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第125話 ここが噂のカレー店か

 バルバラは百年前も今も都市国家だ。

 周辺国とは独立して存在しており、元老会と呼ばれている議会が統治している。


 元老会に属しているのは、主にバルバラの貴族や大商人たちである。

 中でもグルメタウンとしての顔を持つバルバラにおいて、市民たちに最もその名を知られているのが、バルバラでも有数の大貴族、バザール=ランドールである。


 そのグルメに向けられた情熱から、グルメ王とも呼ばれる彼は、当然この料理大会の運営にもかかわっており、大金を出資している。


 そんな大物が現れたことで、第五エリアは俄かに騒がしくなった。


「グルメ王だ……」

「グルメ王が来たぞ……」

「まさか、第五エリアに……」


 もちろんグルメ王など知らないリオンは、


(どこぞの宰相に似てるな)


 という感想しか持ち得なかった。

 実際、バザールはかなりの肥満体型だし、それを特注と思われる高級な衣服で包み込んでいる。


「ここが噂のカレー店か」


 護衛と思われる兵士を従えたバザールは、行列など無視してリオンの店の前まで歩いてくる。


(面倒そうな貴族だな……)


 自分が優先されるのが当然とばかりのバザールの態度に、やはり某宰相とそっくりだと思うリオン。

 相手が大貴族とあってか、並んでいた人たちも仕方ないといった顔をしているし、割り込みを咎めることなく普通に接客することにした。


「いらっしゃいませー」

「カレーを一杯くれ」


 横柄な口ぶりで注文してくるバザール。


「ありがとうございますー。トッピングはどうしますかー」

「トッピング?」

「トンカツ、チーズ、目玉焼きの三種類を選べますー」

「なるほど。ならば、すべて乗せてもらおう」


(まさかの全乗せ!? さすがグルメ王と言われるだけあるな。……だから太るんだろうけど)


 内心で驚きつつ、リオンはすべてのトッピングをカレーに乗せた。


「ほう、なかなかのボリュームだな」


 全乗せカレーを受け取ったバザールは、山盛りのそれを満足そうに眺める。

 後ろで他の客が待っているというのに、店の前から移動しようともしない。


 もしかしたらこの場所で食べるつもりなのだろうか。

 しかもまだお金をもらってない。


 別にお代は要らないから早くどこか行ってくれよと願うリオン。

 しかし案の定、バザールはその場でカレーを食べ始めてしまった。


「~~~~っ!? う、美味いっ!? まさか、コメとカレーがこれほどまで合うとは……っ!」


 おおおっ、と周囲から歓声が上がった。


「あのグルメ王が一言目で『美味い』と言ったぞ……っ!」

「滅多に料理を褒めないというあのグルメ王が……」


 そんな声があちこちから聞こえてくる中、バザールは大きな口にカレーを掻き込んでいく。


「このトッピングのチーズだが、カレーの辛みをまろやかにしてくれ、また違った味を楽しむことができるな……っ! 目玉焼きは半熟かっ! トロトロの黄身がカレーと混ざり合って、チーズとはまた違うまろやかさを生み出している……っ!」


 さらにバザールは、トンカツへと齧りついた。


「っ!? こ、このトンカツっ……まさか、オーク肉か!? このトンカツだけでも十分やっていける美味さだというのに、カレーのトッピングとして使うとは、なんと大胆かつ贅沢な……っ!」


 トンカツがオーク肉を使ったものだとよく気づいたなと、初めてリオンは感心した。

 あのオーク狩りで大量入手し、アイテムボックスに保存していたものを利用したのである。


(自分で狩ってきたものだから経費にはならないし、何より普通の豚肉より味がいい)


 オーク肉は需要が高く、しかし狩るのは決して簡単ではないため、かなりの高級品だ。

 もしどこかで仕入れていたなら、こんな安い値段でトッピングすることなど不可能だっただろう。


 それにしても一瞬でオーク肉だと気づくとは、伊達にグルメ王と名乗っていないらしい。

 ……本人が名乗っているかは知らないが。


「トッピングのトンカツ、オーク肉なのか!?」

「そんな高級品をあの値段で!?」

「マジか! そうと知ってりゃ、絶対トッピングしたのに!」


 そもそもコメのカレー自体が珍しいこともあって、さらにそれにトンカツをトッピングする客はこれまであまり多くなかった。

 もしオーク肉だと知っていれば、もっと注文が入っただろう。


 だがリオンはあえて伏せていた。

 四日目あたりにその情報を流すことで、一度来た客をもう一度呼び込もうという魂胆からだ。


 バザールのせいで予定が少し狂ってはしまったが、一日くらい誤差の範囲だろう。


「うむ、素晴らしい料理だったぞ」


 あっという間に全乗せカレーを食べ切ってしまったバザールは、そう賞賛の言葉を口にしながら、リオンに金貨一枚を渡してきた。


「金貨?」

「わしからの気持ちだ。売り上げに加えても構わぬ。これからも精進して美味い料理を作るがいい」


 バザールはそれだけ告げると、大きな体躯を翻して去っていく。


 それからようやく販売を再スタートしたリオンだったが、その後はこれまで以上の大繁盛となった。


「あのグルメ王が認めた料理らしいぞ!」

「そりゃ間違いねぇな!」

「俺もトッピング全乗せしよう!」


 グルメ王が来たことによる宣伝効果が凄まじかったのである。

 そうして三日目は、二日目の三倍を超す驚異的な売り上げを記録したのだった。


書籍版1~2巻が発売中。よろしくお願いします。

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