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第120話 こう見えても料理は得意なんだ

書籍版2巻がいよいよ明日31日に発売されます! ぜひよろしくお願いします!

「ここが飲食店ギルドか」


 さすがはグルメタウンとして知られるバルバラの、全飲食店を統括するギルドである。

 冒険者ギルドにも勝る大きな建物だった。


 料理大会への出場権を獲得するため、試験を受けに来たのだ。


 大会で提供する料理はすでに固まっている。

 試作品を双子やメルテラ、さらには宿の店員や宿泊客にまで食べてもらったところ、大絶賛されたことで、これなら間違いないとリオンは確信を深めていた。


「あそこかな?」


 それらしき窓口を発見し、リオンは近づいていく。


「お姉ちゃん、ここで料理大会の出場を受け付けてるの?」

「はい、そうです。……えっと、もしかしてあなたが出場されるのですか?」

「うん。こう見えても料理は得意なんだ」

「……そうですか。では、予選試験を受けるということでよろしいですね?」


 予選試験を受けることができるのは、合計二回までらしい。

 だが今回の大会まで、予選試験は残すところあと一回しかないそうだ。


 つまりリオンは一発で合格しなければならないということになる。


「試験の通過率はおよそ二十パーセントほどです。五人に一人といった割合ですね。非常に難関ですが、今後も大会は続いていく予定です。十度目でようやく大会への出場権を獲得した料理人もいますから、諦めずに何度でも挑戦してみてください」


 リオンのような子供がいきなり合格することなどあり得ないと思っているのか、まだ受ける前だというのにフォローしてくる。


「う、うん」


 曖昧に頷きつつ、登録を済ませるリオン。

 その最後の予選試験が行われるのは明後日だった。


「特に最後の予選試験には参加者が殺到するため、毎年かなりの激戦となりますので、たとえ不合格となっても気落ちする必要はありませんよ」







 そうして翌々日、リオンは再び飲食店ギルドを訪れていた。


 他の出場者とともに、幾つものキッチンがずらりと並んだ広い調理室へと案内される。

 ここで実際に料理を作り、それを審査員が試食して合格者を選ぶらしい。


 この調理室にいるのは二十人ほどだが、あと二つ、別の調理室にも同程度の人数がいるらしく、今回の参加者はおよそ六十人になるという。

 いずれもリオンより年上で、中には五十歳ぐらいの人もいた。


 ピリピリした空気の中、進行役が試験の開始を宣言する。


「制限時間は一時間です。大会で提供する予定の料理を審査員の方々分、つまり三人前を完成させてください。できた方から試食を行いますので、完成次第、料理を前へお持ちください。それでは調理スタートです」


 次の瞬間、参加者たちが一斉に動き始めた。

 野菜を切る者、魚を捌き始める者、フライパンを火にかける者……腕に覚えのある料理人たちだけあって、各々がさすがの手際の速さで調理を進めていく。


 しかしそんな中あってなお、異次元の調理速度を見せている最年少出場者がいた。

 もちろんリオンである。


 目にも止まらぬ速さで包丁を振るえば、一瞬にして野菜が切り終わっていた。

 しかもジャガイモの皮までもがしっかりと剥かれている。


(え? 今、どうやって野菜切ったの……?)


 すぐ隣で調理していた料理人がそれを目撃して目を見張る中、リオンは肉や野菜、キノコなどを炒めていった。


 炒めた材料を鍋で煮込み始めるリオン。

 そこへ用意していた様々な種類の香辛料を入れていく。


 この香辛料の種類や割合が味を決めると言っても過言ではないため、試作品が絶賛された後も、研究を重ねてさらなる改良を施していた。


 混ぜ合わせたスパイスは、なんと十五種類以上。

 その中には一般的には使われていないものもある。

 ……凶悪な植物系の魔物から採取したスパイスなど、流通しているはずもない。


「「「っ!?」」」


 自らの調理に没頭していた他の参加者たちが、思わず動きを止めた。

 リオンの使う香辛料が放つ圧倒的な香りが会場中に広がり、彼らの嗅覚を強烈に刺激したのである。


「な、何だこの美味そうな匂いは……?」

「一体、誰が……?」

「勝てない……勝てるわけがない……」


 あちこちから色んな料理の匂いが漂ってくるため、匂いの源を特定することは難しいが、それでもなお、参加者たちを虜にしてしまうほどのものだった。

 中には力の差を痛感し、完全に調理を止めてしまう者までいた。


 煮込んでいる間に、リオンは鍋に入れた粒状の白い穀物を水で研いていく。

 そして水に浸した状態で蓋をし、火にかける。


 後はもう待つだけだ。


「よし、できあがり」


 やがて調理を終えたリオンは、理想通りに完成したことに安堵の息を吐いた。


 気づけば残り時間は十分。

 しっかりと煮込んでいたため、ギリギリになってしまった。


 リオンが料理を運んでいくと、審査員たちは今か今かとそれを待っていたらしく、


「やっとできたか!」

「は、早く食べさせてくれっ!」

「カレーは大好物なんだ!」


 そう、リオンが作った料理はカレーだった。

 しかしバルバラで出回っているカレーと違い、パンに付けて食べるものではない。


「カレーの下に、コメが敷き詰められている……?」

「うん、そうだよ。コメにカレーをかけたんだ」


 リオンは頷いた。


「そんな組み合わせ方が……」

「しかし、合うのか……?」


 疑いの目を向けてくる審査員たちに、リオンは断言した。


「もちろん。カレーとコメの相性は間違いないよ」


※ちなみにインドでも普通にお米でカレーを食べますが、この世界ではカレーをそういうふうに食べる習慣がないということで。

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