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眠り姫と第三王子  作者: 山下ひよ
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初めての旅

ようやく更新です!

大変遅くなりました。


 一日目は、グレイス王国からもっとも近い隣国の端の村に着いたところで日暮れが近付き、宿を探すこととなった。

 ギリアン一人であれば倍は進んでいた道程だが、旅に不馴れな少女が一緒ということで、ゆっくりと歩いていた。だが、リリィに勘づかれると恐らく不機嫌になるであろうことは予測がついたので程々にではあったが。

 ここで一つ問題が起きた。ギリアンの持ち合わせていた路銀では、ランドール王国までのことを考えると宿の部屋を二つもとるのは難しいということである。

 ギリアンの読みの甘さが招いた事態だ。

 そもそも、呪いで眠り続ける姫が実在することも、その姫を自分が目覚めさせる可能性も限りなく低いのだから、仕方ないと言ってしまえばそれまでだ。帰り道で連れが出来たこと自体、ギリアンにとっては想定外に近かった。

 例えばリリィがギリアンを運命の王子と受け入れ、好意的に出会えていたのなら一部屋でも全く問題はなかったのに、とギリアンは少し恨めしげにそんなことを考えたが、今更言っても仕方ない。

 

 宿屋の前で一人考え込んでいるギリアンの隣で、リリィが苛立ったように声をかけてくる。


「ねえ、いつまで待たせるの。さっさと部屋取ってきてよ」


 その言い方にカチンと来たが、そもそも自分の甲斐性の無さが招いた結果である。腹を決めて、正直に路銀のことを打ち明けた。

 すると意外なことに、リリィは僅かに眉をひそめたが、文句は言わなかった。


「別にいいよ一緒の部屋で。早くして」


 来る者拒まずだが基本的に紳士なギリアンは、さすがに恋人でもない妙齢の女性と同じ部屋は…、と言いかけたのだが、リリィの本気で苛立ったような視線に、結局は何も言えずその通りにした。



 二階の部屋に通され、荷物を置くとすぐ、ギリアンは食事をもらいに一階の食堂へ降りていった。

 ほとんどの客は食堂で食事を取るが、リリィは何しろ目立つ。その美貌と白い髪はあまりにも人目を引くし、初の長旅に疲れているようにも見えたので、いけ好かない相手とはいえ、休息は必要だろうと考えた。

 二人分の食事が乗った盆を持って部屋に戻ると、寝台に腰かけていたリリィが慌てて居住まいを正した。まるで何かをごまかすように。

 気まずそうな表情でギリアンを睨み付けるその様子に、ギリアンは違和感を覚える。

 まだ会ってそんなに経っていないが、ギリアンのリリィに対する印象から、こういう時は「遅い」と怒りそうなものだ。

 この反応はどういうものなのだろう。


「…どうした?」


 思わずそう聞いたギリアンだが、リリィに睨まれた。


「詮索しないで」


 短い拒絶の言葉に、ギリアンは思わず眉をひそめたが、結局諦めて盆を寝台から離れたところにあるテーブルに置いた。


「夕飯。口に合わないかも知れないけど、文句言わずに食えよ。ほらそこ座れ」


 そう言いながらギリアンは椅子に座り、リリィに反対側の椅子を示した。

 リリィはそれに言い返すことなく、少し躊躇した様子を見せた。しばらく視線を泳がせた後、突然言う。


「ねえ。私ここで食べるから、それこっちに持ってきてよ」


 ギリアンは唖然としてリリィを見つめた。

 寝台の上で食事を取るのは行儀が悪いとされている。平民ですらその考えが根付いているのだから、王族などもっての他だ。例外は病気の時くらいだろう。だから、王女のリリィがそんなことを言い出すとは思わなかったのである。


