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第114話 好きなだけ食べていいぞ

 土の船を走らせること約三日。

 リオン一行はバルバラへと辿り着いていた。


 各国の王都に勝るとも劣らない大きな都市で、人口も多い。

 交易都市として人の出入りが非常に激しいため、城門は昼夜問わず解放されており、いつでも無許可で通行することが可能だった。

 いちいちチェックなどしている余裕はないのだろう。


 子供ばかりのリオンたちも特に呼び止められたりすることなく、すんなりと街中へと入ることができた。


「うむ、さすがはバルバラ。なかなかの活気ぶりじゃの」

「ですねー」


 リオンのみならず、メルテラとシルヴィアにとっても百年ぶりに訪れる都市だ。

 懐かしそうにキョロキョロと周囲を見回している。


 グルメタウンの名に相応しく、バルバラのメインストリートには飲食店がずらりと軒を連ねていた。

 中には店の前で、通行人に向けて食べ歩き用の商品を作っているところもあった。


「「ん……」」


 不意にアルクとイリスが、とある店へと吸い寄せられるようにふらふらと歩いていく。


 中年女性が店先で揚げ物をしているようだった。

 香ばしい匂いが辺りに漂っており、双子はそれに釣られてしまったのだろう。


「「じゅるり」」

「一個銅貨二枚だよ」


 今にも涎を垂らしそうな双子に気づいて、女性は牽制するように値段を告げた。

 相手が幼い子供だろうと、しっかり商売をしようというのがバルバラらしい。


 リオンは声をかける。


「おばちゃん、これは何ていう料理なの?」

「これはコロッケだよ。茹でて潰したジャガイモを丸めて揚げたものさ」

「へー」


 大きさはリオンの拳ぐらいだろうか。

 周囲をパン粉で覆うことで、カリッとした食感になるよう工夫しているようだ。


 リオンも知らない料理だ。

 たまたま知らなかったのか、百年前にはなかったのかは分からないが。


「じゃあ、三つ下さい」

「三つ?」

「え? お前も食べるの?」

「当たり前じゃ!」

「私も食べたいです!」

「メルテラはともかく、お前は無理だろう」


 ゴーストのシルヴィアにはそもそも食べることができない。


「うー、こんなことなら生き返ってから付いてくるべきでしたっ!」


 結局、四人分を購入することにした。


「まいど~」


 女性店主の機嫌のいい声を背に、早速コロッケとやらに齧りつく。


 最初のサクサクッという食感。

 しかし中はほくほくと柔らかく、その対照性が面白い。


「美味しいな」


 ジャガイモだけでなく、挽肉や野菜なども使われているようで、それらも良いアクセントになっていた。


「「……なくなった」」


 あっという間に食べ切ってしまった双子が、この世の真理を前に打ちひしがれている。


「そりゃあ、食ったものはなくなるだろ」

「くくく、残念じゃったのう。わらわのはまだこんなに残っておるぞ?」

「「……」」


 ゆっくり味わっていたためか、まだ半分以上残っているメルテラのコロッケを物欲しそうな目で見る双子。


「そ、そんな目をしてもやらぬぞ!」


 二人に取られると思ったのか、メルテラはコロッケを隠した。







 途中で何度も食べ物に釣られてしまう双子を両脇に抱えて、リオンは宿を探していた。


 すでに夕刻。

 早めに今日の宿を確保しておきたかった。


「いらっしゃい」

「おばちゃん、二部屋空いてる?」

「あんたたち子供だけかい? ちゃんとお金があるんなら構わないけど」

「前払いするよ」

「それなら問題ないね」


 お金を支払い、部屋の鍵を受け取る。


「何でわらわだけ別の部屋なのじゃ……」

「いや、一人じゃないぞ」


 ぶつぶつ言っているメルテラへ、リオンはシルヴィアがいるだろうと指摘する。


「ゴーストなんぞと一緒に寝れるか!」

「酷いです! 死んでますけど、ちゃんと仲間扱いしてください!」


 この宿は素泊まりしかやっていないらしい。

 というより、この街の宿の大半は素泊まりのみだそうだ。

 美味しい飲食店が多く、客のほとんどが外で食べたがるからだという。


 そんなわけで、宿を確保したリオンたちも、外食するためいったん宿を出た。


「「じゅるり……」」

「すぐに夕食だから我慢しろ」


 相変わらず道々で食べ物に引き寄せられそうになる双子にそう言い聞かせながら、リオンは良さそうな店を探し歩く。


「これは……」


 そしてある店の前で立ち止まった。


「スシまであるのか」

「「すし?」」

「東方にある小さな島国の料理だ。こんな店まであるとは……さすがはグルメタウンだな」


 勇者として世界中を旅したリオンだが、当時はその島国にしかなかった郷土料理だ。

 コメと呼ばれる穀物と魚介類を組み合わせたもので、その美味さに驚いたことを覚えている。


 アルクとイリスは魚が好きなので、恐らく気に入るだろう。


「へいらっしゃ~~~いっ!」

「「っ!?」」


 中に入ると、威勢のいい声で出迎えられた。

 双子がビクっとしてリオンの後ろに隠れる。


 店内はほぼ満席だった。

 どうやらかなり繁盛しているようだ。


 テーブル席に座り、メニュー表を確認する。


「珍しい種類のスシもあるな」


 ネタに使われるのは主に魚介類のはずだが、ここでは肉やキノコ、さらにはチーズなどを使った寿司も提供しているらしい。

 こうして独自のアレンジが加わるのも、このグルメタウンの特徴だ。


「しかしなかなか良い値がするな」


 スシに使われる魚介は新鮮さが命。

 バルバラは内陸部の都市なので、海から鮮度を保ったまま運んでくるには相応の輸送費が必要となり、どうしても高級品になるのだろう。


 よく見ると客も身なりがいい人ばかりである。


「まぁ、お金は幾らでもあるしな。好きなだけ食べていいぞ」

「「ん!」」


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