第五話 カンパイ
またしばらく空いてしまいました。投稿ペースを短くできるようにしたいです。
60万。改めて60万という額について考えてみよう……。全然わからない。人間ある一定の数字を超えると理解が出来なくなるというが俺の場合は60万よりは低いという事だろう……。低すぎない?
まぁ10万のお札にも触れたこともないし仕方ないと思いたい。
「国公立大学の1年間の授業料が53万ぐらいだ」
助け舟というかなんというかそういうのがほんとうまいな。なるほどそれだけの額があれば1年間のキャンパスライフが約束されるという事か……。結構な額になっているな。
「一体それだけの額をどうやって?」
「えっと……普通におこずかいとかお年玉とかを貯めて……」
お年玉って溜めておけるものなのか……。それはともかく思い切ったな。本体代もかかっただろうに、60万のあとだと小さな額に思えてしまうけど。
「というか、一度だけなら何とかなりますよ」
「ほんと!?」
リークの言葉にクロが飛びつく
「ええ、一週間以内という制約こそありますが、キャンセルを行う事は出来るはずです」
「へーそうなんだ」
「まぁ体験期間みたいなものだね」
「よかったじゃないです……どうしました?」
クロの方を改めてみると顔を引きつっていた。全然よさそうじゃない。
「いやーあのね、このゲームの登録少なく見積もっても2週間以上前にやってるんだよね」
ハハハと乾いた笑いが店内に響き渡る。
リークも顔を引きつっていた。たぶん俺も。
何だこの空気どうしてくれるんだこれ。
「気を取り直して、カンパーイ」
「うぇーい」
という事でシュワシュワと発泡する飲み物で乾杯した。まぁ、炭酸のジュースなんですけど。このゲームではというよりほとんどすべてのVRMMOでは未成年飲酒が禁止されている。理由としては、ゲームでお酒に手を出したあと現実でも手を出す可能性があるから(意訳)というわけだ。確かに違法行為と距離が近くなるのは避けるべきだろう。モンスターを倒しておいていまさら感もありますが。
「いやー今回は私事でご迷惑をおかけしました。わたくしクロこのゲームで生きていきます!!!」
「いえーい」
いわゆるやけ酒である。ジュースだけど。
あの後長い葛藤を得て、このゲームを進めていくという方針で心を決めたらしい。
「とりあえずチュートリアル?的なものをクリアしたいんだけど……」
「このゲームにはチュートリアルないよ」
「なんで!?」
そういえばなんでだろうな、受け入れてた
「一応目的としては、ユーザー同士のコミュニケーションを円滑に始められるようにするため、らしい」
「なるほど、確かにチュートリアルがなければ今この状況になってないね」
「って、チュートリアルがないと私どうしたらいいかわからないんだけど」
「えっとだな、まずはギルドに行って、職業を登録するんだ」
「ギルド。分かった、行ってみる」
いや絶対わかってないでしょ。ゲームの知識がほぼ皆無と思われる人を一人にするのは気が引ける。
「まって、ギルドがどこにあるのかわかる?」
「そういえば……」
「乗り掛かった舟だ、案内くらいさせてくれ」
「え、でも……」
「イーからイーから」
リークが人に無条件で親切にするのは何か裏があるときだけど、人を傷つけることは絶対しない奴ってのもわかっている。ここは押させてもらう。
「職業についても説明があった方がいいでしょ」
「……ご厚意に甘えさせていただきます」
「堅苦しいのはなし、とりあえずギルドに向かいますか!」
「そうだ姫、これ付けて」
「ん?」
リークから渡されたのはローブ。フードの端っこのあたりに幾何学模様みたいのが描いてある。
「これは?」
「魔女のローブ。魔法使いが付けると姿を誤認させることが出来る代物だ」
それは急いでいるときとかに便利そうだな。
「でもいいの珍しいものみたいだけど」
少なくとも、今まで見たことがないものだ。
「今回は効果がどれくらいなものか知りたいからな」
研究熱心なことで……。ともかく、ローブを着てみる。
「どう?可愛い?」
姿見鏡がここにはないので、他人の目から判断してもらう。
「可愛い可愛い」
適当にあしらうような返事。リークにとっては見た目よりも効果の方が大事だから仕方ない。
会計を済ませ外に出よう。