第126話 入賞圏内だ
「七位に上がってる。入賞圏内だ」
三日目までの記録が発表され、ついにリオンの屋台が入賞圏内へと躍り込んだ。
しかもグルメ王による予期せぬ宣伝効果も手伝って、加速度的に売り上げを伸ばし、上位を猛追している状態だ。
「この調子なら、今日の四日目でトップを狙えるのではないか?」
「いや、さすがにそこまでは難しいだろうな。現状、特に上位三位までがそれ以下を大きく引き離しているし、昨日と同じ売り上げでも届かない。だが、明日の最終日まで行けば確実に追い抜けるはずだ」
リオンにはすでに優勝が見えてきていた。
もちろん今日明日の売り上げ次第だが、恐らく昨日を下回ることはないだろう。
懸念があるとすれば、ライバル店の妨害だ。
昨日の怪しげな男、ベイビースーラに後をつけさせたところ、ランキング上位にいる出場者と繋がっていることが確認できたのである。
「ふふふ、びっくりさせるのも意外と楽しいですね! クセになっちゃいそうです!」
念のためシルヴィアに頼んで、軽く脅しておいたので、恐らくもう邪魔をしてくることはないだろう。
だがまた別のライバル店が妨害行為をしてくる可能性はあった。
(まぁ、そのときはそのときだ)
そんなことを考えながら、屋台で四日目の仕込みをしていた、そのとき。
「ん?」
リオンはそれに気づいた。
リオンの店のところへ、随分とボロボロの服を着た男の子が近づいてきていたのである。
年齢は双子と同じか、もう少し年長くらいだろう。
「おなかすいた……ぼくもたべたい」
貧民街の子供のようだ。
ロクに食べていないのか、可哀想なほどやせ細っている。
「「ん!」」
かつての自分たちの境遇を思い出したのか、双子がリオンの服の裾を引っ張った。
「仕方ないな……」
溜息を吐きながらもリオンはカレーをよそい、男の子の前に差し出す。
「……いいの?」
「ああ。だけどゆっくり噛んで食べるんだぞ」
「うん!」
リオンの注意を余所に、よほどお腹が空いていたのか、男の子は猛スピードでカレーを口に掻き込んでいった。
「ゆっくり食べろって言ったのに……」
ただでさえカレーは刺激が強いため、空腹時に食べると胃を壊してしまう危険があるのだ。
仕方ないのでリオンはこっそり男の子に補助魔法をかけ、一時的に胃を強化してあげたのだった。
――そんなリオンの様子を、密かに観察している男がいた。
「くくく、やはり子供だな。これなら奴の妨害ができそうだ」
四日目は販売開始前からすでに大行列ができあがっていた。
これなら間違いなく昨日以上の売り上げを期待できるだろう。
結果的には、その期待を大きく上回る成果となった。
前日のなんと二倍近い売り上げを叩き出したのである。
どうやらここに来てさらに噂が噂を呼び、バルバラの街中の人たちが押し寄せたようだった。
さすがのリオンも延々とやってくる無数の客を捌き切るのに苦労したが、超人的ステータスでそれを乗り越えた。
「あの少年の動き、見えたか……?」
「いや全然……」
「気づいたら十を超える皿にカレーが盛られていたぞ……」
「まぁあんな美味いものを食えるなら何でもいいけどな」
料理人を超越した動きを少々怪しまれはしたものの、カレーのお陰か、幸いそれほど話題になることはなかった。
それはともかく、今日の売り上げなら四日目にして一位に躍り出てもおかしくないだろう。
リオンのカレーは今や、都市中で話題沸騰となっており、明日で急に売り上げが落ちるようなことは考えにくい。
「ただ、万一に備えて作り置きしてアイテムボックスに保存してたものすら、もう底をつきかけてるし、明日に向けて改めて用意しないといけないな」
嬉しい悲鳴である。
(あと気になるのは……なんか広場の周辺に、貧民街の住民っぽい人たちがめちゃくちゃいたんだが……)
食べ物の匂いに釣られたのか、大会初日から少しずつ増えてきていたのである。
だが今日になって、一気に増加した印象を受けた。
しかもどういうわけか、リオンの屋台ばかりを遠巻きに見ているようだった。
(もしかして、子供がタダでカレーを食べさせてもらったことを知って、自分も貰えるかもしれないと思ったのか? ……面倒なことにならなければいいけど)
そのリオンの予想は、最悪な形で現実となってしまうのだった。
「よし、ついに四日目で一位になったぞ」
五日目。
大会最終日の朝。
リオンは前日までの順位を確認し、自分がトップに立ったことを知った。
結果は公にされているため、客も知ることができる。
第五エリアで、後方から一気に挽回して一位になった屋台となれば話題性も十分、もはや最終日の勝利は約束されたようなものだ。
だが意気揚々と屋台にやってきたリオンは、そこで今までにない光景を目撃することとなった。
「え?」
リオンの屋台を取り囲むように、無数の人たちが屯していたのだ。
まだ販売開始まで一時間以上あるが、待ちきれなくてすでに並び始めた客……という感じではない。
というのも、誰も彼もがみすぼらしい格好をしており、明らかにお金など持っていなさそうなのだ。
彼らは貧民街の住人たちだった。
「あっ、来たぞ!」
「店主だ!」
リオンに気づいて、彼らが一斉にこっちを向く。
そして歓喜の声を上げたのだった。
「なぁ、あんた! 俺たちにもカレーを食べさせてくれるんだって!?」
「本当にありがてぇ! 最近、何にも食えてねぇんだ!」
……そんなこと一言も言ってない。
リオンは内心で呻いた。





