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第108話 どう見ても同一人物じゃないか

「何かありそうって……何もないではないか?」


 なぜか何もない壁の前でリオンが立ち止まったので、聖女たちも怪訝そうに足を止めた。


「うん、見た感じはね。でも壁の向こうに空間があるみたいなんだ」

「空間? 何のためのよ?」

「僕には分からないよ。聖女のお姉ちゃんたちは何か知らないの?」

「わたしたちにも分かりませんね……」


 この地下迷宮の地図を確認してみる。

 すると地図上でも、確かに通路の脇に不可解な空間が設けられているのが分かった。


 要するに隠し部屋だろう。

 しかしリオンは壁を念入りに確認してみるが、出入り口を出現させるようなスイッチは見当たらない。


「どうやって行くんだろう?」


 しばし思案したのち、リオンは三人の聖女たちに訊いた。


「この壁、壊しちゃってもいいよね?」

「ま、待て待て待て!」


 モーナが慌てて止めた。


「い、一応ここは我が国にとっての歴史的な建造物なんだ。さすがに破壊するのは困る」


 どうやら強引に壁を破壊するという方法はダメらしい。

 それが一番楽だったのにな……と残念がりながら、リオンは他の手を考える。


 と、そのとき。


「ふっふっふ! こういうときは私に任せてください!」

「……」

「って、いい加減、返事してくださいよ!?」


 リオンは仕方なく声がする方向を見た。

 当然のように勝手に付いてきていたゴーストが、頬を膨らませて喚いている。


「……まだいたの?」

「いますよ!? ここに入ってきたときからず~~っといましたよね!? ていうか、何度も話しかけてるのに何で無視するんですかっ!」

「仕方ないだろ……」


 このゴーストの姿は基本的に聖女たちには見えていないのだ。

 返事をしたら怪しまれてしまうのでずっと無視していたのだが、どうやらそれが気に喰わなかったらしい。


「「「……?」」」


 案の定、聖女たちは誰と話をしているのかという顔をしている。


「ともかく見ていてください!」


 ゴーストは意気揚々と言うと、壁へと突っ込んでいった。

 そのまま壁を通り抜け、向こう側へと抜けたらしい。


「わー、こっち、本当に部屋になってますよ! あっ、スイッチらしきもの発見!」


 どうやら内側からしか開けることができない仕組みになっていたようだ。

 しかしゴーストにそのスイッチを押すことができるのかと思ったが、念力的なもので押したらしく、


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――


 壁が轟音とともに動き出した。

 左右にスライドして、向こう側にあった部屋と連結する。


「どうですか!」


 ドヤ顔しているゴーストを余所に、リオンたちはその部屋へと足を踏み入れた。


 部屋の広さは地図に描かれていた通りだ。

 正方形の、何もない空間である。


 あるのはその中心に置かれた、直方体の大きな石の塊だけ。

 恐らくこの謎の空間は、この石塊のために作られたのだろうと推測できるが、


「これは何だ……?」

「わ、分かんないわよ……」


 どうやら聖女たちもそれが何か見当もつかないらしい。


「棺、でしょうか……?」


 聖女シアが呟いた通り、それは石棺のように見えた。

 ちょうど人が一人横になれるほどの大きさで、しかも蓋らしきものが付いているのだ。


「ということは、中に遺体が……」

「ひぃっ! こ、怖いことを言うな!」


 悲鳴を上げて抗議したのはメルテラだ。

 何十年も生きているというのに、この手のことは本当に苦手らしい。


「「あけるー?」」


 一方、双子は躊躇なくそれに近づいていくと、なぜかワクワクしながら蓋を持ち上げようとする。


 リオンは聖女たちの顔を見回す。

 こんなところに安置されているとなれば、眠っているのは恐らくこの国の関係者だろう。


「……開けてみてくれ」


 彼女たちも心当たりがないようだったが、棺の中身に興味があるのか、戸惑いながらも頷いた。


「「んしょ!」」


 双子が力を込めて蓋を持ち上げると、棺の横に置いた。

 ちなみにメルテラは部屋の端っこに逃げている。


「「「こ、これは……?」」」


 中身を覗き込んだ聖女たちが一斉に驚く。

 棺の中で身を横たえていたのは、彼女たちとそう年齢の変わらない美しい女性だったのだ。


 生命力が感じられないので、死んでいることは間違いない。

 しかし、腐敗した悍ましい遺体を覚悟していたのだが、まるで眠っているかのように綺麗な状態だ。


「つ、冷たい……?」


 棺の中から漂ってくる猛烈な冷気。

 どうやら冷凍されることによって、遺体がまったく腐敗することなく、死んだときそのままの状態を保っているらしい。


 だがリオンが最も驚いたのは、別のところにあった。


「似ている……いや、どう見ても同一人物じゃないか」


 その女性と瓜二つの顔をした人間がすぐ傍にいたのだ。

 人間、と言っても、すでに死んでいるが。


 そう。

 湖畔の街の宿で遭遇して以来、ずっと後を付いてきたゴーストである。


「えっ、ちょっと、何でわたしがこんなところで寝てるんですか?」

「何でもなにも、これがお前の死んだ身体ってことだろう」


 本人には自覚がないようだが、この棺の中で眠っているのが彼女の肉体に違いなかった。


「む? これを見ろ。何か入っているぞ?」


 モーナが何かを見つけて棺の中から取り出す。

 それはどうやらノートらしかった。


「……日記、と書いてあるぞ? もしかしたらこの女性の正体が分かるかもしれない」


 そうして中身をめくり出した彼女は、突然、目を見開いたのだった。


「これはっ!?」


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