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第123話 意識が吹き飛びそうになるらしいぞ

「なんて美味さだ……っ! コメと一緒に食べるカレーがこんなに美味しいなんて……っ!」


 最初の客である中年男性はあっという間に完食してしまった。


「ふぅ……美味かった。まさか第五エリアにこんなお店があるなんて」

「あ、そうだ。忘れてた」

「?」

「実はトッピングもあったんだ。三種類の中から選ぶことができたんだけど……」

「何だって!? 何でそれをもっと早く言わないんだ!」

「ごめんね。最初のお客さんで、つい忘れちゃってた」

「……いや、気にしなくていい。また必ず来るから。しかし三種類か……しかもどれも美味しそうだな……」


 中年男性が去っていくのを見送って、リオンは「上手くいったな」と頷く。

 それが聞こえたのか、メルテラが、


「上手くいった? トッピングを忘れておったじゃろう」

「ワザとだよ」

「ワザと?」

「うん。あえて最初はトッピングなしで食べてもらったんだ。きっとトッピングありを食べたくなるだろうなと思って」

「お主、なかなか小賢しいことするのう……」

「戦略だよ、戦略。ただでさえ場所のハンデがあるんだから、普通にやっていても難しいって」


 悪びれることもなく言いつつ、リオンは皿にコメカレーをよそった。


「何をしておるのじゃ? 客はおらぬぞ?」

「知ってる。ちょっと予想以上に人が来ないから、呼び込みをしてもらおうと思って。ほら、二人とも。これ食っていいぞ」

「「いいの!?」」

「ああ。だが広場を回りながら食べるんだ。一気に食べちゃダメだぞ? できるだけゆっくり、美味しそうに食べるんだ。いいな?」

「「ん!」」


 さっきからカレーの匂いで涎を垂らしまくっていた双子は、まさかこんなに早くカレーにありつけるとは思っていなかったのか、尻尾を犬のように振って喜びを露にする。


「ま、まだ何もしておらんではないか!」

「作戦だって、作戦。ほら、見てみろ」

「っ……」


 カレーをなんとも美味しそうに食べながら歩く可愛らしい双子に、周囲の注目が集まってきていたのである。


「あれはカレーか? コメと一緒に食べるなんて、ちょっと変わっているな」

「それにしてもあの子供たち、随分と美味しそうに食べているな……」

「どの屋台で売ってるんだ?」

「「あそこ!」」

「おお、あの屋台か!」


 双子のお陰で、次第に客がリオンの屋台へと集まってきた。

 さらにリオンは風魔法を使い、煮込み中のカレーの匂いを広場中へと拡散させる。


「すごくいい匂いがするぞ……」

「カレーの匂いじゃないか」

「なんだか無償にカレーが食べたくなってきたな……」


 人はカレーの匂いを嗅げばカレーを食べたくなるものなのだ。間違いない。


 リオンがカレーを選んだのも、実はこの性質が使えると踏んだからだ。

 たくさんの屋台がある中から客に選ばれるために、匂いの力は非常に効果的である。


 そうしてその後は順調に客が集まり続け、大会一日目を悪くない売り上げで終えることができたのだった。








「一日目の結果は……なるほど、八十七位か」


 大会では参加者たちが毎日の売り上げを運営に報告し、それを元に翌日の朝にはその時点での順位が発表される。

 初日を終えたところで、リオンは二百店中、八十七番目という順位だった。


「第五エリアの中ではトップクラスの売り上げだったはずなんだけどな。やっぱりエリアそのものが厳しいのか」


 リオンが分析する通り、他のエリアであれば、人気店には途切れることのない行列が当たり前で、中には一時間待ち、二時間待ちといったケースもあるほどだ。

 そもそも客が少ないこの第五エリアでは、それだけの行列ができることなどあり得ないだろう。


「こんなんで大丈夫なのかの?」

「まだ始まったばかりだし、これからだ」


 メルテラの疑問に、リオンは自信をもって答える。


 大会は全部で五日間あり、その総売り上げで競う。

 つまり残り四日で挽回していけばいいのである。


「しかしこの過疎エリアでは、追いつくどころか離されるだけではないか?」

「確かにここは人が集まり辛いエリアだが……その不利を覆す方法がある。ほら、見てみろ」

「む?」


 リオンが広場へと視線を向ける。

 まだ二日目の販売開始前だというのに、昨日よりも明らかに多くの人が集まってきていた。


 しかもその多くが、リオンの屋台の方へと歩いてくるのだ。


「あの店だっけ?」

「恐らくそうだろう。見ろ、聞いていた通り店主が子供だ。それに目印の双子がいる」

「めちゃくちゃ美味しいカレーを売ってるんだって」

「それは楽しみだな」

「噂では食べた瞬間、意識が吹き飛びそうになるらしいぞ」

「なにそれやばい」


 メルテラが目をパチクリさせた。


「これは一体どういうことじゃ?」

「口コミだ、口コミ」


 昨日リオンのカレーを食べた客たちが、その美味さを知人や友人に伝えたのだろう。

 気になってわざわざここまで食べにきてくれたのだ。


 こんなふうに、あそこの店が美味いという評判が広がれば、足を運んでくれる客がどんどん増えていくはずだ。

 それこそが口コミ、場所の不利を覆す力である。


「さて、今日は昨日よりも忙しくなるぞ」


 開店前ながらすでに行列ができはじめたことに満足しながら、リオンは気合を入れるのだった。


書籍版2巻発売中です! web版よりもゼタが可哀想な目に遭っているので、ぜひ読んであげてください。

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