「…具合でも悪いのか?」 


 ギリアンがそう思うのも無理はない。

 リリィは再び気まずそうな表情を浮かべ、黙ってしまう。

 道中は会話もなく、リリィの顔をじっくり見ることもなかったが、今、明るい部屋で見たリリィの顔色は、わずかに青ざめていた。

 ギリアンが思わず立ち上がり、リリィの傍に寄ろうとすると、リリィは慌て始めた。


「な、何でもない! やっぱりお腹空いてないからもう寝る」


 だがギリアンが足を止めずリリィの前に回り込むと、とっさにリリィはスカートの裾で足元を隠した。

 その行動だけで、既に察しはついた。


「足、見せろ」

「女の子に何てこと言うのよ」


 リリィは誤魔化そうとしたが、ギリアンは膝を付いて足首辺りまでスカートをたくし上げた。確かに非常識な行動だが、こうでもしなければ確認できない。

 リリィが息を呑むのと、ギリアンが「うわ」と声を上げるのは同時だった。

 リリィの足の指と足裏のマメが潰れていた。それも両足とも、かなりひどい状態で。

 彼女が早く宿の部屋に行きたがったのも、食事を寝台で取ると言ったのも、もう歩けないからだ。

 ギリアンの心に後悔が押し寄せた。

 ずっと王女として育ってきた女性の、初めての長旅だ。どんなに気に食わなくとも、気遣いは必要だった。

 ゆっくり歩いたつもりだったが、そんな問題ですらなかったのだろう。そして、ギリアンに心を開いていない、気の強い彼女が、自分から弱音を吐くなどしてくれるはずもないのだから、ちゃんと配慮すべきだったのだ。


「…こんな足で歩いてたのか」


 呟かれた言葉に、リリィは歯を食い縛る。悔しいのだろうか、何と目に涙を浮かべていた。

 ギリアンは大きなため息をついた。


「ごめん」


 突然のギリアンの謝罪に、リリィは一瞬無防備な表情を浮かべた。


「何であんたが謝るの」


 嫌みではなく言われた言葉に、ギリアンは足の具合を見ながら答える。


「俺がもっと早く気づくべきだった。ごめん」


 リリィは何か言い返そうと口を開きかけたが、それを遮るようにギリアンが「手当てするから横になって」と言い、リリィは結局黙ってそれに従う。


「ちょっと痛むぞ」


 そう言ったギリアンの手当ては確かに痛かったようで、リリィは何度か呻き声を上げた。だが我慢しているようで、それがギリアンをますます申し訳ない気持ちにさせた。

 ギリアンは、旅に出るときに兄が持たせてくれた傷薬と清潔な包帯を使い、手早く手当てを終えた。リリィが小さな声で「ありがとう」などと言うので、驚いて片付けようとした包帯を一度取り落とした。

 そんなこんなで片付けを終えたギリアンは、上半身を起こしたリリィを突然抱き上げる。


「えっ! 何ちょっと」


 慌てたようにリリィが降りようとするが、ギリアンはそのままテーブルまで行き、椅子にリリィをゆっくりと座らせると、言う。


「さ、食べようか」


 リリィは突然のことに思考が追い付かなかったようで、呆然とギリアンを見つめていたが、我に返ると拳でテーブルをドンと叩いた。


「ま、前もって言え!」


 その美貌には似つかわしくない仕草と台詞に、ギリアンは初めて彼女に勝ったような気持ちになって思わず笑みを浮かべた。



 翌朝、リリィは熱を出した。

 足の怪我も原因の一つだろうが、百年の眠りから覚めた直後の旅は、姫君には無理があったのだろう。 

 ギリアンは、どちらにしろ路銀のために日雇いの仕事をする必要があったので、リリィには一日休んでもらうことにした。

 ギリアンが出掛けるとき、リリィはまたしても気まずそうな表情で寝台の上からギリアンを見つめていた。その顔が思いの外かわいかったので、ギリアンはわずかにときめいた。

 これを本人に言うと絶対に鼻で笑われるので、決して表に出さなかったが。


 

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