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パレットはもういらない  作者: 真咲 透子
『恋のメロディーを聴かせて』グレン編
3/30

3. かつての上司と再会

 グレン=バルドー少佐──。


 前世で私の上官あった人物だった。


 性格は敵には容赦なんてないという冷徹な一面がありながらも、仲間や部下想いな人物であった。いつも冷静で凛としていて、私が迷ったときには厳しいながらも導いてくれた。私も部下を持っていたので、上官の手本は彼だった。


 かつて色を失った私に色を取り戻してくれたのはグレン少佐だった。そして───その逆も。


 どうしようもないほど、彼のことが好きだった。

絶対に報われないと知っていても、彼を想うだけで幸せだった。憧れとも似つかない慕情を滲ませてずっと少佐の背中を追っていたのだ。



 そんな、私の中のグレン少佐は、間違っても恋愛小説家なんかにはならない。


 この人に何が起こったんだ!?『恋のメロディー』とか(笑)乙女か。

知りたくなかったかつての上官の一面を知ってしまい、内心パニックだった。私の中の少佐像が崩れていく。しかし表面は取り繕って挨拶をする。私は、感情を隠すことは得意だった。


「サラです。よろしくお願いします」


 差し出された手をおそるおそる握る。……うわぁ、変わらずごつごつしてる。この人本当に小説家か?小説家を隠れみのに何かやってるんじゃないか?特殊部隊とか。……やばい、否定できない。グレンさんは、穴が開きそうなほど私のことをじっと見ていた。


(やばい、はかられている)


 私が前世の記憶を持っているか、そうでいないか──。

記憶を持っているとばれるのは避けたかったので、何でもないふりをする。


「ええと、どうされましたか?」

「……いや、なんでもない。」


 ふぅー。おそらく大丈夫だろう。まだ疑いの目で見られているが。


「そろそろ時間だから、サラ行こうか。申し訳ないのですが、グレンさん、私たちはこれで」

「はい、わざわざありがとうございました」


 グレンさんが頭を下げた。わー少佐が頭下げてるーしかも敬語だー。新鮮。唯我独尊イメージしかなかったからね!!その部屋に混乱を残して、私たちはスタジオへと戻った。


「クラリス先生って男性だったんですね」

「あぁ。サラ、さっき君を連れて行ったのは先生がサラのファンだと仰ったからなんだ。ぜひ会いたい、と。……先生が男性だってことは秘密にされているから、くれぐれも誰かに話したりしないように」

「はい」


 まだ心臓がドクドク言っている。色んな考えが頭の中をよぎるが、衝撃が強すぎて何もまとまらない。ただ一つ、思うことは。


 なんでだ!?私確実にロックオンされてるし!!


 グレンさんにはきっと前世の記憶がある。そうでなければ、オーディションのあの演技で私のファンだなんて絶対言わないはずだ。迷わず耳鼻科コースだ。救急車呼んでもいい。緊急手術ものだ。


 彼の目的は何なのだろう。


 彼は勿論、私も今はもう新しい生を受け、歩んでいる。前世なんか関係ない。そう、割り切っていたはずなのに。



(どうして………)


こんなにも心が揺れるのだろう。


(もう、私はかつての『サラ=アベカシス』ではない)


 あんな心が乱される感情を、激情を、そして痛みを───。知っているのは今の『私』ではないのだから。


絶対に、彼を好きになることはない。


(もう何も考えるな。今からアフレコが始まるんだ)


 私は歩きながら、サラ=アベカシスから今日の物語の『ヒロイン』になるべく感情を切り替えた。

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