第四話 イン ザ カフェ
「まだクリアした人いないから……」
リークのセリフを最後に場が固まる。
正確には固まったのはクロだけだ。俺はパフェを食してる。
さっきからパフェを食べることしかしてない。
「まぁ、そんな簡単にクリアできてもつまらないものね」
台詞に余裕があるけれども、その声は震えている。
「それで? 今現在どれくらいクリアされてるの?」
「……ほ……、……リアさ……てない……」
「え?」
「ほぼ、クリアされてないんだ……、それが……」
「またまた~、ご冗談を、このゲーム始まって……どれくらい経ってるの?」
「だいたい……一ヶ月くらい……」
「……」
まさしく絶句、そんな表情をしている。流石にクロが気の毒になってくる。
「クロさん、何かこのゲームにこだわる理由ってあるんですか?」
「……え……」
「特にないなら、普通にほかの性別が変わったりしないゲームを始めればいいんじゃないかな~って」
「あ……うん」
クロはバツが悪そうに頬をかく。
「それもそうなんだけどね……」
自分ではフォローのつもりだったが、むしろ追い詰めてしまったのかもしれない。困惑とも取れる表情とも浮かべている。
「何か事情があるなら話してほしい」
リークがまるでクロを慮るようなことを言うが、こいつにあるのは好奇心だ。このゲームにこだわる理由、それが知りたいんだろう。こっちとしては面倒ごとに巻き込まれたくないのだが……。
「事情……ってほどじゃないんだけど……。お金がもったいないな~っと思って……」
このゲームは一ヶ月に5000円前後の利用料が発生する。 決して安くはないがバイトをしている高校生には余裕で払えるだろう。しかし、一ヶ月分利用料を払ったとして、その後三日でやめるとなるともったいない。ドブに捨てるのと同じだ。
お金に余裕がある大人だったら、すっぱりとやめることもできるんだろうが。
「じゃあ、一ヶ月でやめればいいんじゃない?」
「あ、いや実はですね……一番高いコースで申し込んでしまいまして……」
なるほど、それじゃあやめるにやめられない。一番高いコース。確か一年間だっけ?
「いや、このゲームの一番高いコースは永久コースだ」
「永久コース、そんなのあったっけ?」
名前の響きからして、ずっとプレイできる料金設定なんだろう。いくらかかるかまったくもって想像できない。その上いつまで続くかもわからないものにお金を出すものがいるのだろうか?いや、目の前にいるんだけども……。
「オンラインゲームは不安定だから、基本無視されるんだけどね……。ちなみに料金設定は約十年分」
「……十年分って」
このゲーム十年も続けられるのか?サービス的な意味でも、プレイヤー的な意味でも。
そして十年分という金額、単純計算で5000×12×10……
「60万!?」
思わず声に出してしまった。仕事をしてない学生からしたら、この金額は大きいなんてものじゃない。仕事をしていても簡単にだせるものでもないだろう。
「さすがにやめるわけにはいかないでしょ」
クロは軽い感じでいっているが、心の内はわからない。わからないことだらけだな……。