第113話 ついに冒険の旅がスタートするわけですね
王都に戻ろうとしたところ、アンリエット一行と遭遇しそうになってしまったリオンたち。
慌てて木の陰へと身を隠す。
(何であいつらが……?)
彼女たちと別れた――というより撒いた――のは、王都は王都でも隣国であるステア王国の王都だ。
まさか他国まで追いかけてきたのかと、その執念に戦慄を覚えるリオン。
絶対に見つかってはならないと、気配を完全に殺して彼女たちが通り過ぎるのを待っていると、突然、ティナが足を止めて叫んだ。
「間違いない! 近くにロリショタがいる!」
リオンは双子を見やる。
『……気配ちゃんと消してるよな?』
『『ん』』
間違いなく双子はしっかりと気配を断っていた。
隣にいるリオンでも、ほとんど感じ取ることができないくらいだ。
確かにティナは優秀な斥候ではあるが、双子の気配を察知できるとは思えない。
(もしかしてただの勘? だとしたら何て奴だ……)
恐るべきロリショタへの嗅覚である。
「ほ、本当ですかっ?」
「リオンはんもおるんかっ?」
「それは分からない。ショタは10歳が限界」
「じぶんの定義なんか知らんわ……」
「すんすん……こっち」
ティナが文字通りの嗅覚で双子の位置を探り当てたのか、リオンたちの方へと近づいてくる。
「よし、逃げるぞ」
『はいなのー』
「「ん」」
「よいのか?」
「えっ、逃げちゃうんですか?」
リオンは即座に逃走という手段を選ぶことにした。
メルテラとシルヴィアが戸惑っているが、構わず木の陰から飛び出す。
「「「あっ!」」」
アンリエットたちが声を上げる。
「本当にいました!」
「リオンはん! 会いたかったで! って、何で逃げるんや!?」
「せめてロリショタを! ロリショタを置いていって!」
何やら後ろで喚いているが、構わず湖に向かって全力疾走。
「メルテラ、船!」
「任せておくのじゃ!」
メルテラが土魔法で小船を作り出し、それに飛び乗る。
双子はリオンに両脇に抱えられる形だ。
「ちょっ、私のスペースがないんですけど!?」
「ゴーストなんだから乗る必要ないだろ」
「出航じゃ~っ!」
威勢のいい掛け声とともにメルテラが船を発進させた。
シルヴィアは湖の上を飛んで付いてくる。
「くっ……また逃げられました……っ!」
「何でや、リオンはん!」
「遠ざかるロリショタ……それは絶望……」
岸辺で悔しそうにしている三人を後目に、船は湖の上を順調に走っていく。
「お主も酷い奴じゃのう。少しくらい相手をしてやってもええじゃろうに」
「そうですよ! 何も取って食われるわけじゃないんですから!」
「本当にそう思う?」
「「え?」」
岸辺の方を振り返った。
「せめてチューだけでも……っ! いや、ハグ! ハグだけでもええ! ……ハグして正気を保ってられる自信はあらへんけど! ハァハァじゅるり……」
「ただ近くで……観賞したい……だけなのに……手は出さない……イエスロリショタ、ノータッチ……ノータッチ……ノータッチ!? 無理無理無理ぃぃぃっ! ゴォォォッタァァァァッチィィィッ!」
「……逃げられるのはあなたたちのせいでは?」
二人はリベルトの街に置いてきた方がよかったのではないか、ここにきて真剣に考え始めるアンリエットだった。
やがてリオンたちは対岸へと辿り着いた。
「それで、これからどうするのじゃ?」
「このまま別の国に行こうと思う」
「わっ、いいですね! ついに冒険の旅がスタートするわけですね!」
前世でリオンの仲間になれなかったシルヴィアにとっては、念願が叶った瞬間だ。
嬉しそうにクルクルと宙を舞う。
「あやつらに何も言わずに行ってしまってよいのか?」
メルテラが言うのは三聖女たちのことだろう。
確かに無言で去っていくというのは礼儀知らずな行為かもしれないが、リオンはまったく気にする様子もなく、
「大丈夫だろ。またいつでも来れるし」
「?」
首を傾げるメルテラ。
実はゼタの鍛冶工房にも施した転移魔法のためのマーキングを、神殿の地下迷宮にこっそりと刻んでおいたのだ。
普通の教会では、クラスⅢジョブの取得ができないかもしれない。
それゆえ〝大祈祷〟を使える神官が確実にいるこの国の神殿には、また世話になることがあるだろう。
「それでそれでっ、どこに行くんですかっ?」
「交易都市バルバラに行ってみようかと考えている」
交易都市バルバラ。
百年前は大陸最大の都市とされ、複数の国々の主要都市を結ぶ交通の要衝に位置することから、商業と貿易の中心として栄えていた。
現在もその興隆は健在らしい。
「それだけじゃない。交易の中心ってことは、あるものが盛んだということだ」
『あるものー?』
「グルメだ」
「「ぐるめ?」」
「食べ物のことだよ」
交易都市バルバラのもう一つの顔。
それは各地から様々な食材が、料理レシピが、そして料理人が集う、グルメタウンであるということだ。
かつてリオンが訪れたときも、珍しい食材や料理が沢山あった。
あれから百年。
きっとさらなる発展と進化を遂げているに違いない。
「「たべもの! いく!」」
思った通り、食いしん坊の双子が食いついてきた。
目を輝かせ、すでに「「じゅるり……」」と仲良く涎を垂らし始めているほどだ。
「よし、決定だな。次の目的地はバルバラだ」





