24. 2人の本心をサラは知らない
「この度は急に押しかけてしまい、すみません」
「いえ、かまいませんよ」
無事(?)事務所に到着した私たちを待っていたのはローラントプロデューサーだった。
「一緒に練習することで、彼女もクリスさんから得るものはあるでしょうし」
プロデューサーは爽やかな笑顔でそう言った。うわぁ、爽やかすぎて逆にうさんくさいんですが。爽やかさをそのまま受け取れない私が歪んでいるのかな。
「そうだよ、クリスは気にしないでもいいよ。ローラントはこれで僕に大きな貸しができるって高笑いしてたんだから」
「お前は余計なことを言うな」
あー、貸しになったんだ。やっぱり裏があったんだなー。エリクさんごめんなさーい。半眼になりながら意外と和やかな雰囲気に、私はほっとした。そのとき、エリクさんの電話が鳴った。
「クリスのマネージャーから電話きた。ごめん、ちょっと先行ってて!」
「分かった。場所は分るよな。先に行ってる。──では、クリスさんこちらへどうぞ。……サラ」
「はい」
やっぱりこのままなぁなぁで済んでくれないよね。わかっていますとも!エリクさんに言った言い訳は結構無理があったからなぁ。プロデューサーにはどう説明しようかな。スタジオまでの道を歩きながらプロデューサーは私に小声で問いただす。
「お前、いつの間にクリスと仲良くなったんだ?顔合わせてせいぜい3回くらいだろ」
「それは私のあふれ出る魅力ってやつですよ……ってあいた!!」
えっへん!といばったら無言で頭をはたかれた。ひどい。
「声優になってからは3回くらいしか会ってませんが、クリスさんがアイドルになる前からの昔からの知り合いだったんですよ。最近は疎遠でしたけど」
えぇ、この国がドンパチしてたときから知ってますよー。まぁ、『前世』から知ってるんですぅなんて言ったらそのまま病院コースですけどな。
「その割には最初会ったとき無反応だったじゃねぇか」
「昔の知り合いがまさかアイドルになってるなんて思わないじゃないですか。確信がなかったんです。あそこで、「もしかして、会ったことあります?」だなんて聞けないですよ。どこの勘違い女かって思われますよ」
「まぁ、確かに」
これ、クリスに記憶なかったら危ない人になるわ。私の言い分にプロデューサーもなんとか納得したようだ。これでもう大丈夫かな。
「どうして一緒に練習するかはエリクさんからお聞きになられてると思いますが、あの監督だから早めにどうにかした方がいいと思いまして」
「それはあるな」
「私も、特にクリスさんは時間取れないじゃないですか。一緒に練習するなら今日しか時間合わないって話になったんです」
「理由はわかったんだが、お前がどうしてそこまでするんだ?」
「結構仲良かったんですよ。……彼のこと、弟みたいに思ってましたしね」
前世は前世、現世は現世って割り切れるって思ってた。そりゃ、起こってしまったことにやるせなさとかは感じてるけど、もう大丈夫。その辺の折り合いはついてる。でも。
グレンさん達前世の人たちと出会ってしまった。
彼らのふとした表情。変わらないところを見ると、前みたいに割り切るって思えなくなってしまった。
本来だったら、今回かぎりであろう共演している声優とアイドルって関係。ほぼ顔見知りの他人だ。でも今、クリスが困っているのならクリスの為になんとかしたい。ほっとくなんて無理。
(クリスには前世にとらわれるなっていったのに)
結局私もクリスと同じだ。
「そうか、って、ん?弟??」
「あ」
(まずい!!今私のほうが年下じゃん!!!!)
うまくごまかせたと安心しきった私は思わず口を滑らせてしまった。6つも年が離れているのに、弟はないよね。ここまでうまくいってたのに!どうしよう。今から言い直す?でもそれじゃ不自然だし……。
「……昔、そういう『ごっこ遊び』をしていたんですよ。ねっサラさん」
「お、おおぅ。そうなんですよぉ〜、ついクセで。ははは」
「ふーん。……お前、クリスさんを弟呼ばわりとかすげぇな」
「はは、は」
鶴の一声ならぬクリスの一声によって首の皮がつながった私だった。クリスに「ねっ✰」のときにぽんっと肩に置かれた手。あの、けっこうな力入ってるよね?指が肩に食い込んでない??でもこいつは、不自然じゃない絶妙な時間とタイミングで手を離したのでプロデューサーに気づかれることはなかった。……前から思っていたけど、クリス君、結構陰湿だよね。私知ってる。
こっそりとクリスに話す。
「フォローありがと。私の肩は犠牲になったけど」
「僕はあなたの弟なんかじゃないです」
「それは分っているよ。もののたとえじゃん」
「…………」
あれ、なんか不機嫌?私が姉じゃ不満か?あんなにかわいがってやったのに……いや、私でも私みたいな姉は嫌だな。
「決めた」
「うん?何を?」
「あなたからもらうごほうび」
「…………お手柔らかに頼むよ」
ふふふ、と笑うクリスに私は嫌な予感しかしない。




