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眠り姫と第三王子  作者: 山下ひよ
14/15

向井京介


 初めて会ったときから、ゆりのことが好きだった。

 小さい頃から気遣い屋で、笑顔が可愛い幼馴染。

 素直になれず、だけど自分を見てほしくて、起こした行動はいつも彼女を泣かせてしまった。

 それでもゆりが自分に関心を向けてくれているのが嬉しくて、やめ時を失った頃には、すっかり嫌われていた。

 ゆりはすっかり社交的になり、高校では男女ともに好かれていた。

 誰にでも笑顔の彼女は、しかし俺にだけはその笑みを向けてくれない。

 悔しくて、情けなくて、それでも素直にはなれなくて、見せつけるように他の女にちょっかいを出したりした。

 ゆりはますます離れていく。

 

 そんな時だった。

 俺が親しくしていた女子グループが、ゆりを階段から突き落とした。

 聞いた時には血の気が引いた。

 俺の行動が、彼女を傷つけたのだ。

 部活を早退すると聞いて追いかけ、謝ろうとした。今、素直にならなくてどうする、と。

 だけど、謝罪の言葉はゆりに届かなかった。


 その日の夜、ゆりは病院のベッドで息を引き取った。


 階段から落ちたときに頭を強く打っていたことが原因だった。

 帰り道に俺の目の前で倒れ、そのまま目を開けることはなかった。

 白い顔。冷たくなっていく小さな手。

 ゆりの家族の泣き声が、どこか遠くに聞こえた。


 俺が殺した。

 俺のせいで死んだ。

 馬鹿なことばかりして、ゆりを貶めて、傷つけて、命を奪った。

 ゆりの両親は、俺を責めなかった。

 だけど俺は、自分を許せない。

 命の償いは、命を以て。

 何より、ゆりのいないこの世界に、いる意味がない。


 ゆりの葬儀の翌日、部屋で首を吊った。




 ああ、思い出した。

 思い出してしまった。

 京介は、あの世界で死んで、ギリアン・ランドールとして生を受けた。

 あの子に償うために。

 もう一度、あの子に会うために。

 あんな愚行はもう犯してはならない。あの子に素直に気持ちを打ち明けて、受け入れてもらえたなら、今度こそ幸せにする。

 あの子が俺を拒むなら、俺がいなくても幸せになるよう手を尽くす。

 そう決めていたのに、ギリアンとして成長していくうちに記憶をすっかり失った。

 そうして繰り返していたのだ。

 あの子を不幸にするという、愚行を。




 ギリアンの手の中にある、リリィの体。

 それはあの日のゆりと重なった。

 まだ死んでいない。死なせるものか。

 ギリアンはリリィを背に負い、両手に剣を持ってリリィの体を支えると、走り出した。

 目指すは、彼の家。

 城下町のどこからでも見えるランドール王国の城へ、彼は向かった。


 死ぬなリリィ。

 俺はまだ、言っていない。

 まだ大事なことを、言っていないんだ。

 お願いだから、死なないでくれ。


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