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パレットはもういらない  作者: 真咲 透子
『続きは生徒会で!』クリス編
28/30

28. 成就

「『続きは生徒会で!』のアニメ見た!?」


 学校に着くなりディアナは私に話しかけてきた。収録は佳境だが、昨日からアニメは始まったんだっけ。昨日はプロデューサーの久々『ドキッ地獄と地雷だらけの特訓✰』だったので家に帰った瞬間寝た。(しごかれながら、『お前は最近自覚がなさすぎるもっと注意をしろ』云々言われたけれど身に覚えがなさ過ぎて、いつものただの八つ当たりだと思った。説教が倍になるのは確実だったので当然口には出さなかった)


「あ〜……見るの忘れてた(リアルタイムで)」 


 1話はリテイクの多さと波乱の嵐で今でも覚えているけどね。


「えー!!絶対見てってあれほど言ってたのに!」

「ごめんごめん。帰ったら見るよ。どうだった?」


 さりげなく聞いたつもりだが、私が声優として演じたキャラクターが出たアニメの感想を聞くときはいつも緊張する。演じた自分と見ている人ではやっぱり感じ方は違うので。

 特にディアナの感想は私がもう少し改善すべき点だとか、的を得たものが多い。過激なファンは監督と同じくらい侮れない。


「絵は原作の雰囲気出てたしクオリティ高かったかな。主人公ちゃんかわいかったし、ルカ様もイメージ通りって感じ」

「そうなんだ?」

「ルカ様はサラだもん。少年・青年役の王道じゃん。安定感あるよね。なんで『恋のメロディーを聞かせて』でマリー役したかいまだにわかんない」

「……だよねぇ」


(言われてますよー、グレンさん)


 大丈夫、おそらくラブロマンス系主人公はこれきりだから。プロデューサーからも『あれはもう忘れろ。夢だった。他のことを極めろ。オファーもこねぇ』って言われたから。最終的に形にはなったけど、私より適役はごまんといるので普通のオーディションじゃ絶対通過は無理だ。


「それよりもバーレント!スターライトのクリスがやってんだっけ?バーレント役クリスってあんな声だったんだーとは思ったんだけどバーレントって感じじゃないのよねぇ。元は声優じゃなくてアイドルだし、テレビの企画で急に決まったみたいだから仕方ないけど。ちょっとがっかりかな」


 クリスのこと、別に嫌いじゃないんだけどね。


 そうつけ加えたディアナは、予鈴が鳴ったので自分の席に戻っていった。担任の先生の話を聞き流しながら、1話のアフレコについて思い出していた。そうだろうな、と思う。あのときのクリスはあまりにも不出来だった。


(でも、回を重ねるごとにバーレントになっていった)


 そこはクリスの努力の結果だと思う。昔のよしみでなんとかしてやろうと思ったのに、アドバイスらしいアドバイスは一つだけだった。


(あぁ、大人になったんだなぁ。……もう一人でも大丈夫なんだな)


 前世では才能はあるけどまだまだ詰めが甘いから隊長の私が見てやらなくてはと思っていた。それがなくても私が見つけてきた子だったから思い入れもあったし。クリスの成長は本当に楽しみだった。


(なんともいえない寂寥感……これが子供の巣立「アベカシス!!!!」


 突然大声で名指しされて体が反応する。顔を上げると笑っているけど目の奥が笑っていない先生が私の目の前にいた。


「何度も呼んだのにやっと目が合ったなァ。お前、目を開けながら寝ていたのか?あ??」


 目を逸らしたくても逸らせない緊張感が私を襲う。「昼休み準備室」そう言い残して先生は教室を出て行った。5限目は先生の授業なので、授業準備を手伝わされながらのお説教だろう。『サラーどんまーい』とにやにやしながら言うディアナを八つ当たりだと思いつつ頬をつねった。教えてくれてもよかったのに!!



「どうして……」


 バーレントの協力のもと必死で追ったオブジェの行方。ただ本物が見つかればいいと思っていた。犯人捜しをしていた訳ではないのだから。きっと庶民出の庶務係を気に入らなかった一般生徒の仕業だ。しかし蓋を開けてみれば、まさかの生徒会内部からの犯行。しかも、


「なんでお前がこんなことをやったんだ。やりすぎじゃないか?ルカ」


 犯人は生徒会長ルカ・アルバトフだったなんて。静かながらに怒りの声を上げるバーレントを一瞥し、なおも表情を変えなかったルカがため息をついた。


「なにほだされているんだ」

「ほだされてなんかないさ。俺はただ、生徒会の一員として同じ生徒会の──彼女を助けただけだ」

「同じ生徒会の、ね」

「何が言いたいんだ。悪ふざけなら度が過ぎているぞ」

「お前も知っているだろう、生徒会庶務のくじ引きなんてただのパフォーマンスに過ぎないと」

「……っ」

「え?」


 確かに、庶務をくじ引きで決めるだなんて変わっていると思ったけれど、パフォーマンスとは……?


「生徒会長なんて入学当初から決まっているも同然だ。ほぼ家柄や影響力で決まる。他の生徒会役員も然り。暗黙の了解だ。ただこれではやっかみや反発が大きいから庶務をくじ引きで決めて反感を逸らしているだけだ。くじ引きしたってこの学園の生徒だ。それなりの生徒が庶務を担当する。毎年ほぼ──お飾りだとしてもな」


 庶務をくじ引きで決めていた理由がこんなものだったなんて、驚きを隠せない。ただ、今回はとルカは続けた。


「今年は思惑以外の生徒が選ばれてしまった。庶務とその他の生徒会役員とのパワーバランスがあまりにも違いすぎて問題が起こりすぎた。多少の問題は目を瞑れる。だが、問題を起こしすぎる無能をこのまま生徒会として置いていていいのかと疑問に思った」

「彼女は無能なんかじゃない!一生懸命オブジェを探し、君までたどりつけたじゃないか」

「そうだな」


 思いのほかルカはあっさり頷いた。素直すぎる反応に目を見開くアラベラとバーレントに対して、淡々と語った。


「真相にたどりつけなかったらこれを原因について庶務を下りてもらうつもりだった。俺だってわかるまでにいくつか細工をしたからな。分からなくても当然だと思っていた。だが、」


 ここでまっすぐにアラベラを見据える。


「お前は俺のところに来た」


 認めてやるよ、お前は生徒会の一員だ。……歓迎はしないけどな。


 ルカはその後アナウンスで、オブジェの騒動は庶務の実力をテストするものだった、騒ぎを大きくしたことへの謝罪とともに今後アラベラに危害を加えたら生徒会への攻撃だとみなすということも含めて他の生徒に知らしめた。



「はい、カット!オーケー!!」


 一発でオーケーが出たことで肺に入っていた空気とともに力が抜けた。今のは結構よかったんじゃない?そわそわしながら監督の言葉を待つ。


「ルカ役、アラベラ役この調子で頼む。バーレント役──」


 えもしれぬ緊張感が漂う。監督は一呼吸を置いてそして、


「いままでで一番良かった」


 ついにクリスは監督から褒められた。新人にはかなり厳しいと評判で、しかも初っ端から心境もよろしくなかったアイドルのクリスを。周りの空気がざわりと揺れた気がした。

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