死刑囚と犯罪者の出会い
肺が痛い。
ーー雨が僕を責め立てる。
瞬きができない。
ーー雨音に紛れて足音がする。
足が痺れる。
ーー怒号が僕の背中を押す。
心臓が口から飛び出そうだ。
ーー痛い。
痛い。
どうして。なぜ。なんで。なにが。だれが。ぼくを。きみを。あのひとを。
突然体が浮遊感に襲われた。
重いがたんがたん、という音が近づいてくる。
光が遠ざかっていく。
僕は固い地面に体を打ち付けた。
起き上がることができない。
とんでもない速度で飛んでいく景色。
その景色と一緒に僕の意識も消し飛ぶ。
ぼやけた視界に赤いガラスが浮かんでいた。
ーーーーーー
随分酷い雨だ。
職業柄、いつも憲兵やらギャングやらに嗅ぎつけられたら追っかけ回されるが、今日はヤケにツイていなかった。どっかの刑務所から死刑囚が逃げ出したとか、ガキにマフィアの重要物分捕られたとか、どいつもこいつもピリピリする素敵なゴシップのお陰でこっちもとばっちりだ。どこの誰だが知らないが、全く持って迷惑極まりない。
貨物列車のコンテナの間、自分の側に置いた大事な「商品」が入った鞄が揺られている。がたんがたん、という重苦しい音を聞きながら冴えた頭で思考する。
ーー国境を越えるべきか?
ーーもしくは地下に潜るか。
ーーどっかの組織に寄生してもいいが、裏切られると危ない。
ーーコレを持って地下を移動するのはリスクが高い。
ーーやはり国境を越えてから潜るべきか。
黙々と今後の行き先を考えていると、いきなり何かが降って来た。
どすん、と重い音を響かせ僅かな振動を生み出したそれは、ぐでん、と力無く伸びている。驚いたが、もし憲兵やギャングだったら洒落にならない。取り敢えずどかそうとその物体を押すと、ばきり、という嫌な音が聞こえた。
ーーおい、まさか、嘘だろ。
慌ててその物体を乱暴にどかすと、下から潰れた商品を内包した鞄が現れた。慌てて鞄を開けると、胴から真っ二つに折れてしまった人形が出て来た。
腰が抜けた。心なしか涙まで滲んできた。三日三晩寝ずに造ったのに……!
突如、雨空を稲妻が駆け抜けた。一瞬だけ光った空に、落ちて来た物体の全貌が明らかになる。それは、顔も見えない程に体が包帯で覆われている子供だった。胸に黒い布に包まれた何かを大事そうに抱えている。
「この……クソガキ……!!」
両手にボッキリ真っ二つになってしまった人形を鷲掴みながら、落ちて来たクソガキを睨みつけた。何故か涙が自分の頬を伝った。前が見えない。