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パレットはもういらない  作者: 真咲 透子
『続きは生徒会で!』クリス編
20/30

20. 追憶(下)

ローラントプロデューサーと一緒にいた人物とは、そう。かつての少佐であり『スターライト』のマネージャーである、アレックスさんだった。


「随分と仲がよろしいんですね」

「そうなんですよー。ローラントプロデューサーとは大学時代からの付き合いなんです」

「はははは」


 笑顔でエリクさんは話す。プロデューサーもにこやかだが、……目が笑ってない。怖い。


「へぇ。いいですね」

「いえいえ。お見苦しいところ失礼しました」

「おや、君は……」


 アレックスさんは私に目を向ける。


「こんにちは!マクネアさん。先日ご挨拶しましたルカ・アルバトフ役のサラです。……お疲れさまですローラントプロデューサー」

「そうか。時間だったな」

「お忙しいのであれば日を改めましょうか?明日とかでも」

「そうだな……」


 むしろそうしてほしい。今日はプロデューサーに呼ばれていたのだが、アレックスさんがいると気が休まらない。


(グレンさんとクリスには記憶があった。じゃあ、)


 アレックスさんは──?


 たくさんたくさんお世話になった少佐で、お話をしたいのはやまやまなのだが。うかつに近づかないほうがいいだろう。好奇心は猫をも殺す。もうあの2人で手一杯だ。正直これ以上ややこしくしたくない。


「大丈夫ですよ。私たちはもうこれでおいとましますから。──そうだ、サラちゃん」

「な、なんでしょう?」

「役作りのコツとかってないかな?クリスがうまくいっていないらしくてね。声だけですべてを表現するのは初めてだから苦戦してて」

「はぁ」


 アレックスさんに話しかけられてドキマギしていたのだが、クリスの役作りの話だった。あぁー、なるほど。アレックスさんはマネージャーだもんね。……私、クリスに直接わからないことあったら聞いてって言ったんだけど。私の言ったことを無視したのか?クリスのくせに生意気な。


「教えてもらえたら嬉しいな。ね?」


 クリスについて内心呆れていたのだが、アレックスさんの頼み込むときの──前世まえと変わらないお茶目な仕草に私はなつかしさを感じ、思わずくすりと笑ってしまった。あわてて表情を元に戻す。


「ふふっ……すみません。えぇと、そうですね。一番は何度も練習することだと思いますが、役を迷わせないことですね」

「迷わせない?」

「制作者側が求める役、ファン側が求める役、自分が演じようとしている役──たくさんあると思います。考えれば考えるほど役が増えていきますが、自分がこうだ!と思った役を最後まで演じ切ることが大事だと思います。先ほどマクネアさんのおっしゃった通り、私たち声優が表現できるのは『声』だけです。少しの迷いが役をブレさせてしまって制作者側にもファン側にも伝わってしまいます」

「…………」


 アレックスさんは真剣に話を聞いている。その隣でプロデューサーは視線を外して口元をおさえている。──お願いやめて。こんな語り、私が一番恥ずかしいんですから!笑わないでください!! 


「それは私たち声優が一番避けなければならないことです。──マイクの先に立った瞬間、その役を演じられるのは『自分』しかいないのですから」


 これでいいだろうか。そっとアレックスさんのほうをうかがってみる。するとぽん、と頭を撫でられた。


「マクネアさん……?」

「あぁ、ごめんね。なんだろう、どうしてか『頑張っているな』って思ってしまってね。サラちゃんと会うのはこれが2回目なはずなのに、初めて会った気がしないんだよ」

「…………」

「ありがとう、クリスに伝えるね」


(──やっぱり変わってないなぁ)


 心が少しずつ温かくなっていくのがわかった。これってセクハラじゃないよね?なんておどけて言うので私は笑ってしまった。

 その後アレックスさんたちは挨拶をして帰っていった(エリクさんはまだ帰りたくないと渋っていたが)。


「プロデューサー、今日はどうして呼ばれたんでしたっけ?」

「あー。……あぁそうだな」


 プロデューサーは何とも言えない顔で私を見る。最近そういうことが増えたのだが、どうしたのだろうか。「やっぱりアレックスさんは良い人だったなー」と呑気に思っていた私は、「こいつ最近なんか危なくないか?」とプロデューサーが密かに思っていることを知らない。

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