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第104話 チーズじゃなくて地図だよ

 王都の中心に位置する巨大な神殿。

 リオンはこの国を代表する三人の聖女たちに連れられて、その地下へと通じる巨大な扉の前へとやって来ていた。


「この先に君が知りたい答えがある」


 聖女モーナが神妙な口ぶりで告げる。


「我が国は遥か昔から幾度となく悪魔に襲われてきた。あの三重の結界はそれに対抗するために作られたものだ」

「じゃあ、やっぱり悪魔たちに狙われる理由があったってことだね」

「その通りだ。だがここで語るよりも実際に見てもらった方が早いだろう」


 モーナは扉に魔力を流す。

 するとゆっくりと扉が開き始めた。


 どうやらこの扉を開けることができるのは当代の聖女たちだけらしく、普段は立ち入りが禁止されているそうだ。


「本当にいいの、モーナ? あれはうちの最重要機密よ? 幾ら国を救ってくれたからって、おいそれと見せていいものじゃないと思うんだけど。だいたい何でそんなもの見たいのよ……」


 そう言って怪しむような目をリオンに向けてくるのは、聖女マリーだ。

 もし悪魔がリオンたちに化けていたとしたら、まんまと案内する羽目になってしまうとでも思っているのかもしれない。


 マリーの口ぶりに、モーナは苦笑を返すだけに留めた。

 もしリオンが敵の場合は、そもそもこんな回りくどい手を取る必要はないだろう。


「シア、地図はあるか?」

「ええと、ちょっと待ってくださいね」


 聖女シアがやけに大きな地図を取り出す。

 双子が首を傾げた。


「「ちーず?」」

「チーズじゃなくて地図だよ」

「不法な侵入者を排除するため、この先はダンジョンになっているんです。かなり複雑で、地図がなければ目的地に辿り着くのは困難でしょう」


 人工的に作られたものでありながら、相当な広さがあるという。

 各所にトラップが仕掛けられている上、魔物も徘徊しているのだそうだ。


 そのため聖女である彼女たちでさえ、滅多に立ち入ることはない。

 当然ルートなど覚えているはずもなく、地図を見る必要があった。


「ええと、最初の分かれ道を左ですね……たぶん」


 聖女シアのやや心許ない案内を受けながら、広大な地下迷宮を進んでいく。

 あまり地図を見るのが得意ではないのか、周囲の警戒は人に任せて彼女はずっと地図と睨めっこだ。


「お姉ちゃん、大丈夫?」

「だ、大丈夫です。ちゃんと地図を見てますし。ここは……右ですかね」


 相変わらず自信なさげに告げるシア。

 しかし実際には右に行ってしまうと最終的に袋小路になっており、引き返してこなければならないルートだった。


(うーん、そっちじゃないんだけどな)


 地図を見ていないリオンだが、【盗賊王】の持つスキルによってすでに正しい道を把握していた。

 シアが間違ったルートを選択しようとしているので、それとなく示唆してみる。


「本当にそっちであってる?」

「え? は、はい、大丈夫だと……あれ? ちょっと待ってください……ええと……」


 難しい顔でしばし地図を確認し、ようやく間違いに気づいたらしく、


「あっ、間違えていましたっ! 真っ直ぐ! 真っ直ぐです!」


 慌てて言いなおすシアに、メルテラが「大丈夫かのう……」と呆れたような顔をする。

 もしリオンが指摘しなければ、間違った方向に進んでしまっていただろう。


 さらに、地図にはトラップの位置も書かれているのだが、


「あっ、マリー、危ないです! そこの床、トラップがありそうです!」

「は? も、もうちょっと早く教えなさいよっ! 踏んでしまうところだったじゃない!」

「モーナ! そこの壁に触れてはダメです!」

「っ!? ま、待て! もう触ったぞ!?」

「大丈夫だよ、お姉ちゃん。僕がもう解除しておいたから」

「どうやって!?」


 もちろんリオンはトラップの位置もすべて把握していた。

 どれも魔法によって作られたものなので、魔力をぶつけて術式を破壊するなどすれば、簡単に解除することが可能だった。

 隠蔽魔法が施されており、そもそも見つけること自体が容易ではないのだが……。


 いずれにしてもシアが地図係に向いていないのは間違いなかった。


「誰か得意な人に代わった方がいいんじゃないかな……?」


 と提案するリオンだったが、モーナもマリーもワザとらしく明後日の方向を向いた。


「残念ながら、これでもシアが一番マシなんだ」

「そうね……わたしなんて神殿内でも迷うくらいだし」


 どうやら二人とも苦手らしい。


「くっくっく、ここはわらわの出番のようじゃのう! 見せてみるがよい!」

「あっ、ちょっと……」


 見かねたメルテラが、シアから地図を引っ手繰った。


「ええと、現在地はここじゃから……むう? こっちかの? いや、あっちか?」

「こっちー?」

「あっちー?」


 結局どっちにいけばいいのかと、身体を右に左にと揺らす双子。


「今見ておるから、ちょっと静かに待っておれ……うむ! 向こうのようじゃ!」

「違うよ、真反対だ」

「なぬっ?」


 意気揚々と名乗りを上げた割に、まったく役に立ちそうになかった。


「僕が見るよ」

「ふ、ふん! この地図は随分と見づらいやつじゃのう! もっと使い手の視点に立って分かりやすく作るべきじゃろう!」


 負け惜しみを言いながら、メルテラはリオンに地図を押し付けてくる。


「次は右だね。そこからしばらく真っ直ぐ進んで、百メートルほど先を左」

「よくそんなに簡単に読めますね……」


 本当は地図を読んでなどいないのだが、そこはわざわざ明かす必要はない。

 ともかくリオンのお陰で、その後は順調に進んでいった。


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