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第一話 ようこそ

 携帯電話の着信音に起こされ、友人から二つのことを伝えられた。

 一つはゲームへのログインが可能になったこと、もう一つは友人のログインが遅れてしまうので先にログインしていてもよいということ。

 「そうする」と言うとすぐ電話を切られたから、相当急がしんだろう。忙しいなら後でいいのに。いいやつであるんだけど損な性格だな。

 さて、どうするか。ここは普通なら待っておくべきなんだろうけども……。友人に「そうする」といった手前実行しないと嘘になる。嘘をつくのはいけないことだし、手元の機械も作動してるししょうがないんだ。

 そんなよくわからない言い訳をしてログインを開始した。


 

――――


機械へ感覚をゆだねると短い時間で認証が行われる。システムが自分を自分自身だと認めてくれたあと、ゲーム選択をすることができる。選択するのはTrans Sexusal Online。

 ログインに成功するとゲームの世界が目の前に飛び込んでくる。ゲームは問題なく始まった。

 ここでの自分であるアバターになれたようだ。久しぶりに――と言っても一日程度だが――入る体に違和感を感じないわけはない。頭からつま先まで触れてみたり、ジャンプをしてみたり、軽く走ってみたりして肉体と精神を同期させる。一言でいえば準備体操だ。

脳から発せられる命令と体の動きとの違和感がなくなったところで街を一周しようと歩き出す。いくつかお店も増えているようだし、待っている間の暇つぶしになるだろう。イベントリを確認すると運営から手鏡が届けられていた。いわゆる、ネタアイテムだろう。

 周りを見ながら歩んでいく。メンテナンスが明けてから時間がたっていないこと、今日が平日のど真ん中なこともあってまだ人もそんなにいない。ゆっくりと見て回れるだろう。

 いろんなお店があり、中には現実にあるお店とタイアップを行ったものもある。お店のほうは世界観との調和を重視しており、ロゴの色とかを渋めに変更しているということだが中はあんまり変わらない。あいつが来たら入ってみるとするか、一人で入るのはちょっと恥ずかしい……。

 「あ、あれは……もしかして……」 

 目に入ったのは現実で行列それも大行列が形成される人気のスイーツ店だ。もっと近くで見てみようと思い、お店の方にかけていく。と、人にぶつかってしまった。

 「あっ、すみません……」

 顔を上げると金髪のイケメンが困惑した顔でこっちを見ている。

 「こっちこそごめんね、えっとけがはない? 」

 イケメンにふさわしいかっこいい声をかけてくる。しかし、そのイントネーションなどに違和感が生じる。女言葉のイントネーションになっている。このゲームでは声は補正してくれるが流石にイントネーションをどうこうすることはできない。初心者が苦労するところで上位に入り、それを直すというか違和感を消すためのトレーニング施設があるぐらいだ。ともかくこのイケメンはこのゲームを初めて日が浅いということだ。

 「えっと……、けがはないです。そちらこそ大丈夫ですか? 」

 「うん、私も大丈夫だよ」

 そもそも、このゲームのシステム上街にいるときはダメージを追わないのだが、今そこに触れるのも無粋だろう。「でわ」と言ってとその場を去ろうとする。

 「まって……」

 と呼び止められた。何かと思って少し身構えて次のことばを待つ。

 「ちょっと……このゲームのことで教えてほしいことがあるんだけど……。いい? 」

 「え、ええ分かることであれば」

 もともと何かすることがあるわけでもない。断る理由も見つからないし了承する。

 「ありがとう!」

 彼の顔がぱぁっと明るくなり喜んでることがいやでもわかる。感情をあまり隠さない人なんだろう。

 「ありがとう、同じ女の子のプレイヤーに教えてもらえるなんで心強いよ! 」

 え?あぁ、そういうロールかな?確かにそれがTSOの本来の設定ではあるんだろうけど、いかんせん珍しいから反応に困る。

 そういえば……、あった……。

 アイテム欄からさっきの手鏡を取り出して、イケメンに渡す。イケメンは戸惑いながらそれを受け取るととりあえず、自分を映す。イケメンは固まってしまう。時間がゆっくりと流れる。しばらく経ったかのようにも、一瞬のようにも思えたが、イケメンは「は? 」と短く言ったあと

 「え?なにこれ、どういうこと?だれ?この男の人。これってつまり鏡だよね?このゲームの鏡は別の人の姿を映す機能なの?え?違うの?つまり、これは私?私、男なの?いやいやいや、私は女だよ。生まれた時から死ぬ時まで。私、この鏡に映っている男に見えてるの?そういえば声にも違和感あるし。え?え?バグなの?ミスなの?これどうやったら治るの。というか治せるの?どういうこと?どういうこと? 」

 わかりやすく狼狽えるイケメンを目にして次はどうすればいいかとか、段階を飛ばしすぎたかもしれないとかそういうことしか考えられない。とりあえず一刻もはやく落ち着かせるべきだとは思う。が、どうしたらよいかわからない。見守ることしか出来ない。

 ちなみにこの現象はバグでもミスでもない。仕様だ。もともとこのゲームはこういう風にできている。だから、目の間のイケメンの狼狽えはこのゲームのコンセプトにはあっているんだ。 

 関係ないことを棒立ちで考えていると、イケメンがパニックから少し立ち直ったようだ。

 「ねぇ、これどういうこと? 」

 自分を指さしながら、涙目になりながらこっちに聞いてくる。説明すべきなんだろうけど、自分ではうまく説明できない。一体友人は何してるんだ。と八つ当たりもしたくなる。こういうときの情報屋《インフォメーター≫だろうに……。とりあえず、間を持たせなくては、気持ちだけが焦っていく。

 「えっと……」

 続けた言葉はベストでもベターでもなくバット言えるだろう。

 「ようこそTrans Sexual Onlina。通称TSOへ」

 

 

 

  

 

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