのおじちゃん?」
「バザール卿をご存じですか?」
「うん、知ってる。というか、つい最近、会ったというか……」
「も、もしかしてお知り合い……?」
「ってほどじゃないけど」
冒険者ギルドの受付嬢が、まさかリオンが料理大会に出ており、料理をグルメ王に絶賛されたとは思わないだろう。
「それにしても、魔境で食材探しって……しかも自ら」
「バザール卿は新たな食材の発見にも力を入れておられるのですが、ご自身の手で調査したいというこだわりがある方でして、時折こうして当ギルドに依頼を出されるのです」
どうやらバザール卿は、調理士系統のジョブを取得しており、自らも料理をしているらしい。
(恐らくスキルの力で食材を見極められるんだろうな)
実際、リオンも調理士系統のジョブを得てから、食材の良しあしが手に取るように分かるようになっていた。
「虹の森は、場所によって植生がまったく異なり、色合いが全然違うことからこの名が付けられています。それゆえ多彩な植物が生息し、未知の植物がまだまだたくさんあると言われているんです。……ただ、もちろん魔境とされているほどですので、危険な魔物も多数、棲息しています」
だからBランク以上という条件なのだろう。
そもそもグルメ王ともなれば、私兵くらいは持っているだろうし、並の冒険者を雇っても意味がないはずだ。
「もちろん報酬はかなり期待できますが、書いてある通りこの依頼、採用試験を受けていただく必要があります。当然、不合格になる可能性もありますが……実は試験を受けるだけで結構な手当を出していただけるため、受けてみて損はないかと」
その採用試験を受けるため、リオンはバザール卿の屋敷へとやってきた。
さすがバルバラでも有数の貴族だけあって、かなりの大豪邸だ。
周囲は高く分厚い壁に覆われており、要塞めいた物々しさがある。
双子やメルテラは連れてきていない。
試験を受けるのはリオンだけなので、あまりぞろぞろと大人数で行くのもどうかと思ったからだ。
以前はどこに行くときも大抵、双子を連れ歩いていたが、今はメルテラの加入でお守りを任せられるようになったし、離れていても念話でやり取りできる。
今頃はどこかで食べ歩きを楽しんでいることだろう。
「む? 子供が何の用だ? ここはバザール様のお屋敷だぞ」
「僕はリオン。冒険者で、護衛依頼の採用試験を受けに来たんだ」
「その歳で……? ならば、ギルド証を見せてもらえるか?」
「はい」
「た、確かに……よし、入っていいぞ」
門番に案内され、屋敷内へと通されるリオン。
やがて連れてこられたのは、敷地内に設けられたバザールの私兵団が宿舎として利用している建物だった。
すぐ隣は広場となっており、訓練場として使われているようだ。
今も何人かが剣や槍などの鍛錬に励んでいるところだった。
「団長、護衛依頼の採用試験を受けに、冒険者が……」
「冒険者? まさかその子供のことか?」
「は、はい。もちろんギルド証は確認しました。Bランクです」
団長と呼ばれたその男は、身長二メートル近い屈強な体躯の持ち主だった。
年齢は三十代後半といったところか。
どうやら私兵団のリーダーらしい。
「僕はリオンだよ」
「ほう、名前だけは立派なものだ。だがそんな小さな身体で、果たして我らが主の護衛が務まるかな?」
「そのために試験があるんじゃないの?」
「ははっ、その通りだ」
そう一笑してから、男は訓練場の中央へと歩いていく。
「俺はバザール様の私兵団の団長を務めているジギルだ。若い頃はBランク冒険者だったが、妻と子供ができたことで引退し、この私兵団に入った」
不安定で命の危険の高い冒険者より、貴族の私兵の方が安全で安定している。
こうした例は決して少なくない。
「実力ではAランク冒険者にも負けない自信があるが……」
言いながら、ジギルは腰の剣を抜いた。
「その俺と最低でも五分以上はやり合える力がなければ、不採用だ。駄賃をやるから、そのまま回れ右してもらうことになるぜ」
つまり今からジギル相手に模擬戦をするということらしい。
シンプルでいいなと、リオンは頷いた。
「じゃあ、行くよ」
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