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眠り姫と第三王子  作者: 山下ひよ
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宮田ゆり

かなりご無沙汰していましたが、ようやく新作です!

お付き合い頂ければ幸いです!


 目覚めて最初に見たのは、やけに整った男の顔だった。


 目が合うとその男は頬を上気させ、憎たらしいほど爽やかな笑みを浮かべる。

 その唇が紡ぎだすのは、ぞくりとするほど艶やかな低い声。


「初めまして。私はあなたの運命の王子」


 その言葉を理解する前に、少女は男に思い切り平手打ちを食らわせた。



宮田ゆりは、どこにでもいる十五才の女子高生だ。

 家から近い県立の高校に、この春めでたく入学し、程々に友人がおり、さして強くない剣道部で厳しいとは言えない指導を受けている。

 性格は言いたいことは言う、毒舌とも言われるが、竹刀を持つ姿が凛々しいと男子より女子に人気のあるタイプだ。女子だけでなく男子とも比較的仲が良いが、そんな人当たりの良いゆりには一人だけ、どうしても好きになれない人間がいる。

 隣の席の向井京介は、小学校から高校まで同じという、いわゆる幼なじみというやつだが、昔からそりが合わない。

 顔を合わせればすぐにちょっかいを出してくる。ゆりがまだ大人しかった小学校の頃は、いつもからかわれて泣いてしまい、気の強い女友達に「ゆりちゃんをいじめないで!」と庇われたり、京介が友達に「ホントは宮田のこと好きなんじゃねえの?」と冷やかされて「そ、そんなんじゃねえよ!」と真っ赤な顔をして否定し、誤魔化すかのようにゆりに対してのいたずらが酷くなり…という思春期特有のあれこれがあり、ゆりは高校生になった今でも京介の事が大嫌いだ。


 当時の事を周囲の人間は、男子が好きな子にちょっかい出すあれだよね、と言っているのは知っているが、京介は今だにゆりに「ブス」とか「おとこおんな」と言ったワンパターンな冷やかしを繰り返しており、本当に好きなら高校生にもなって本気でアホなんじゃないだろうか、とゆりはもはや憐れみすら感じている。だが言われて気分が良いわけもないので、最近は無視に徹底していた。

 だが高校も同じ、クラスも同じな上、出席番号が同じだった為に席まで隣で、もう呪われているとすら感じる。

 だが高校生になった京介は腹が立つことにイケメンに育ち、女子からはもてはやされている。それでますます調子に乗ったのか、最近は他のクラスからも集まった女子に囲まれながら、ゆりにちょっかいを出してくる。

 こいつ絶対にいつか竹刀で脳天食らわせてやると常日頃から思っていたのだが、京介の取り巻きの女子から嫌がらせを受ける方が先だった。


 階段から、突き落とされたのだ。

 幸い大事には至らなかったが、手首を痛めてしばらく部活を休む事になってしまった。さらに頭を打って大きなコブができ、踏んだり蹴ったりだ。先生からは病院に行けと言われたが、京介に負けたような気分になるので行っていない。



 その日、部活に行けないため、いつもより早い時間に帰路についていると、後ろから「おい」と声をかけられた。

 聞き覚えのある声に苛立ちを覚えるが、無言で速度を上げる。


「待てよ!」


 焦ったようなその声の後、引き留めるように掴まれたその手首はよりによって痛めている箇所で、思わず「痛い!」と声を上げて相手を睨み付けた。

 ゆりの声に驚いて手を離した京介は、今まで見たことがないほど不安そうで、ゆりは目を見開いた。

 京介は離した手を開いたり握ったりしていたが、やがて覚悟を決めたようにその手をもう一度差しのべた。


「なに」

「荷物貸せよ。手痛めてんだろ。家まで送る」


 小学校が同じということは、家も近いという事だ。

 だが、当然ながらゆりは拒んだ。


「あんたに渡したらどこに捨てられるかわかんないじゃん」

「そんな事しねえよ!」


 声を荒げた京介を、ゆりは睨み付ける。


「あんたの事なんか信じる訳ない」


 京介は傷ついたような顔をする。被害者みたいな顔をするのが腹立たしい。

 もう話したくなくて、ゆりは背を向けて歩き出す。ややあって京介が追いかけてくる気配がする。

 頭のコブが妙に痛む。


「待てよ。俺、お前に言いたいことが」


 何だか気分が悪くなってきた。


「お前が階段から落ちたの、俺のせいだろ」


 耳鳴りと目眩が酷い。


「…宮田?」


 京介の声音が変わった気がする。何故か、気遣わしげなものに。

 気がつくと、ゆりは地面に寝転がっていた。

 否、転んだのではなく、倒れたのだと理解したのは、焦ったような京介の顔が視界に入ったから。


「宮田! しっかりしろ! 誰か、救急車呼んで下さい!」


 京介が妙に必死なのが変な感じだ。

 そんな事を考えながら、ゆりは意識を手放した。





 そして目を覚ますと、驚くほど近い距離にいる男が「運命の王子」とかのたまうので、手が出るのは致し方ないとゆりは思う。

 ましてやその自称王子が、大嫌いな向井京介と同じ顔をしていれば尚更である。

 ゆりは思い切り平手打ちを食らわした後、自称王子に怒鳴った。


「近い! 離れろ変態!」


 自称王子の端正な顔が、ちょっと笑えるほどポカンとした。



次回は王子の事情を少々…の予定です。

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