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第107話 向こうに何かありそうだね

 あれからどれくらいの時が経っただろうか。

 忌まわしき人間どもに封印された我は、この地下空間に閉じ込められ続けている。


 だがこの封印も少しずつ劣化していた。

 恐らくそう遠くない未来に我の力に耐え切れなくなるだろう。


 その時までの辛抱だ。

 どのみち我は死ぬことはない。

 何百年でも何千年でも待つことができる。


 自由を取り戻した暁には、今度こそ人間世界を我が手中に収めよう。

 人間どもを従える絶対的な支配者として君臨するのだ。


 我はあらゆるものが欲しい。

 力も、富も、人間も。


 我の欲望に際限はない。

 それは我が、かの〝始原の悪魔〟の一柱〝強欲のマモン〟の右腕であるだからだ。


 マモンをはじめとする〝始原の悪魔〟たちは、その名の通り悪魔という種族の始まりとなった存在だ。

 しかし神々の怒りを買い、彼らはその身をバラバラに引き裂かれてしまった。


 それらが今どこにあるのか、健在なのかも分からない。

 だがその一柱の右腕である我は、長き年月を経ることで一体の悪魔と化した。


 ゆえにマモンの性質や力を受け継いでいる。

 それは〝終焉なき欲望〟


 あらゆる攻撃を無効化し、どんな傷も瞬時に再生してしまう。

 すなわち不死身。


 まさに〝強欲〟に相応しい能力と言えるだろう。


 ん?

 この気配は……?


 そのときだった。

 久しぶりに我のいるところに人間が現れた。


 一体何の用か。

 まさか封印が長くは持たないことを知り、改めてかけ直そうというのか。


 それは困る。

 幾ら不死身と言えど、待つのは好きではない。


 だが彼らが行ったのは、我の予想とは真逆のことだった。


 バキィンッ!


 なんと我を封印していた結界を破壊してくれたのだ。

 どうやら我自身を今度こそ完全に破壊しようとしているらしく、魔法や剣で次々と攻撃してきた。


 ふははは、無駄だ、人の子よ。

 我を破壊することは絶対にできぬ。


「――ディメンション・ゲート」


 な、何だこれは?

 我の背後に突然、謎の亀裂が現れたぞ?


 そうして空間にできた穴の向こうには、ただただ無明の闇が広がっていて……。


 ぬおおおおっ!?

 す、吸い込まれる!?


 我は闇の中へと放り出された。

 周囲には何もない。


 光も、空気も、物質も、魔力さえも。

 まったくの〝無〟の世界だ。


「破壊できないなら、どこか遠くに捨ててくるしかないよね」


 二つの世界を繋いでいた穴がゆっくりと閉じていく。


 ちょっ、待ってくれ!?

 こんな場所に我を置いていくだと!?

 何も存在しない世界では、我の強欲を一片たりとも満たすことができないではないか!


 だが我の訴えも虚しく、穴は完全に閉じてしまった。


 ……え?

 これマジ?


 完全な闇の世界に取り残された我は、途方に暮れるしかないのだった。






 ――その頃、魔界では。


「クソ! あの人間のガキめ! ボクの邪魔をしやがって……っ!」


 リオンに追い払われた悪魔アマイモンが、忌々しげに怒鳴り散らしていた。


「あの街に〝始原の悪魔〟の一柱、〝強欲のマモン〟の右腕が封印されていることは分かっているんだ……っ! そいつの力を取り込むことさえできれば、兄者たちを出し抜いて、ボクが魔界の帝王の座に就くことも可能だっていうのに……っ!」


 彼の父は現在この魔界の悪魔たちを支配する帝王だった。

 すなわち正真正銘の魔界のプリンスなのである。


 しかし帝位を狙う兄弟姉妹が大勢いるため、彼が帝王の座に就くことは容易ではなかった。

 だからこそ始原の悪魔の力を求めて、わざわざ人間界にまで配下を率いて進軍したのだが……失敗に終わってしまったのである。


「だけどあれで終わりだと思うなよ! 次は必ず手に入れてみせるからな!」


 復讐の炎をその目に滾らせ、誓うアマイモン。


 もちろん彼はまだ知らない。

 彼の狙う右腕が、すでに異界の彼方へと捨てられてしまったことを……。




     ◇ ◇ ◇




 悪魔の右腕を異界の彼方に飛ばした後。

 リオンたちは地上に戻るべく、迷宮を引き返していた。


「つまりこれでもう、この国が悪魔に狙われることはないってこと……?」

「たぶん、そういうことになりますね……」

「この国が長きに渡って抱え続けてきた問題を、あんなに容易く片づけてしまうとは……我々は一体、何をしていたのだろうな……?」


 長年の懸案が取り除かれたというのに、なぜか疲れたような顔で後をついてくるのは三人の聖女たちだ。


「これが機密事項でよかったですね……。見ず知らずの子供があっさり解決したとなっては、三聖女の沽券に関わりますし……」

「国民に知られずに済むというのが唯一の救いかもしれないわね……」


 そんな彼女たちのやり取りを獣人ばりの聴覚で聞いていたリオンは、これ幸いとばかりに提案した。


「じゃあ、今回のことはお姉ちゃんたちの胸に閉まっておく、ということでいいよね?」


 いきなり割り込まれて一瞬ぎょっとした三聖女たちだったが、もう散々驚かされ慣れている。

 すぐに我に返って、


「むしろ君たちはそれでいいのか?」

「うん」

「そうか……。しかしせめて何か褒賞ぐらいは出させてくれ。そうでもしなければ――って、つい少し前に似たようなことを言った気がするぞ……」


 元々は悪魔撃退への貢献についての褒賞を受け取ってもらう条件として、この地下迷宮へと連れてきたのだ。

 それが気づけばまた別の大きな功績が加わってしまっていた。


 と、そのときだ。

 リオンはあることに気づいて、足を止めた。


「……ん? この壁……」


 見たところ周囲と変わらないただの壁だ。

 だがリオンはそこにはっきりとした違和感を覚えていた。


「……向こうに何かありそうだね」


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