第12話 一緒に依頼を受けない?
「ねぇ、キミ。よかったら私たちと一緒に依頼を受けない?」
掲示板のところで依頼を探していると、リオンに声をかけてくる人物がいた。
十六、七歳くらいと思われる女の子の二人組だ。
片方は黒髪ですらりとした長身で、勝ち気そうな印象を受ける。
腰に剣を提げていることから剣士だろう。
もう一人は銀髪の長い髪の少女で、こちらは温和そうな雰囲気。
杖を持っているところを見るに、魔法使いだろうか。
「確か、さっき試験で」
リオンはこの二人組に見覚えがあった。
先ほどの試験のときだ。
「ええ。試験を受けて私たちも合格したの。私はセイラ。こっちは幼馴染のユーリよ」
「こんにちは。ユーリです」
銀髪の少女がぺこりと頭を下げてくる。
「それで、どうかしら? キミにとっても悪い提案じゃないと思うけど。あの試験官を圧倒したくらいだし、そのスライムの強さは間違いないとしても、やっぱりソロだと危険でしょ?」
リオンは思案する。
前世なら足手まといだからと確実に断っていただろう。
だが今のリオンは勇者ではない。
新米冒険者だ。
同じ新米冒険者とのんびり冒険をしてみるのも悪くないだろう。
「うん、いいよ。僕なんかでよかったら」
「謙遜する必要はないと思うけど……」
セイラはそう呟いて、
「でも助かったわ。さすがに二人だけじゃ心もとなかったし。どこかのパーティに入るにしても、もう少し情報を得てからにしたかったのよ。見ての通り女二人だから、さっきから何度も声をかけられてはいるんだけど……」
道理でさっきから周囲の男性冒険者たちがちらちらとこっちを見ているわけだと、リオンは思った。
二人ともそれなりに容姿がよく、ぜひ自分たちのパーティにと狙っている者が多いのだろう。
その点、リオンは中身こそ違えど、見た目はいかにも純粋そうな子供。
だからちょうどよかったのだろう。
「依頼だけど、これなんかどうかしら?」
セイラが提案してきたのは、「森から出てきたコボルトの駆除」というものだった。
常設されている依頼らしく、倒した分だけ報酬が貰えるようだ。
期限やノルマもないので気楽そうだった。
「初めてやるにはちょうどいい依頼だと思うわ」
「うん、いいと思うよ」
三人は受付で依頼を受理すると、すぐに出発することにした。
街を出て西へと向かう。
遠くに森が見えるが、その手前にはなだらかな草原が広がっていた。
「コボルトコボルト……全然いないわね」
「そうですね」
見渡してみるが一匹もいない。
元々コボルトは森に生息している魔物だ。
あまり草原に出てくることはない。
それでも時折、森の外に現れることがあるので、街に近づく前に駆除してしまおうというのがこの依頼というわけだ。
「森に入れば沢山いそうだけれど……」
「それは今回の依頼じゃないですしね」
森に入ってのコボルト討伐はもう少し難度が高く、彼らのランクでは受けることができなかったのだ。
実際、受理の際に「くれぐれも森に入ったりなんかしちゃダメよ?」と、シルエからも強く釘を刺されている。
だがこのままでは報酬ゼロで終わってしまいかねない。
(要するに森に入らなければ大丈夫ってことだよな?)
そう考えたリオンは、ある方法を使うことにした。
「ひゅ~♪」
口笛。
セイラが「随分と暢気ね……」という顔でリオンを見たが、無論、ただの口笛ではない。
これは【調教士】になって習得した新たなスキルであり、魔物を呼び寄せるという効果があった。
「あ、来るよ」
「え?」
「来るって、何がです――っ!?」
セイラとユーリが息を飲んだ。
森の中から二足歩行の生き物が姿を現したからだ。
コボルトだ。
全身は毛に覆われ、犬の頭を持つ。
身の丈は平均して百六十センチほど。
ゴブリンよりは幾らか大きい。
しかも一匹や二匹ではない。
次々と森の奥から出てきくる。
「ちょっ、いきなり群れ!?」
「じゅっ、十匹以上います……っ!」
セイラとユーリが慌て出した。
それはそうだろう。
駆け出しの冒険者からすれば、十匹を超えるコボルトの群れは脅威なのである。
だからこそ森の中に入ってはいけないと言われているのだ。
だがリオンにとって、コボルトなど何匹いたところで一緒だった。
むしろ気になるのは稼ぎの方らしく、
「これだけいたら、一人当たり銀貨一枚くらいにはなりそうだね」
「そんな計算してる場合じゃないでしょ!? むしろ逃げた方が――」
「ダメです、セイラ! コボルトは足が速いから逃げられません!」
「くっ……仕方ない、やるわよ、ユーリ!」
セイラが悲壮な覚悟を決めた顔で剣を抜く。
ユーリも強張った顔で杖を構えた。
そんな真剣そのものの二人の様子にリオンは、
(……やっぱり初仕事だから緊張してるのか?)
などとまるで見当違いのことを考えていた。
『やるのー』とスーラがリオンの頭の上から飛び降りる。
そして自らコボルトの群れへと立ち向かっていった。
「私とあのスライムで食い止めるわ! ユーリは止め切れなかった魔物からリオン君を護ってあげて!」
「了解です!」
セイラが勇ましく叫び、スーラを追ってコボルトの群れへ正面から突っ込んでいく。
すぐに激突した。
「がうがうっ」
「がおーっ」
雄叫びを上げて躍りかかってくるコボルトたちを、スーラはタックルで吹き飛ばし、セイラは剣で斬り伏せる。
さらにユーリが放った火の魔法が直撃して、コボルトが炎に包まれた。
「ぐるるるあっ!」
そんな中、一匹が後方にいるリオンとユーリのところまでやってきてしまった。
「ユーリ、ごめん!」
「ま、任せてください!」
ユーリが杖を武器にして撃退しようと構える。
このとき二人は、リオンのことを一般的なテイマーと同じように考えていた。
すなわち、戦闘能力などない非力な子供と一緒だ、と。
「「あ、危ない!」」
ゆえにリオンがいつの間にかユーリの前に出て、何の武器も持たずに迫りくるコボルトに立ちはだかったとき、悲劇を予想して思わずそう叫んでしまっていた。
次の瞬間、リオンは片手でコボルトの喉首を掴み、簡単に投げ飛ばした。
「「……は?」」