27. お誘い
「どうしてそんなに頑張るの?」
くじで決まった今年の庶務は、一般家庭出身の女の子だった。ただでさえ、羨望と嫉妬の目で見られる生徒会。彼女をよく思わない生徒はたくさんいた。
生徒会の象徴であるオブジェが何者かによって壊されていた。
静かに激昂しているルカに、一人の生徒がぽつりと言った。
「そこの庶務の方が何かしたのではなくて?」
「ほら、私たちとは やっぱり違うでしょう」
「庶民の考えることなんてわかりませんもの」
そこからぽつぽつと沸いてでてくる声は明らかに悪意のある決めつけだった。否定する彼女にルカは言う。
「庶務、仕事の時間だ。このオブジェを元通りにしろ」
できなかったらお前を生徒会員から除籍する。
ルカも本当に彼女が壊したとは思っていない。きっと彼女をよく思わない生徒の仕業だろう。だが彼女が騒ぎの中心にいるのは事実。その落とし前をつけてもらうことと、他の奴らを黙らせるチャンスを与えたのだろう。
「どうしてって……。あの壊れたオブジェはイミテーションだった。本物はきっとどこかにあるはずです」
「君を嵌めるための罠だったんじゃない?まともに探しても見つからないよ」
「そうだとしても!!」
彼女は真剣な目をして言った。
「生徒会長からもらった、はじめての仕事なんです!絶対にやり遂げてみせる!!」
「……」
「それに、生徒会の象徴として、代々受け継がれてきたものをあんなふうに貶めてしまったこと、その原因を作ってしまった私も許せないです」
あぁ、彼女は全て知っててこの不利な仕事を引き受けたのか。この子はなんて——。
「ふぅん。俺も手伝うよ」
面白そうだしね。
驚いた顔をした後、花が咲いたように笑う彼女をみて、悪くないなと思った自分におどろいた。
「はいカット!!」
カットの合図で少し肩の力が抜けた。今回はバーレント=メイネスの回でクリスが中心だ。しかし——。
「クリスくんいいね!」
「随分よくなったよね」
「ありがとうございます」
クリスの演技、上達早くない?何があったの。
あの監督も無言だからOKということなんだろう。他の人達に囲まれているクリスに声を掛けられるはずもなく。
(まぁ、仕方ないか)
アフレコはこれで終わりなので、挨拶をして部屋を出た。クリスの視線に気づくことなく。
もしかしたらクリスは本当に、監督から褒められるかもしれないなー。私何言われるんだろう。想像がつかない。今の私がクリスに出来ることなんてたかが知れてるんだけど。
前の私なら「隊長返上してください、僕が隊長になって今までの分たぁっぷりお礼して差し上げますよ」とか言われそうだったな。うん、心当たり多すぎる。
「あれ、着信が入ってる」
携帯を見てみると、なんとグレンさんの友人であるロシェルさんからだった。グレンさん経由で番号を教えあった後、親しくさせてもらっていた。(グレンさんはものすごーく嫌な顔してたけど)
「もしもし、こんにちはサラです!」
『あら、サラちゃんこんにちは。ごめんなさいねぇ急に』
「いいえ!!どうしたんですか?』
『実はね、1ヶ月後にまたこの前のホールでピアノのコンサートをすることになったの。よかったらグレンと一緒に聴きにこないかなって』
「えっ!!」
ロシェルさんのピアノのコンサート!行きたい!!
(そういえば、一ヶ月後だったら『続きは生徒会で!』の収録も終わってる頃か)
一段落ついた頃ではある。が、グレンさんと一緒、は色々と複雑だな。こんな気持ちであの人と顔を合わせてもいいのだろうか。 ……でも。
「……行きたいです」
『そう!嬉しいわ』
詳しいことはまた後日連絡するわね、と携帯は切れた。
(私もそろそろあの人と向き合わないといけない)
伝えてみようか。私も、前世の記憶があると。そして。
——今の思いを。




