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パレットはもういらない  作者: 真咲 透子
『続きは生徒会で!』クリス編
26/30

26. 再起

「でも、前回よりもだいぶ良かったよね」


 2回目の収録が終わった後、大人気アイドルなのに今日の予定はこれだけで暇だと言ったクリスとめったに人が来ない階段に腰かけて話す。

余談だけど階段の踊り場ってなんで踊り場っていうんだろうね。ダンスでもするのかな。こんなせまいスペースで。


「ありがとうございます」


 私の言葉に珍しく素直ににっこり笑って答えた。おおぅ、レアだ。前世まえ褒めたときは鼻で笑ったり嫌味言ったりしてたのに。普通に笑ってたら昔びいきを引いてもかわいいな。さすがアイドル。


「やっとスタートラインに立てただけですよ。まだ監督をあっと言わせていないので。あのときの約束、覚えてますよね。たーいちょう?」

「…………」


 前言撤回。何が『たーいちょう?』、だ。全然かわいくない。恐ろしいほどいい笑顔でいいやがって。


「忘れてはいないけど、あの監督はめちゃくちゃ厳しいからそりゃもう覚悟が必要だよ」

「わかっていますよ。前回でびっくりするほど身に染みたので」


 クリスは肩をすくませた。正直私は監督からクリスが褒められるのは五分五分かなと思っている。声優一本でやっている私でさえ褒められたことは1、2回しかない。


「バーレントとアレックスさん似ていたでしょ」

「えぇ、とても」

「ちなみにクリスは『続きは生徒会で!』だとサンデルだよね」

「なっ!」


 『続きは生徒会で!』の登場人物サンデル=エッセリンクは、ちょっと生意気で弟気質なキャラだ。生徒会長であるルカと張り合おうとしてちょっと背伸びして話そうとするところが、母性本能をくすぐると一部では人気のキャラである。


「……そういうサラさんはケント=バストンですね。おバカで抜けているところとかそっくりです」

「なんだと!?」


 サンデルとは逆にルカを尊敬していて、女の子大好きで、ヒロインちゃんにも目がないケントは確かにテンションはグレン少佐を追いかけていた私に似て……いや、あそこまでひどくないよ!?いや、第3者目線からはそう見えていたってことかな!?ショック!!


「いや、ないないない。ってことだと前世まえの軍みたいじゃん」


 いっつも無表情でクールなグレン少佐とそれをフォローするアレックス少佐。何故かグレンさんには立てついちゃうクリスとグレン少佐を敬愛し、そして愛を叫んでいた私──。


 うーん、関係性は似ているような気がしてきたぞ。しかし、前世まえの軍という言葉を聞いた途端、クリスは黙りこんでしまった。


「なーに考えているの?」

「……いいえ、別に」

「答えてあげよっか?クリス君の考えてること。──私、気づいてたよ」


 軍の最後のほう。


 そうぽつりと言った私の顔を凝視するクリスに苦笑した。前2人で食事したときに話そうとして何かつっかえたような彼に知らないふりをしていたが、今の『クリス』にはそろそろ話してもいいかな。


「気づかないわけがない。あんなあからさまな態度。何よりも秩序を大事にする上層部うえが何もしてこないのはおかしいだろ。私か周りかはたまたどっちもか──。罰則がないのは明らかに別の目的があるはずだ。私はおとりにされていた」

「…………」

「途中から何の囮にされているんだろうと考えていたんだけど、エルダ少尉から取引を持ち掛けられてね。隣国の間者だったんでしょう、彼女」

「そこまでわかっていたならどうして」

「今だから言えるけど、あのときの私も魔法使いの『代償』で苦しんでいたんだよ。ギリギリだったし投げやりだったりで確信が持てなかった。グレン少佐への嫉妬とあてつけで彼女を悪役に仕立て上げたいがための妄想なんじゃないかって」

「そんなっ!!代償なんて……!なんであのときそんな重大なこと黙っていたんですか!僕、何度も言いましたよね!?何かあったら言ってくださいって」


 肩をつかまれ、その力の強さにクリスの怒りが伝わってきた。思わず体がこわばると、彼ははっとした顔になり、手にこもった力が弱まった。


「いや、そういうことじゃなくて、もうすべて終わってしまったことだけど、でも──」

「そう、すべて終わってしまったことだ。どうすることもできなかったよ。私も、クリスも──グレン少佐でさえ」

「それでも、僕は、あなたを助けたかった。……あなたには、笑っていてほしかった。」

「クリス──」


 不器用で誰よりも優しい彼だから、私がいなくなったときは随分と苦しんだんだろう。そう考えると心がぎゅっと握られたような感覚がする。私はそっとクリスの手に自分の手のひらを重ねた。


「そんな顔をしないでくれ」


 手のひらから伝わる彼の体温は、私たちがちゃんと生きている証だ。だから──大丈夫。


「その気持ちだけで私は十分だよ、あのときの『私』もいつも心配してくれた君がいたから最後の大戦まで頑張れた。ありがとう、クリス」

「隊長」

「ねぇ────『楽しいことは見つかった?』」


 あの時からずっと聞きたくて聞けなかった質問。


手紙の上で問いかけるしかなかった心残りをクリスへと投げかけた。『一緒に探しに行こう』なんて大口叩いて何もできなかった私を、クリスはどんな風に思っただろうか。ちゃんと、見つかっただろうか。私がいなくなった後、どんな風に生きたのだろうか。


「隊長、いや、──サラさん」


 やっと彼の言葉を聞ける──そう思って一つの覚悟を決めたとき、一瞬の沈黙をついてクリスの携帯電話が鳴った。


「「……………………」」


 現代機器って便利だけど空気読まないよね。鳴りやまないそれに取らなくて済む理由など見つからなくて、「失礼」と咳払いをしてクリスが通話ボタンを押した。横でぼーっと聞いていたそれは、仕事が新しく入り、打合せのためにすぐに迎えをよこすというものだった。さすが売れっ子アイドル。やっぱり君、暇なんかじゃなかっただろう。


 電話を切った後の、新しい仕事が入ったことだけじゃない憂いを帯びた横顔に私はまだ話さないでおいたほうがよかったかもと少し後悔した。


「別に平気ですよ」

「え」

「いえ、平気ではないですけど。話さなければよかったと思わないでくださいね。むしろ話さなかったら怒ってましたから」

「クリス君はエスパーなの?」


 なんでわかったの、という私の呟きに、階段を下りていたクリスは振り返りふっと笑った。


「隊長の一番の部下で、あなたと同じ魔法使いでしたから」


(そうだったね)


 彼の答えに私も笑みを返した。 

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