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第10話 スライムってこんなに強くないよな

「まぁいいわ、試験を受けるつもりなら登録が必要よ。こっちに来なさい」


 シルエに連れられて受付へ。

 窓口の向こう側に回って、彼女がそのまま対応してくれた。


「これに必要事項を記入してね。できれば嘘を書かないように。特に犯罪歴がある場合はちゃんと申告してね? まぁその歳だとさすがに大丈夫だろうけれど」


 もちろん凶悪犯はアウトだが、多少の犯罪歴があっても、ちゃんと処罰を受けていれば問題ないらしい。


 名前の欄にリオンと記入する。

 家を出た身ということもあり、苗字は書かないことにした。


「リオン? 勇者様と同じ名前じゃない」


 まさか同一人物だとは思わないだろう。


 ジョブには【調教士】だけを記入する。

 本当のジョブをすべて書いたりなんかしたら、さすがに目立ちすぎるだろうとの判断だ。


(厄介な依頼を押し付けられるかもしれないし)


 前世では行く先々で何度もそういうことがあった。

 勇者は便利屋じゃないんだと思いながらも、断れずに仕方なく受けていた。


 せっかく生まれ変わったわけだし、今世はのんびり生きていきたい。

 冒険者になるのはあくまで最低限の金を稼ぐため。

 出世しようなんて気はなかった。


「試験は早いものだと明日よ」

「試験って、具体的にはどんなものなの?」

「えっと、ジョブによっても違うんだけど……テイマーだと言うなら、たぶん模擬戦かしら? 試験官を相手に戦って、実力を見させてもらうことになるわ」


 リオンは礼を言って受付を後にした。

 試験は明日の午前中なので、それまで時間を潰さなければならない。

 ひとまず今晩泊まる宿を探そうと、街中を歩き出した。






 翌日、リオンは再び冒険者ギルドを訪れていた。

 その地下の訓練場には受験者と思われる人たちが集まっていた。

 大半が十代後半くらいの少年少女たちで、リオンほどの年齢はいない。


 少し待っていると、四十歳くらいの屈強な男性がやってきて告げる。


「オレが試験官のザラガだ。これより試験を開始する」


 それから威圧的な鋭い目つきで受験者たちを見渡しながら、


「言っておくが、オレの試験は甘くねぇぞ。弱い奴を合格させて、死んじまったら寝覚めが悪いからな。厳しく合否を判定させてもらう。よし、まずはお前からだ」

「は、はい」


 内容は聞いていた通り模擬戦のようで、最初の一人が緊張の面持ちで前に出た。


「がっ」

「ダメだな。不合格だ」


「くそっ」

「出直してこい。不合格」


「ひぃっ」

「おい、腰が引けてるぞ。そんなことじゃ魔物に食い殺されるのがオチだ。不合格」


 本人が言っていた通り、ザラガは受験者たちに容赦しなかった。

 次々と不合格を言い渡され、合格できたのは五分の一程度。


「強ぇ……まったく歯が立たねぇし……」

「あれが現役の冒険者か……」

「さすがだな……」


 不合格になった受験者たちが試験官に畏敬の目を向け、そんなふうに話している。


 一方、リオンはというと、


(……こんなに低レベルなのか?)


 受験者たちのレベルの低さに驚いていた。

 正直言って、兄のスネイルと大差がない。

 合格となった者たちでさえ、オーガに勝てるかどうかといった程度だ。


 あの試験官も強そうなのは見た目だけ。

 受験者が相手なのでかなり手加減しているのかもしれないが、その動きを見るに、恐らく本気を出しても大したことはないだろう。


 やがてリオンの番が回ってきた。


「さて、次は……なんだ、まだ子供じゃねぇか」


 ザラガは呆れたように溜息を吐く。

 さらにリオンの頭の上に乗っているスーラを見て、


「しかもテイマーか。……フン、そんな雑魚そうなスライム一匹じゃ、野犬にすら殺されちまうぞ」


 馬鹿にされたのが分かったのか、スーラが『なんだとー』と怒ったように身体を揺らした。

 そして勝手に飛び降りる。


「スーラ? もしかして戦う気か?」

『やってやるのー』


 驚いて問うと、やる気満々に身体を震わせた。


(大丈夫かな……?)


 試験官が弱そうだと言っても、最弱の魔物であるスライムだ。


(まぁ、さすがに殺されることはないと思うが……)


 とにかく一度戦わせてみて、危なそうなら加勢に入ることにした。


「あの子、テイマーなのかな?」

「ぷぷぷ、スライムだって」

「試験を舐めてるんじゃねーか」


 受験者たちが嘲弄する中、スーラはぴょんぴょん飛び跳ね、前に進み出る。


「……何でスライムなんかと戦わなきゃならねぇんだか……まぁ仕方ねぇか、これも仕事だしな」


 ザラガは面倒そうに、やれやれと溜息を吐いた。


 直後、えーい、とばかりにスーラが地面を蹴った。

 バンッ! という爆音が轟き、一瞬にしてザラガとの距離が詰まる。


「は? ……っとぉっ!?」


 ザラガは咄嗟に身を捻り、スーラの突進をすんでのところで回避。

 だがすれ違いざま、スーラは身体から伸ばした触手のようなものを、ザラガの身体に巻きつけていた。


 触手がゴムのように伸びた後、スーラはザラガへ目がけて再び飛来する。


「な、何だこのスライムはっ!?」


 ザラガはこれも辛うじて避けると、腕に巻きついた触手を振り解く。

 そうして初めて反撃に出た。


「おらっ!」


 ぴょん。


「このっ!」


 ぴょん。


「くそっ、ちょこまかとっ!」


 ぴょん。


 しかし地面を飛び跳ねるスーラを、ザラガの剣はなかなか捉えることができない。

 逆にスーラは隙を突いてザラガの身体にタックルを見舞った。


「ぬぐっ……!?」


 咄嗟に腕でガードしたが、ザラガの鍛え抜かれた身体は吹き飛ばされそうになった。


「こいつ、なんて重いタックルだ……っ!?」


 どうにか踏ん張ったザラガが、驚愕に目を見開く。


「ま、マジかよ、あのスライム……」

「試験官が押されてるだと……?」


 受験者たちも唖然としていた。


「……どういうことだ?」


 それはリオンも同じだった。

 まさかスーラがここまで動けるとは思っていなかったのである。


「ちょっと鑑定してみるか」


 そう思って確かめてみると、



スーラ

 種族:スライム

 種族レベル:1

 力:B

 耐久:A

 器用:B

 敏捷:B

 魔力:B

 運:B



「スライムってこんなに強くないよな?」



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